第九羽:この時間を大切に
みんなの集うレスト・パーチ
「暑いねぇ……」
「今日で何日連続だっけ……?」
「5日かな……」
ここはレスト・パーチ。連日の暑さでお客さんも少なめです。同じ季節が続く事は珍しくないけれど、夏が続くとちょっと厳しいです……
「で、今も持ってるのか……?」
いつもの席に座るニックが小声で聞いて来る。シキミドリの事だろう。
暑い日はどうしても薄着になるので、服の中に入れても分かってしまう。
「そりゃあ、流石にねぇ。薄着だから……」
「そっか、だよな……」
「腰袋にお金とかと一緒に……」
「って、持ってんのかよ」
むぅ、ずっと持ってたからやっぱり無いと落ち着かないんだもん。
「いや、まぁ。この前は俺も動揺して余計に不安を煽っちまったからな。今までみたいにこっそり持ってりゃ問題無いだろ。どうせあいつが帰って来ない事には何にも分かんないんだ。それまでは悩むだけ無駄だし、普段通りでいようぜ」
「うん。そのつもり」
あれから色々と思考を回転させても、結局出る答えは一つだった。
あの人を信じよう
今はそれで良い。どうしてもあの人が良くない事を考えているとは思えないから。
「さぁ!暑さに負けず頑張ろう!」
声の調子を戻して気合を入れる。いや、でも暑い……
「今度は夏のせいで倒れるなよ?昨日も工場の奴が一人病医行きになったんだ。この忙しい時に、勘弁してほしいぜ」
「あらら。ニックも注意してね。あ、でもニックが倒れたらちゃんとお見舞い行くから! 安心していいよ!」
この前実感した。誰かに側に居て貰えるとそれだけで元気が出て来る。私も誰かが弱っている時は元気を分けてあげたい。うん!
「えぇっと……脈有りなのか、完全な対象外なの分かんねぇなぁ、もう……はぁ……」
何か呟いているけど聞き取れない。でも雰囲気がすごく落ち込んでいる。何故?
「まぁ、もしそうなっても安静が一番だろ。絶対寝てるだろうから来ても無駄」
「えぇ~。でも、確かにそうか……」
むぅ、看病も難しいな。
「んじゃ、そろそろ行くな。今日も泊まりだから晩飯も食いに来る」
「うん。待ってるね」
本当に忙しそうだ。無理はしないでほしい。
実のところ例の事で少々気持ちが沈んでいた。こうして他愛のない時間を過ごせるのは大切だと思う。ありがとう、ニック。
私はどんなに悩んでも、厳しい環境でも、やっぱりみんなとわいわいやっているのが楽しい。
ねぇ、あなたはこの世界の事をどう思っている?私は……
「大好きだよ……!」
次回予告
「今日も一日、頑張ろう!」