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第十二羽:残された選択肢 前編

厳しい環境ーー

上手くいく事ばかりではありません

 今の世の中、犯罪なんて犯す奴はバカだ。そう思っていた。自分がこんな状況になるまでは……


 もともとは馬車を引いていた。人々の交通手段として一定の収入はあったし、不満があった訳では無い。

 ただ、他の商売敵と比べると、あまり愛想が良く無いせいか、業績は今一つ。妻や子供は、充分食べていけるのだからと、気にする様子は無かったものの、やはり家族には楽をさせてやりたかった。


 そこで思い切って仕事を辞め、野菜農業を始める事にした。食事は必ずなくてはならい物。当たれば今より稼ぎが増えると読み、家族を説得し多額の費用を投じた。

 

 誤算だったのはシキミドリだ。思い当たる店を全て回ったが、どこにも置いていなかった。設備は整えたのだからしばらく無くても大丈夫だろうと、見切りをつけて作業を開始したのだが、これが大きな間違いだった。


 慣れない作業と力仕事で披露が溜まり、その日は春だった事もあり、誘惑に負けてつい、仮眠をとってしまったのだ。

 肌寒さで目覚めたわたしが急いで向かった畑で見た物は、急激な気温の低下で元気を失った作物達だった。


 後日、わたしが仮眠をとり始めた頃、シキミドリはすでに冬を知らせていたと聞く。シキミドリさえあれば仮眠なんてとらなかったんだ。あれは回避出来た事態だった。


 その一件で作物の半分は駄目になり、残りの半分も散々な出来。完全に事業は失敗した。


 その後も何とか挑戦するも、その時の失敗が脳裏をよぎり、睡眠もままならず、家族ともすれ違うばかり。

 少しの売り上げは借金の返済にあて、自分達は残った野菜で食いつなぐ日々が続いた。


 もう限界だ。最近は余裕が無く、妻にまで当たってしまう。すでに状況を打破する唯一のシキミドリも買う資金は無い。


「だったらもう、盗む(取る)しか無いじゃないか……」


 家族に黙って早朝から出発した。目的地はここ、レスト・パーチと言う店だ。運転手の頃に時々お客さんの話題に出ていた。


 ここにはシキミドリがある。


 年寄り夫婦と少女の三人暮らし。わたし一人でもどうにかなるだろう。一番良いのは店内のシキミドリを誰にも見付からずに盗める事だが……





 結局踏み込む事が出来ず、もう6時を回っている。今日は諦めて帰らなければ。妻も子供も居ない事に気付いているだろう。しかも今朝は冬だ。あの日を思い出して気分が悪い。


 カランと音がする。身を潜め様子をうかがうと少女の姿があった。


「ふぅ、寒い……雪は降って無いね。良かった」


 クルッと振り返る。


「ふぐっ!!」


 転んだ。雪は降っていないが、朝露など原因はある……か?


「だ、大丈夫かい?」


 はっと顔を上げる。


「お、おはようございます! いや、お恥ずかしいところを……」


 少女はいそいそと服を整える。この子が三人暮らしの内の一人か……わたしは腹を括った。


 声を掛けた以上後戻りは出来ない。


「すまない、お嬢さん。今から出掛けたいんだ。朝から失礼だと思ったけど、シキミドリ、見せてもらえないか?ここしか思い浮かばなかったんだ」


 少女はキョトンとした。しばらく間を置いて……


「分かりました。まだ開店前でごちゃごちゃしてますが」


 そう言ってドアを通す。


 本当にすまない……


 何度も心の中で謝った。

次回予告

「ありがとう……ございます!」

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