第8話ー燃えよ剣(1)
連続物。3回で終わります。
ああ〜、今日は学校行くの嫌だな〜。
どうしたんだツグ、何か問題があるのか?
今日から体育の授業が剣道になるんだよ。剣道着って臭いし、部活でやってる人達はメチャ強いし、全然楽しく無い授業だよ。
ツグ、俺はツグと学校に行って、学んで無駄な事は無いと思ったぞ。授業にその項目があるのなら、きっと役に立つ事の筈だ。前向きに考えよう。
マー君だって、やってみれば解ると思うよ。ヒキニートを目指す僕には、全く時間と体力の浪費でしか無いよ。
体育の授業は5時間目だった。それまでツグに解説して貰った内容によると、竹刀という剣に似た道具を使って、防具をつけた上で一対一で打ち合う試合をする競技だそうだ。俺にはツグが何故嫌がるのか理由が分からない。凄く面白そうじゃないか。俺は魔法師だったけど、勇者のパーティーメンバーには剣士もいた。其奴から接近戦になってしまった時に、自分を守る為の剣さばきを教わった事もある。魔法師の癖に剣の練習を嫌がらない俺を、その剣士は気に入ってくれ、師匠になってくれて、必殺技まで教えてくれた。だから、俺は専門職には敵わないが、魔法師なのに剣が使える。この世界での剣闘には、正直興味がある。
ね〜〜。マー君、この道具、みんな臭いでしょ。これが最初の嫌な事なんだよね。
ツグ、鍛錬とはいえ、闘いを学ぶのであろう、闘いの中で流される汗は、先人の努力に敬意を払うものであって、決して蔑む物では無い。確かに、もうちょっと大事に扱って、清潔にした方が良いとは思うがな。
学校の授業用の道具なんて、誰も面倒臭くて大事にしないよ。臭くないのは自分用の道具を自分でメンテしている剣道部員ぐらいだよ。
確かにこの匂いは酷いな。しかし、至近距離で爆裂魔法を受けたゴブリンの血飛沫よりはマシだ。闘いの鍛錬の為なら、我慢しなければなるまい。
防具とはこれか。成る程、急所を守る工夫がされている。ただ、これでは足が無防備じゃないか。俺達の世界では多対多の集団戦が普通だったから、先ず相手の移動力を削ぎ落とす為に足を狙う。動けなくなったら囲まれてお終いだから、下半身はプレートメイルかスケールメイルで覆うのが普通だった。例外は機動力がメインのシーフやニンジャで、あとつけていないのは後衛職だけだった。
マー君、足を狙うのは大反則だよ。これは戦闘じゃない。競技なんだ。一対一で戦う以外は無いんだよ。
成る程、儀式化された騎士の決闘の様なものか。それでも俺達の世界では、下半身の防御をしない奴はいなかったけどな。
納得はいかないが、この世界の流儀なのだろう。ツグがブシドーとか言っていたが、俺の常識が受け付けない。しかし、此処で鍛錬をする為には合わせなければいけないのだろう。
これが竹刀か。ツグは模擬剣だと言っていたが、明らかに打撃武器だな。重さからいってメイスとかじゃなく、スタッフ程度だろう。刃も立っていないし、打撃力も低そうだ。防具の事もあるし、これを剣と見立てて打ち合うんだろうな。でもこれって、本当に実戦の訓練になるのか?
「それでは、素振り始め!」
指導教官の掛け声で全員が竹刀を振り始めた。
これがツグの嫌がっていた素振りか。ツグに言わせると、意味が分かんないそうだ。
大声を出しながら、竹刀を上下に振るだけ。時間をかけて、僕らを疲れさせようとしているだけだよ。教師っていったって、所詮は公務員。僕らの時間さえ規定量消費させれば給料がもらえるんだ。こんな事に何の意味も無いよ。
いや、違う。今ツグがやっている素振りはそうかもしれないが、最前列の二人の素振りは明らかに違う。打撃武器に自分で剣筋を設定し、それを通す反復練習をしている。俺も師匠である剣士から教わった事だ。イメージを固める為には、反復練習が一番効果がある。
何だ、この教官。こんなに効率の高い練習方法を知っている奴は、俺の世界では師匠しかいないぞ。何故こんな事ができるんだ?
投稿が遅れたのは、震災関係のイベントの為、申し訳ありません。