第十六羽:外伝2・雪原に咲く花
厳しい現実 少女の運命は……
暖かい。良い匂いもする。ここは……
「……家?」
目を覚ますと私は自分の家に居た。ぼんやりとする頭で考える。
そうだ。私は吹雪に飲まれて死にかけた。そして誰かに助けられたんだ。
「気が付いたかい?」
すぐ側にはその時に見た防寒着姿の人物が座っていた。
「ありがとう……助けてくれて……」
「さぁ、起きたならコレを食べて。ちょっと調理場を借りたよ?」
良い匂いの正体。スープだ。
一口。おいしい……。頭はまだはっきりとしないが落ち着いてきた。状況を整理する。
隣に座る人物。助けてくれたし、害は無さそうだがまだろくに話してもいないんだ。安心は出来ない。
体の上にはありったけの布団を被せてくれている。吹雪で奪われた体温は戻りつつあった。
結論としてはこの人は命の恩人で、悪い人では無さそう。意気込んで後にした家に即座に帰ることになったのは本当に情けない。
しかしまともな食事なんて久しぶりだ。体が温まる。お肉まで入っているなんて……
「?」
お肉? おそるおそる食べる。……鶏肉だ。そう言えば見当たらない。
「……フォウ、小鳥のフォウは……?」
「え? あぁ、あの小鳥、非常食じゃ無かったのかい? すまない」
防寒着の人は器を指差す。目眩がした。フォウ、ごめん、ごめん、ごめん……
「嘘だよ~」
部屋の奥からフォウが飛んできて頭の上に乗る。
「ね?」
ね? じゃ無いよ。私は手当たり次第に物を投げつけた。
「いやぁ、暴れたなぁ」
何故か防寒着の人は満足そうに言った。部屋は荒れに荒れた。
「助けて貰って何ですけど、言って良いことと悪いことがあると思います!」
「うん、気を付けよう。でも体を動かして温まったろ?」
否定はしない。が、余計な体力も使ってない?
「で、外の人ですよね? 何でこんな集落の近くに居たんです? 別に何も無いですよ、ここ」
「君に会いに来た。間に合って良かった」
私に?
「実は旅が好きでね。今はこの集落の東にある町を訪れている。数日前、気になる話を聞いた。私が訪れる前に、ある重症患者が運びこまれたと言う物だった。酷い凍傷だったよ……」
「会ったの?」
コクリと頷く。
「命に別状は無い。でも、もう自力でここまで帰ることは無理だろうね」
「その、……まさか……」
「君の父上だ」
父が、無事? 生きている?
「君を連れ出しに来た。父上は一人残してきた君の身を案じている。君が望むならば準備は出来ているよ」
そう言うと、荷物の中から防寒着の一式を取り出した。この人が着ている物より一回り小さい。
「この町は凄いね。こんな環境で生活出来ているなんて。でも、人々は生きるのに精一杯で、優しさは忘れてしまっている。君を運んだ時もあまりに無関心で腹が立ったから、君の家だけ聞いてぶん殴ってしまった」
「みんな、この世界は死んでいるって言う」
防寒着の人は首を振る。
「どんなに厳しくても手を取り合う事は出来たはずだ。死んでしまったのは人々の心だよ」
私は気になることを尋ねた。
「この集落の外には、春はある……?」
「ある」
即答だった。その声も、瞳も真っ直ぐで、とても嘘とは思えない。
「あるんだ……やっぱり春はあるんだ!」
「春どころか、私の故郷では四季がある。昔のように順番通りでは無いけどね」
四季まで? もしかしたら、もしかしたら母の故郷にも行けるかもしれない!
「さぁ、どうする?」
そんなの決まっている。始めからそのつもりだったんだから。
「見たい! 春を! 四季を! 連れて行って下さい!」
防寒着の人は微笑んだ。
「よろしく。私はリタナシア」
「この子はフォウ。私はサクラ。よろしくお願いします!」
それは昔、春に咲いた花の名前。母のくれた名前だ。
待っていて、父さん、母さん!
次回予告
「これは、驚いたな……」