lovely call time
時計の針がカチっと動く。
PM8:00になると私の胸はそわそわとうずき出す。
彼の仕事が終わる時間。
かかってくるはずなんかないけど…。
かかってこないかなぁなんて思ったりして…。
私は気持ちを落ち着かせるために、紅茶パックに手を伸ばした。
お気に入りのカップにパックを入れてお湯を注ぐの。
ぐつぐつと沸騰してくるお湯を見ていると、まるで今の私みたいで、変な感覚になった。
「別に好きじゃないもん…」なんて、変に自分に言い聞かせてみたりして。
プルル〜♪
着信音が鳴るたびに、心臓が止まるんじゃないかなって思うくらい。
だけど結局その一秒後には、小っちゃなため息。
熱々のお湯をカップに注いだ。
紅茶には、蜂蜜を入れるのが私のお気に入り。
蜂蜜は、お肌にいいから。
恋に美肌はつきもの。
なんて…私がいくら頑張ったって、彼にはひとかけらも関係のない話だけど。
「熱っ…」
紅茶を飲んでも、落ち着かない。
それどころかますますドキドキしていた。
PM8:47
初めて彼から着信があった時間。
もしかして、今日はかかってくるんじゃないかって思って今日で、14日目。
「鳴れ〜鳴って〜!!」と、いくらおがんだって無理だってことくらい充分分かっている。
私は、実のところ彼を本当に好きなのか分からない。
だけど、気にはなっている。
「じゃあ今度電話するね♪」なんて、何気ない言葉が今でも忘れられないなんて…。
待つという行為は不思議なものだなと、最近身にしみて思うことがある。
誰かを待つって、実は最大の束縛。だったりして。
だって、待っている間はその人のことでこんなに頭がいっぱい。
携帯が離せない。
ちらちら見ちゃって。
「見てないし。時計見ただけだよ。」なんて苦しい言い訳はもうそろそろ通じない。
AM12:00
もう寝ようって、瞳を閉じたくせに、携帯が気になって眠れない。
私は携帯とは反対の方へ寝返りを打った。
布団を頭までかぶってみて、何か別の楽しいことを考えることにした。
だけど、浮かんでくるのは、バカみたいに彼のことばっかり。
「逢いたいよ…」
夜に哀しいこと考えちゃダメだって聞いたことがあった。
夜はみんなナイーブで寂しんぼだから…。
だけど…寂しくなった時に一番に思い浮かぶのは彼なんだ。
会いたいって、声が聞きたいって思うの。
あの人は今ごろ何やってるんだろうって、思いだしたらもうきりがない。
「会いたいなぁ…」
こうして私のいつもの夜は更けていくのです。
だから私の枕は真夜中、まるで溶けた雪のように冷たくなっていくの。
朝がきて、私は部屋のカーテンを開いた。
青い空が広がっていて、きらきらとした太陽の光が私の部屋へ差し込んだ。
「あっ、携帯…!」
運命の携帯画面には、何の変化もない。
「かかってきてないか…」
空はこんなに青いのに。
雲はこんなにふわふわなのに。
太陽の光はこんなにきらきらと光り輝いているのに。
AM9:00
彼の長い一日が始まる。
そして同時に、私の切ない一日の始まり。
好きじゃない。
好きじゃない。
好きなんかじゃないよ。
…って、事実を否定している時点で本当は、真実だったりすることって、よくある話。
PM3:21
プルル〜♪
また心臓が止まりそうになって、一秒後には…
まだ止まってる…!
「もしもし…?憂羽くん?」
たった5分。
たった5分です。
「休憩入ったから、かけてみた!!」
たったそれだけで、夢見心地になれる私はきっと、世界一の幸せ者だと思う。
「お疲れ様!ありがとッッ」
「何でありがとう?(笑)」
「電話してきてくれてありがとうって…」
「待ってたんだぁ♪?」
最大の束縛のご褒美は、たった一瞬の君との時間。
それでも私は、嬉しくて仕方がない。
どうやら、私は彼にハマってしまったらしい。
たった一本の君からの電話を待っているうちに、どうやら私は、彼のことを好きになっちゃったみたい。
「じゃあ、そろそろ仕事戻るね。また電話する!じゃあ。」
また、私の長ーいlovely call timeの待ち時間の始まりだ。