40話 旅立ちの気配
チュンチュン、という小鳥の鳴き声で目を覚ます。窓から外を見れば朝日が射し込んで来ていて眩しい。
ここまで爽快な目覚めは地球にいた頃でもそうなかった。
「ああ、起きたか、海斗」
そう言って扉から入ってきたのは、絢斗だった。
「お前よく寝てたな。もう朝だぞ」
「ああ……はぁっ!?」
思い出せば海斗が寝始めた、もとい寝てしまったのは、まだ明るく日の出ていた時だった。それからかれこれ一体何時間寝てしまったのだろうか。
「何で起こさないんだよ」
「昨日俺を置いていったからな」
してやったり、というような顔でにやにやと見てくる、絢斗。要するに仕返しのつもりなのだ。だがしかし、やることが小さすぎる。子どもか!、と突っ込みたいのをやめ、着替える。
ぐう。
昨日の晩に食べていない分、お腹が空いている。ここの宿ご飯は美味しかったから、昨日食べ損ねたのは少し残念だ。
昨日の分も今から食べることにしよう。もちろんそんなにたくさんを食べることは出来ないが、そこは気分の問題だ。
「絢斗は朝食は食べたのか?」
「まだ食べてない。一緒に行こうぜー」
「わかった。今日のご飯は何だろうな」
とはいっても、ここの料理なら何でも美味しそうだ。まだ見ぬ料理に胸を踊らせながら階段を下りていく。
「ああ、やっと起きたのかい。よく寝るもんだね」
「ははは、お陰ですっきり爽快です」
「そうかい。さあ、お腹が空いているだろ。すぐに持ってくるから、ちょっと待ってな」
そう言って女将さんは厨房へと入っていった。
回りには昨日も見た、この宿に止まっている人達がいた。
「さあ、お待ちどうさま。今日は野菜のスープとオークの蒸し焼きだよ」
「うまそうだな」
「ありがとうございます」
「「いただきます!!」」
けして豪華な品ではないが、素朴で優しい味。それがここの料理だった。それがとても美味しい。
「いやー、美味しかったな、海斗」
「ああ、何回でも食べたい位だ」
「ところでさ、何か忘れてないか?」
「奇遇だな、俺もそんな感じがしてた」
どうにも嫌な予感がする。そして、その予感はすぐに現実のものとなる……。
「ちょっと、何で私だけ除け者にしてるのよ」
後ろから突然現れたのは、飛鳥だった。そういえば、この場にいたのは海斗と絢斗の二人だけで飛鳥はいなかった。
海斗は自分で自分の顔が青ざめているのに気がついた。おそらく、隣の絢斗も同じことになっているだろうと思う。
ゴクリッ、とどちらかかが息をのんだ。
それから、二時間ほど飛鳥の説教を受けることになった……。
「まったく、今日は早めにギルドに行って依頼を受ける予定だったのに遅くなったじゃない」
飛鳥のせいだ!!と言いたいところを海斗も絢斗もとてもではないが言えなかった。
二人して、あえて無言を貫いたのだった。
ギルドは時間が少し遅いせいか、比較的人が少ない。今頃は、大抵が依頼を受けている時間だ。
「おっ、これなんかいいんじゃないか?」
護衛依頼
目的地:エルズルナフ首都まで
報酬:一日銅貨八枚
対象:Cランク以上
依頼者:エントリオ商会
その他:18日の早朝出発
そう言って絢斗が見つけたのは、エルズルナフの首都までの護衛依頼だった。ギルドに来たのも、もともとこの依頼を探すためだった。
普通に移動するなら徒歩で行くことになるため、時間がかかりその分だけ食料を含めた出費も増えることになる。そのため、冒険者は目的地までの護衛依頼を受けながら行くのが基本だ。
今までの海斗達はまだ冒険者という仕事に慣れていなかったのとお金にもかなり余裕があったためそういった依頼は受けてこなかった。だがそろそろ慣れて来ただろうということで受けることになったというのがことの次第だ。
出発も明日という事で丁度いい。
「良さそうね。これにしましょ」
予定の目的は達することはできた。後の今日の余った時間は、それぞれで依頼を受けることになった。そんなには時間がないから簡単な依頼だけだ。
何事もなく依頼を終えた三人は宿に帰り、女将さんに明日宿を出るむねをはなした。
「そうかい、少し寂しくなるね」
女将さんはそう言って少し微笑んだだけだった。宿屋という仕事がらこういうことはよくあることなのだろう。悲しいがいちいち悲しんではいられないのだ。
海斗達はいつもより早めに寝て、明日に備えた。




