第1章 三千世界と運命の流転 1
最後までお楽しみ頂ければ幸いです。
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4月15日水曜日 深夜
先ほどの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「さすがマスター私が想定していたよりも早く力を使いこなせております」
背後からそう声を掛けるカゲは純粋な讃頌で俺を褒めているかの様だった。
「ああ・・・・、ありがとう・・」
それなのに頭は重く、気分が優れない。体はいつも以上に力強く感じるのに。
いや、異常なくらいに感じる。
「それでは次の標的に移りましょう」
カゲはそう声を掛けると俺たちが入ってきた入口、破壊した鉄格子を指し移動を促す。
「ここにはこの黒い獣以外に百獣の王と呼ばれるものも居るようです。今度はそちらで鍛錬いたしましょう」
そう言って俺の顔を覗き込むと顔色から何か感じたらしく両手を肩に回し優しい声色で語りかけてくる。
「なに、心配する事はありませぬ。万が一の場合はこの守護者である私がお守り致します」
俺がまだ怖がっていると思ったていたのだろが俺が殺したモノを見つめている事がわかると窘めるように更に話しかけてくる。
「もしやこれを潰した事を後悔なさっているのですか」
「・・・・」
「これは唯のケダモノ気にすることはありませぬ」
カゲはそれを軽く蹴り飛ばす。それは全身が血に赤く染まり拳の形に幾つもの死が刻みこまれていた。
「それに貴方はこれから世界を救う救世主になられる方、この者たちの命がその糧になるのならそれは喜ばしい事ではありませんか」
救世主?世界を救う?それは何のことだ。先ほどから上手く頭が機能していない。
でも確かにそれを望んでいる。時がたつにつれそれが不可能であることを薄す薄す気がつきながらもあきらめる事が出来なかった。望み。
「そうか、そうだよね」
それになれる、この穢れた世の中でも
「世界を救う、救世主、俺は本物のヒーローになれるんだよね」
俺は正道を行く、正義、正義、正義。それができるのは俺だけで俺だけが正義。頭に靄がかかっているように上手く考える事が出来ないのにこの事だけは何故かハッキリと聞こえる様な気がした。
「そうでございます。それでは次の檻に向かいましょう」
そう促され、檻を出ようとした時。
「おや?」
先ほどまで檻の隅で震えて抱き合っていた『残り』がこちらに明らかな敵意を示し向かってくる。
カゲは残りに言葉が通じない事が分かっていながらも理解できないといった様子で言葉を投げる。
「ほう?家族の仇討ちですか、それは素晴らしいですがこれはお前たちの長で、最も強きものであろう」
そう言いながらそれを蹴り上げる。
「それでも勝てない相手に挑むとは、知性は劣っていても本能で強者と弱者がわかると思いましたが・・・・救いがたい」
そう言とこちらに向き直り、新たな提案をする。
「マスター、窮地に陥った者を相手に練習が出来ますね。まず、この中の掃除をしてから次に向かいましょう」
まるでゲームで遊ぶかのように簡単に言ってくる。それも先ほどの戦いを思い返せば当然の様に思える。
「ああ・・・」
まだ、完全に納得はできない、でも俺だから許される。そう感じる。理由は正義だから。
「世界を救うため・・・、人を救うため・・・、俺は正義のヒーローになるんだ・・・」
カゲの前に出て、構えを取る。そうすると直ぐに残りたちが襲い掛かってきた。一度戦って慣れたからなのか、それとも残りを命として見るのを辞めたからなのかさっきよりもやり易い。
「素晴らしい、流石は我がマスター」
カゲの声は先ほどとは違い滑稽な者を見る嘲りが隠し切れないほどの笑いを含んでいるように感じた。
でも、そんなのはどうでもいい俺は選ばれた、ヒーローに。だから邪魔する者はすべて悪だ。
殺そう、殺そう、殺そう・・・もう正義以外はどうでもいい。
だってそれが俺の望みだから。
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