第1章 三千世界と運命の流転 4
やっと異世界に突入です。
それではどうぞ('◇')ゞ
家に戻ってから重い気分を引きずりながら、いつも通りに夕飯の準備をする。
その合間に美姫おばさんに電話で夏姫が届けてくれたお裾分けの感謝を伝える。
おばさんは昔から変わらない明るい早口な口調で世間話や夏姫の話をこちらに投げてくるがさっきの夏姫との一悶着も有り適当に相づちを打つだけだった。
会話が落ちつた所で一緒に食事をしましょうと誘ってくれたが話をはぐらかし曖昧に答えるしかなかった。
その返事を聞いて声を少し暗くしたが最後には体に気を付けてと優しく応えてくれた。
最後にもう一度感謝を伝えてから電話を切った。
夕飯はおばさんが作ってくれた煮物と帰り買ってきた惣菜をおかずに適当に済ませる。
あとは家事をこなし、復習と予習を入念に時間を掛けて取り組んだ。
疲労が溜まって来たのを感じた風呂に入り落ち着いた時には間もなく日付が変わる頃になっていた。
携帯端末を操作し、小説投稿サイトにアクセスした。
最近、寝る前の短い時間でネット小説を読むことが日課に加わった。
気軽に読め、気軽にやめる事ができるのも好きな所だった。
そして、もう一つの理由は
「異世界か・・」
今の主流で人気の高い作品の多い『異世界系』だ。
主人公が現代から異世界に行き、活躍するというもの。
戦いに明け暮れたり、第二の人生を謳歌したり、国を動かしたりなど多様な作品が有る。
それを読みながらこんなのは唯のフィクションと分かっているつもりでも、心の隅では羨ましく思っている自分もいる。
もし、もしもだ。
本当に異世界に行けたら、現在の何もかも捨てゼロから始められなるなら、俺は――――
「ナニ考えてるんだ、ホント馬鹿だな」
今日起きた出来事の連続が堪えているのだろう。
いつも以上に弱気で夢物語の中にまで救いを求めて、すがり付いている。
「寝よう」
端末を閉じ明かりを消し、ベットに腰を掛ける。
「お休み」
誰に声を掛けるでもなく、挨拶をしてから毛布の中に潜り込んだ。
先ほどまでのくだらない現実逃避を考えるよりも前に睡魔が広がり意識が薄れて眠りについた。
・・・そのはずだった。
「―――様、早くこちらへ」
「分かっている!」
眠りについてからどれ程の時間が経ったか分からないが少し遠くから喧騒が聞こえ、目が覚める。
少し遠く?
目を開けると目の前は雲1つ無い青空と生い茂る木々が映りこんできた。
自分の近くに木が有り、その木陰近くに居るらしい。
頭を横に向けると草が生い茂っており、その上に寝巻に着ていたスエットとTシャツ姿で横たわっていた。
状況が飲み込めず、ゆっくり立ち上がり周りを見回す。
周りは森林地帯の隙間に広がった広場の様な場所だった。
広場には別の場所へ向かうための少し狭い林道が何本か繋がっている。
それらを確認して更に混乱する。
(どこだここアパートの近くの場所にこんな所なかったはずなのに)
(俺は部屋にいて、寝てそれで目が覚めたらこの場所)
(何で外?それに夜のはずなのに、昼間みたいに・・)
考えれば考える程に訳が分からなくなり頭を抱えてしゃがみ込む。
「お嬢様、ここで迎え撃ちましょう」
そこで声が聞こえた。
先ほど、声が聞こえ目を覚ました事を思い出し声の方へ目をむける。
自分から少し離れた所に、男女が焦っているのか声を荒げながら話をしていた。
自分以外の人がいる事が分かり少しだけ落ち着いた。
「何を言っている、なぜ敵陣の中で止まる必要がある。少しでも早く戻る事が最優先だ!」
応えたのはドレス?を着こなした、見るからに一般人とは思えない風貌の少女だった。
少女はドレス似つかわない短めの剣を握っていた。
「ダメです。昨夜から夜通し走り続けてここまで来ています」
男の方は黒のスラックスに白のYシャツでこちらは拳銃?と思われる者を腰に収めていた。
「このままでは身体が持ちません。最悪な状態で敵に追いつかれてしまいます」
「それならば、この広場で追手を倒し古豪の憂いを無くして安全に戻るべきです」
男は話し方からして少女の従者か何かなのだろう、主人を説得している。
「安全?この状態で安全も何もあるか!」
「幸いこの森は火山岩の影響で起伏が激しい場所が多い、多少遠回りする事になってもこの地形を利用し逃げるのが最も確実な方法だ」
「もし迎え撃つならわざわざ姿を見せずに隠れ、奇襲を仕掛ける」
少女はこの会話をしている時間も惜しいのか早くここから離れたいといった様子だが、従者は納得が行かないのか一向に動く気配は無く押し問答を続ける。
向こうも非常事態の様子だがこちらもパニック状態だ。
少しでも状況を掴む為に、二人に声を掛ける。
「あ、あのすみません。お取込み中で申し訳ありませんが少しお話しで―――」
相手は武器を持っている最悪それで襲われる可能性もあるが勇気を出し話しかけたが。
面倒なのは相手をしたくないのか、こちらを振り向くどころかこちらにまるで気がついていない様に話を続けている。
「すみません!忙しそうですが、お話を聞いて頂けませんか!!」
もう一度声を張り上げ、尋ねるが状況は変わらない。
声が聞こえなかったのか言葉が通じていないのかと思っていたが、どう見ても此方の存在に気がついていない。
さらに追加された不可解な状況にまたパニックになり、男に近づき振り向かせようと強く肩を掴んだ―
と思ったが手が男の体を突き抜けてしまい勢い余って二人の間に転んだ。
「は?なんだこれ」
二人は変わらずこちらに目もくれない。
もう訳が分からない。
「そうだ、これは夢だ!これは夢!!」
そう自分に言い聞かせるように声に出してみるが、この余りのリアリティーに不安がぬぐいされない。
目に映る景色、風の音、二人の声まで今まで見てきた夢とは一線を画す違いを肌で感じるのだ。
唯一つ自分が認識されていない事を除けば。
「あんな小説を読んだからって、こんなの見るなんて相当重症だな!」
寝る前に読んだ小説を思い出した。
『異世界』
まさかあの小説の様な事が自分に、それこそあり得ない。
でも本当ならこの無茶苦茶な状況に説明がつくのか?
異世界など行ったことは無いし、情報は偏見的なモノしか知らないがここが現実ではないことは確かだと感じる。
そんな答えのない自問自答をしていたその時。
「キャ!」
突然、男が少女を蹴り飛ばした。
少女はあまり突然の事で何もできず地面に叩きつけられた。
苦しそうに咳き込みながら少女は男を見上げ睨みつける。
「ったく、あまり駄々をこねないで下さい。お嬢様」
そういって腰に収めていた拳銃を抜き銃口を向ける。
「折角、上手くいったのにここで逃げられたら台無しですよ」
「なのつもりだ、ロバート」
「貴様、まさか裏切ったのか!」
少女は状況を理解したようだが、それと同時に苦渋の表情を浮かべる。
完全に主導権を握られている。
手に持っていた短剣は有るが彼女がそれを使うよりも早く男は命を奪えることは明白だった。
「それはまた後で、とりあえず静かにしてもらいますよ」
「なに、殺しはしませんよ。ただ少し痛みでおしゃべりをやめてもらうだけです」
男は先ほどの従者としての顔とは打って変わり、優越感に満ちあふれていた。
自分が彼女のすべてを手にしている事に歪んだ笑みを浮かべ引き金に指を掛ける。
少女は何もできず、今から来る苦痛に耐えるべく顔を背け、目を閉じる。
お前はこれで良いのか。
ここで動かなければ変われない。
異世界か夢かもわからないがここに居ても何もしないのなら。
卑屈で小心者のまま、誰も信じられないまま、一生俺は変われない。
それでもお前は良いのか。
俺は―――――――
広場に銃声が広がり渡り、従者の男は笑みを
――――――――消した。
凶弾はその場で時が止まったように静止し、力を失い若緑の絨毯に沈み込む。
「貴様は・・・・誰だ?」
少女の声で今、自分が彼女の前で大の字に手を広げ盾となり男との間に入り込んだ事に気が付いた。
これは彼女の為では無い自分の為に動いた。
『変わりたい』
その願望を叶える為に。
何をすれば良いのか分からないが、今この行動を自分に相手に刻み込もう。
自身の変革の第1歩として。
そのためにまずは―
「俺の名前は雲金 貴騎」
「以後よろしくお願いします!!」
これが俺と彼女の双滅者としての始まりで、三千世界を巻き込む戦いの開幕だった。
読了ありがとうございました。
次回は少し戦闘に入ります。
お楽しみに|д゜)
引き続きご意見やご感想、アドバイスを続々お待ちしております。