26話 討伐系依頼 その3
一月前までは五匹のゴブリンの討伐依頼を受けた。だが実際に行ってみれば、五匹だったはずのゴブリンは二百匹以上の数がいた。
通常の冒険者ならば、その事を知った瞬間に撤退の判断をするところだ。それは、冒険者が自分の実力をみて不可能な依頼だと判断できるからだ。
これこそが、冒険者にとって一番必要な能力なのかもしれない。己の限界と敵の戦力を把握し、いついかなる時でも冷静な判断を下す。
どんなに強い力を持った冒険者でも己の実力以上の相手と戦えば、必ず負ける。例え、運で勝ち残ったとしても、その勝因が運である以上それでは意味がないのだ。
何故なら、その運は長くは続かない。それが運だからだ。そうして、やがては敗者となるのだ。
これを理解し、行動できた者だけが生き残る。そうして、やがて高ランク冒険者になっていくのだ。
これが出来るからこそ、冒険者とも言えるのだと思う。
尤も、これは冒険者に限ったことではなく、全てにおいて上手く立ち回った者は勝者となれるだろう。
「それで、ゴブリンはどこにいるんだ?」
「前方約800メートルくらいだな」
「作戦は?」
「まず、俺と絢斗の魔法で先制攻撃。その後は俺と飛鳥で接近戦、絢斗が魔法で援護でどうだ?」
「いいんじゃない?」
「俺も別に構わないぞ」
これで作戦が決まった。
だが、これは正直に言って作戦とは呼べないほど杜撰な計画だった。
初めの先制攻撃をすることくらいしか決めておらず、その他は適当さが見栄据えていた。
普通の一般的な冒険者ならあり得ないことだ。
まず、敵情視察をして敵の戦力などを把握するところから始まる。尤も、これは海斗のスキルによって必要はない。
そして、作戦は状況をいくつも想定してそれぞれに対応を取れるように綿密にたてるのが普通だ。相手によっては、数時間かけることも珍しくない。
今回の件ならば、間違いなくこれに入るだろう。
だが、これを海斗達はたった数秒、というか全く考えずに決めていた。
本来なら冒険者失格。そして、魔物に殺られて死亡という結果になるところだろう。
だが、不幸中の幸いか海斗達は普通の冒険者ではない。少なくとも、ゴブリン二百匹を相手に遅れをとるような事はないのだ。
この海斗達の行動を普通の冒険者が真似ないよう祈るばかりである。何故なら、普通の冒険者が真似ても依頼を失敗するのが関の山だろうから。
現在、海斗と絢斗はゴブリンの村から約50メートルの位置にいる。飛鳥は二人の魔法に合わせられるように、ゴブリンの村にさらに近いところにいる。
勿論、ゴブリン達に気付かれない範囲でだ。
「いくぞ!!」
「「ウインドカッター」」
海斗の合図で二人は魔法を放った。
風の初級魔法だ。魔法は単純に、同じ属性または近しい属性の魔法を重ね掛けすれば威力が強まる。その為、二人で魔法を使うならそういうふうに使った方がお得なのだ。
さて、二人は風の初級を使ったと言った。もしかしたらここで何で中級や上級の魔法を使わなかったのかと疑問に思う人がいたかもしれない。
答えは簡単だ。飛鳥が怒るから。
ただそれだけの理由だ。
だが、忘れないで欲しい。前回の薬草採取で飛鳥は自分だけ余り採れなくてかなり怒っていたことを。
それに引き続き今回まで二人だけで大半を終らせてしまえば、恐ろしいことになるのは火を見るより明らかだ。
まあ、中級や上級の魔法を使っても二百匹はいるゴブリンを全滅させる事は不可能だろう。だが、二人でやれば、四分の一近くは殲滅させることが出来るだろう。
もしもそれをやれば、その後の飛鳥の機嫌や如何に。
全くもって、恐ろしいことである。
こうして二人は初級の魔法を使い、ある程度のゴブリンを一掃した。
そして、すかさず飛鳥がゴブリンの前にいき、剣でなぎ倒していった。
「じゃあ、俺もいくぞ」
「ああ、後は任せろ」
そう言って、海斗も前衛へ向かった。
それからはもう、色々な意味で凄まじいことになった。
水を得た魚のように次々にゴブリンを斬り倒していく飛鳥然り。斬られたゴブリンの血によっての周りはの景色もまた然り。
それはもう、酷い有り様だった。
因みに、俺達には援護の仕様がないと判断した絢斗は、俺達とは少し離れた場所にいたゴブリンを地道に刈っていた。
チームのちの字も無いようなある意味見事な連携だった。 (的確にゴブリンを倒していたという意味で)
因みに、ゴブリン弓兵やゴブリン魔導師もいたが、普通のゴブリンと余り変わらない手間で倒されていた。
そうして、数十分後には残り五分の一というところまで倒した。
そのタイミングで出てきたのが……。
「やっぱりいたのね」
「お山の大将の登場ってわけか」
……ゴブリンキングである。
ゴブリンキングは、普通のゴブリンよりも体格が大きい。そして、知能も高い為少しは考えて闘わなければならない相手である。
「ウインドカッター!」
後方から魔法が放たれた。言うまでもない、絢斗である。
その魔法によってゴブリンキングは大ダメージをくらった。おそらく、海斗と飛鳥の二人に警戒していて、後ろにいた絢斗まできがまわらなかったのだろう。
こうして、不意を見事に疲れたゴブリンキングは絢斗の魔法によって大ダメージを受けた。
だが本来、ゴブリンキングは初級の魔法を受けた位ではさほどダメージを受けない。
それは、魔力操作を使った上での全力で絢斗が魔法を使ったからだろう。
絢斗の魔力は普通の冒険者よりも多いのだ。だから、普通の冒険者が魔力操作を使って全力で魔法を放ったとしてもゴブリンキングにこれほどのダメージをあたえることは不可能だ。
その後は飛鳥がとどめをさして、あっさりとゴブリンキングは倒された。あそこまでダメージを負っていれば誰だって一撃で倒せそうだ。
そうしてその後、飛鳥の機嫌が悪くなったのは言うまでもないあるまい。ただ、絢斗は別に悪いことをしたわけではなく、ただゴブリンキングを攻撃しただけの絢斗にどうこうできるわけもなく、無言の攻撃(睨んだり無視したり)していた。
それを受けた絢斗はやっと自分のミスに気付き慌てていたり、色々あった。
そのころの海斗はと言えば、ギルドへの報告やら血まみれのゴブリンの後始末のことを考えていたとさ。
*設定*
魔法はスキルで表す初級魔法、中級魔法、上級魔法の風魔法火魔法などをさらに細かく威力で分けて、初級、中級、上級、最高級、英雄級、神級とさらに細かく分かれている。
ただし、スキルでの初級魔法には威力の上級まで、中級魔法には英雄級までまでしか存在しない。
分かりにくくてすみません。スキルで表す方の初級魔法や中級魔法と上級魔法には必ず 『~魔法』とつけて、初級魔法などをさらに細かくした威力の方の初級には 『~の魔法』とつけますのでそこで見分けて頂ければ幸いです。




