46話 二人だけの姉妹
なんとか兵士達に見つかる事のなく、少女を宿に連れてくることができた。幸いにして、兵士達は住民を聞き込み等はしていないようで、宿の人には少女の分の追加のお金を払うだけで入れてあげられることができた。
だがしかし、これも時間の問題だろう。そのうち住民に聞き込みが入れば、誰かに俺達が連れていた事やこの宿にいることもばれる可能性があった。さすがに誰にも見られないというのは不可能だったからだ。
「ねぇ、お名前は?」
なるべく優しく言ったのだろう飛鳥は、普段を知っている海斗達からすると、正直気味が悪かった。だが、もちろん口に出すようなことはしない。
「……イリア」
少しは気を許してくれているのだろうか。少し迷って、なんとか名前は答えてくれた。
「そっか、イリアちゃんっていうんだね。私は飛鳥、よろしくね」
こくんと頷く、イリア。
「俺は海斗だ。よろしく」
「俺は絢斗。よろしく、イリアちゃん」
「……」
だがしかし、俺達には頷くことすらしてくれない。飛鳥が初めに声をかけて連れていったから信用しているのはいいが、この対応の差は少し傷つくぞ。そして、飛鳥ののどや顔が目につく。
「まあ、いいけどな。それで、イリアは何があったんだ?」
「……」
「イリアちゃん、どうして兵士に追われていたの?」
「……ずっといたところから出てきたの」
やはりというべきか、海斗に答えることはしない。きっと人見知りなのだろうと思う。
それにしても、あまり要領を得ない答えだった。
「どうして出てきたの?」
「あのままいたら、いけないから。お姉ちゃんがそう言ってた」
「お姉ちゃんがいるんだね。どうしていけないか、お姉ちゃんは言っていた?」
「このままいたら死んじゃう、って言ってた」
イリアが言ってのは、驚くべき話だった。事の顛末はこうだ。
イリアとその姉、マリアは小さい頃からずっとどこかの地下室にいた。姉はイリアの二歳上でとても優しかった。
そして、二人とも親の顔は知らない。気づけばいなかった。それでも、イリアにはマリアが、マリアにはイリアがお互いいたからちっとも寂しくはなかった。
そんな日々も過ぎ、イリアは十歳、マリアは十二歳になっていた。
突然、いや少しずつマリアの体は弱っていった。
二人は地下でずっと魔力を絞り取られていたのだ。その魔力で結界をはっているのだと、大人達は言っていた。正直、そんな事はどうでもいい。大事だったのはマリアが危ない状況だったということだ。
それを大人達に訴えても何も変わらない。だから、二人はここから抜け出す算段をした。
真夜中、一度だけ部屋の外にいる兵士達が見張りを交代するタイミングがある。そのすきに逃げ出そうというものだった。
___結構日、二人は見張りの交代の時を待っていた。
チャンスは一度だけ。一度失敗したら見張りは厳しくなり、もう二度と逃げることは叶わないだろう。だから、ここで決める。
無言の足音が去っていく。兵士達のものだ。
音が遠ざかり完全に聞こえなくなってから、二人は動き出した。ドキドキ、という心臓の音がうるさい。
予め決めていた通り、お互いに一言も話さない。マリアはイリアの手を引いて走る。曲がり角では人影がないのを確認しながら慎重に進んだ。
走って、走って。その先に何があるかも知らず、ただ走った。一刻も早くに外へ出なければならない。
角を曲がったり進んだり。ある一つのの角を曲がった時、ようやく外が見えた。
それを見たときの嬉しさはどれ程のものだっただろうか。
だからきっと、油断していた。
出口を目指して走る。既にかなり疲れていたが、それでも不思議と走れた。そして、出口直前の角を確認もせず進んでいたものだから、人がいることにも気づくのが遅れた。
「おい、逃げてるぞ!!」
見られた。気づいたときにはもう遅い。このままではあっという間に兵士達が集まってきて、逃げられないだろう。
この時、イリアはもうだめだと思った。やっぱり逃げることなんて無謀だったのだと。だがしかし、イリアと繋いでいた姉のマリアの手は力強く握られた。
「お姉ちゃん?」
繋いでいた手が、ほどかれる。マリアはイリアの両肩に手をおき言った。
「イリア、よく聞いて。今から私が囮になって行くからその隙に逃げなさい」
「お姉ちゃん!?」
「いい?その辺に隠れて、兵士がいなくなったら外に逃げるの」
「そんな事したら、お姉ちゃんはどうするの!?」
マリアがイリアに答えることはせず、木陰の方に腕を掴んで引っ張って行く。そして、思いっきり押された。
イリアが顔上げた頃には、すでにマリアの背中しか見えなかった。
「あっちにいるぞ!!」
マリアのすぐ後を兵士達が追っていく。もう、イリアにマリアを追うことはできなかった。
ここで行ったら姉のやったことが無駄になってしまうし、たとえ無理やり行ったとしてもイリアに出来ることは何もなかった。
数分後、あっという間に兵士の姿は見えなくなっていた。イリアは木陰から飛び出して再び走り出した。
どういう運がはたらいたのか、多少はいると思っていた兵士と出会うことはなかった。そして、生まれて初めて街というものに行った。
ここならもう、当分は来ないだろうという事でイリアは足を止めた。
途端にぽたぽたと涙が溢れてくる。
「っ~~~~~」
声をあげることもできず泣き、寝ていた。そうしていつの間にか夜を明かしていたのだ。




