木こりは斧にうるさい
「なんてことだ、大切な斧を湖に落としてしまった」
「こんにちは、私は女神です。あなたが落としたのはこちらの銀の斧ですか? それともこちらの金の斧?」
「おお、女神様。わたしが落としたのは鉄の斧でございます」
「正直者ですね。善きあなたにはこの金の斧と銀の斧を両方差し上げます」
「いえ、鉄の斧をください」
「え」
「もうすぐ結婚する甥子の家を建てるために、今は丈夫な木材が必要なのです。金も銀も柔らかくて木を切るのに向きません」
「でも、換金すれば……」
「この田舎では、社に飾るくらいしか使い道がありません。村の宝にはなりますが、甥子の家は建ちません」
「では、このダイヤモンドの斧も付けましょう。硬さは折り紙付きです」
「ダイヤモンドは硬いですが、軽いのです。適度な重さがなければ木は切れません」
「じつは鉄の斧は、ペットのオークインキュバスが気に入ってしまって放してくれないのです」
「なんてことだ。女神様がオークインキュバスをペットにしているなんて」
「……仕方がありません。ではあなたにチート能力を贈りましょう」
「おお、指さしただけで木が切れた。これはすごい。これなら甥子に良い家を建ててあげられます。ありがとう女神様」
「いえいえ」
「というわけで、異世界転生者に贈るため用意していたチート能力は木こりにあげてしまいました。残念ながらあなたに渡せるものはありません」
「バカなの?」
「この世界は勇者が倒され魔王に支配されており、今まさに暗黒時代を迎えています。なんの能力も無しに生きるのは無理ゲーでしょうががんばってください」
「バカなの?」
「大丈夫です。あなたには知恵と勇気と元気があるじゃないですか」
「バカなの?」