プロローグ:とある伝承
それは古い書物に記された記録
それは昔の話
この世界には巡る季節がありました
春・夏・秋・冬
四季と呼ばれるこれらの季節は、決まった周期で訪れて、時には景色で楽しませ、時には暑さや寒さで困らせたりと、人々の生活の一部として親しまれていました
あるとき誰かが言いました
『私は暖かな春が好き』
別の誰かは言いました
『私は生命力溢れる夏が好きだ』
他の誰かも言いました
『実り豊かな秋が好きです』
続けて誰かが言いました
『静かで幻想的な冬が好きなんだ』
皆は譲りません
そんな言い合いを見かねた一人の少女が神様に願います
『あぁ、神様。皆が喧嘩をしないように、いつでも皆が好きな季節を楽しめるようにして下さい』
翌日、世界は一変します
前日まで青々と茂っていた草木に白い雪が積もっているのです
夏から冬へ
これがこの世界の新しい季節の始まりでした
以降、時期を問わず、秋の翌日に夏が来たり、その日の午後には冬となったり、目まぐるしく季節が訪れます
予測出来ない季節に翻弄され、人々は困りはててしまいました
誰かがぽつりと言います
『こんなの、まるで季節が天気のようだ』
それから月日は流れ、人々の中で季節と言う物は「そう言うもの」へ変わっていきました
あるとき、一人の少年の前に一枚の羽が落ちてきました
その羽は綺麗に輝き、気に入った少年は家に持ち帰って部屋に飾ることにします
数日後、少年はあることに気づきます
その羽は季節によってその色を変化さたのです
観察を続けると、色は季節によって春夏秋冬と変化しました
さらにそれは季節の変化が始まると共に徐々に広がるので、まだ人が季節の移り変わりを感じる前に、次に来る季節を知る事ができたのです
これは大変な発見だと、耀く羽の話は瞬く間に知れ渡り、皆でその鳥の捜索も行われましたが、羽が数枚見付かったものの、鳥は終ぞ発見できませんでした
羽は近隣の地域にも分配し丁寧に扱われ、季節を知る手段として大切に受け継がれていくことになります
そして、人々は姿を見せぬその鳥を、幻となったその鳥を、今もひと目見ようと追い求めているのです
感謝と希望を込めて、付いた呼び名は……
『四季を見る鳥』ーーシキミドリーー
次回予告
「いらっしゃいませ!」