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第十五羽:外伝1・雪原の出会い

雪に閉ざされた世界と人々の心

 この世界は死んでいる。大人の人は口を揃えてそう言う。


 集落の中はどこを歩いても俯く人ばかり。空も分厚い雲に覆われている。


「はぁ、今日は何かあるかな……」


 この集落一帯は絶える事無く雪が降る。止むことなんて年に数回だ。食べ物も不足し、最悪食べられない日もある。今も食料を探すが食べ物と呼べるものは見つからない。


 かつて世界には四季と言うものがあった。今はもう昔の話しだ。私の父だけは口癖のように言っていた。この集落の外には今も春があるんだと。集落の人達は信じなかったけれど。集落の一歩外に出れば吹雪だ。確かめようも無い。


 そんな父が春を証明すると言って家をでたのはもうだいぶ前になる。集落の人達は父を愚か者だと嘲笑った。


 でも、私の死んだ母は外から来た人。いつも聞かせてくれた春の話は到底作り話とは思えない。私達家族だけが信じている春。


 食料を探して歩いているとコソコソと声がする。


「可哀想に。外から来た女の嘘に踊らされて……」

「今も信じているのかしら?」

「親が親なら子も子さ。関わらない方が良い」


 うるさい。うるさい。うるさい!


「嘘なんかじゃ無い! 春は……暖かい世界は必ずある! 絶対にあるんだぁ!!」


 その場を駆け出す。嫌だ。もう嫌だ。どうして誰も信じてくれ無いんだ!


 家に帰ると私は荷物を纏めた。出よう、この集落を。どうせ私一人では、このままでは生きて行けない。このまま野垂れ死ぬくらいなら外の世界に出てやる。そして父と母が正しかった事を証明してやる!


「おいで、フォウ!」


 奥からパタパタと小鳥が飛んで来る。唯一の家族、小鳥のフォウだ。この子が居たから寂しい日々も乗り切れた。


「一緒に行こう、フォウ」


 こうして私はこの集落を捨てた。次に帰るのはここの人達を見返す時だ。そう誓い、家を後にする。







 ザクザクと雪を踏みしめる音が響く。凍えるように寒い。幸い歩け無いほど吹雪いてはいなかった。この調子なら行けるかもしれない。

 フォウは服の中でモゾモゾと動いている。窮屈だろうけど、我慢してね……

 もうだいぶ歩いた。休みたいけれど寒さを凌ぐには雪をかき分けて穴を掘るしかない。中は意外に暖かいと教えて貰った。


 良い場所はないかと周囲を見渡す。その風景に愕然とした。


「……うそ、でしょ?」


 もう相当離れたと思っていた。歩いて、歩いて、歩いて……。


 振り返った先にはまだ地元の集落が見えている。


「っく……!」


 予定変更。休んでなんて居られない。進むんだ! 前へ!


 ただ、ただ、歩みを進めた。しばらく進むと少し風が強くなってきた。それは徐々に激しくなってくる。


「こんな……負けてたまるかぁ! 負けて……たまるかぁぁ!!」


 一歩一歩踏み出す。しかし牙を剥く自然に抗う術はない。非情に吹き付ける風は私の体温と気力をどんどん奪って行った。



 

  

 また歩き出してどれだけたっただろう。ついにその場に倒れ込む。もう躰が思うように動かなかった。


「動い……て……」


 やっぱり無謀だったのだろうか。悔しさが込み上げる。


「ごめん……父、さん……母さ、ん……」


 そして付き合わせてしまったフォウ。涙が頬を伝う。


 ギュッ、ギュッと雪を踏みしめる音がする。自分のでは無い。誰? 誰か、居る?


「これはいけない。どうしてこんな子供が一人で……」


 そっと目を開ける。確かに目の前に人が居た。最後の力を絞り出す。


 「た、すけ……て……」


 私の意識は深くへと沈んでいった

次回予告

「いやぁ、暴れたなぁ」

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