大げさな遅刻
意識も朦朧とする中、もう一度精一杯目を開く。先ほど程、薄目ではなく、半目の様な状態だ。ふと下を見れば自分が映る。
白、黒、そして赤の三色を基調とした美しいワンピースは金に光る二つのボタンによって、より一層綺麗になっている。
ベビーピンクとベージュのマーブル模様の靴下は短く、どこぞのお嬢様が身につけていそうな上品でどこか可愛らしい印象がある。
私はこの自分の格好に疑問を抱いていた。
しかしそれは口には出さない。
そう考え事をしていると横目にデジタル的な黒い数字が見える。どうやら私の嫌な予感が大当たりした様で、その数字は長方形の枠の中に10:55とかかれていた。その無慈悲に時を正確に教えるデジタル時計に驚愕と恐怖が入り混じる。目は驚きのあまり丸くなる。気のせいではないかという疑問も浮かぶがそれどころではない。
猛ダッシュで走る。テレビの音や弟と母の声などないかのようにスルーする。キャリーバックの持ち手を乱暴に掴み、きちんと転がさず、そのままの勢いで一番手前にある革靴を履く。玄関の段差と乱暴さにガタンと何度も音がする。
扉は開き、その先には眩しい光が見えた。季節外れな蒸し暑さがわたしを襲うが、なにもないかのように走る。キャリーバックの前輪しか機能しておらず、アスファルトの石に当たるとすぐバランスを崩してしまう。その度にガタと音がなる。しかし、この不愉快な音に気を取られている場合ではなく、ひたすら走る。
何度曲がり角曲がったかなんて憶えていない。必死すぎてどれだけ走ったかもわからない。ただ、いつもの道の割に長い気がする。
そんな時、見覚えのある軽トラックが、路上駐車されていた。
「おいー!
東雲ー?」
知っている男性の低い声。
だが、返事できるほどの余裕は無い。
が、そのすぐあとに軽トラックの前に辿り着き、走るのをやめる。
当たり前のように過呼吸になる。
音を聞いてか、男女10人が出てくる。
「ほのか。大丈夫?」
そっと私のほうに少女が駆け寄る。
私よりも身長が高く、可愛らしい襟のついたシャツに蝶々結びのリボンをつけ、ゆったりとした余裕のあるスウェットパンツの裾はしっかりとまとめられている。つり目でロングヘアのすこし怖い少女だ。
「ほら、いつも急ぎすぎなの。
彩もだけど、なんでキャンプにスカート履いてくるの?
しかも、こんな可愛い革靴履いてきて。これ、高いって言ってなかったっけ?」
「うん。でも、今回は急いで正解だよ!
じゃないと遅れてたもん。」
「なら、動きやすいズボンにスニーカーでも履けば良かったんじゃないの?」
「う、ゔぐ。」
「会話中のところ悪いんだが、乗ってくれないか?親父が待ってるから。」
と、バーテンダーのような服装の男子にさとされ、トラックの荷台に乗る。
「ちょっと、これっていけないんじゃないの?なにより、テントとかの重ったい荷物と同居なんて怖いからやなんだけど!」
目の前にある袋から若干出ている鉄の棒やキャリーバックを紐で車にくくりつけただけのもので、すぐに動いてしまいそうだ。
「ん、なら、親父の横の席座れば?
もっとも、会話出来ないだろーけど。」
と、嫌味ったらしく先程の男子は答える。
「なによ、くずみんのくせに生意気なー!
そんなのお断りよ。お・こ・と・わ・り。」
ギラギラと太陽が私たちを明るく照らした。