表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

月見草のおもいで

作者: 春さくら
掲載日:2018/06/08

 月見草のおもいで


 ざわめいていた会場が、幕があがったとたん、シーンと、しずまりかえりました。バレー「森のなかま」のはじまりです。

 しろいくもがながれて、森の動物たちがでてきました。音楽がひときわ大きくなり、しろいドレスをきた少女が おどりながらやってきました。

 会場から、大きなはくしゅがおこりました。

 一番前にすわっていた さとしの目が、まんまるくなりました。そして、

「うっそだー」

と、つぶやいて、シッと、となりの子にしかられてしまいました。

 第一幕がすむと、その少女は、ひっこんでしまいました。つぎからつぎに あたらしいおんなの子が登場します。でも、、もう さとしの目には何もみえません。

 あの子です。

 いちばんはじめにおどった少女は、幼稚園のとき、とおい町にこしていった ゆかちゃんです。あの大きな目は、わすれられるものではありません。

 舞台は、あっというまにおわってしまいました。さとしは、まっすぐ楽屋へいきました。

 いました。少女は、しろいドレスのまま、みんなのあいだをうれしそうに とびまわっていました。

「きみ、ぼくだよ。ほら、小さいころ、いっしょにあそんだだろ? 北林さとしさ」

 少女は、大きな目をもっと大きくして、さとしをみつめていましたが、だまって くびをよこにふりました。

「きみ、幼稚園のさくらぐみのとき、ひっこしていっただろ。ぼく、ずっと わすれなかったんだ。きみ、この町にすんでたの わすれたのかい?」

 さとしは、かなそしうに少女をみつめました。

「ずっとまえ、すんでたことがあるって、ママがいってたわ。でも、私 おぼえてないの。だって、あんまり むかしのことなんだもの」

少女はつぶやくと、ひらりと身をひるがえして かけていってしまいました。

 むかしのことだって…、つい3年前のことなのに…。

 そとは、もう夕暮れでした。道ばたに、今ひらいたばかりの月見草がさいていました。

 月見草…。

 この花をみたら、きっとあの子は、おもいだす。ゆうがたになると、いつのまにか さいているこの花がふしぎで、ふたりで野原のまんなかにすわって、今か今かと花のさくのをまったものでした。

 さとしが花をつもうと手をのばしかけたとき、月見草がゆれて 花のなかで小さな女の人がほほえんでいるのがみえました。

「さとしくん、そんなことをしてもおなじよ。あの子は、いそがしすぎたのよ。あの子にとって この何年間は、とても苦しい毎日だったのよ。今のバレー団でトップでおどることは、たいへんなことなの。あの子は いそがしすぎたのよ。あの子は、足のさきから 血をながしながら がんばったわ。だから、さとしくんとあそんだことは あの子にとって ずいぶん むかしのことなの。それをせめたら、かわいそうだわ」

「でも、ぼく…」

 さとしは口ごもりました。

「さとしくん、おもいではポケットにしまいなさい。心のポケットにね。人は、そんなおもいでを いくつもいくつもむねにしまって、大きくなるのよ。だから」

 さとしの目に、月見草の花がにじんでみえました。

 たちあがったとき、さとしは、さっきまでのじぶんより、ほんのすこし大きくなったようなきがしました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ