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結婚

 決して長い月日を共にした訳ではありません。

  しかし、私はこれからの年月を共にしたい相手に出会いました。

 見習いであるイザベル嬢を道半ばで、別の方角へ誘う罪深さにおののきます。

 それでも、私はイザベル・ジュテーとの結婚を望んでおります。まずは婚約の許可を頂けませんか?


 それが婚約の日、コリンが翡翠の店主に言った言葉だ。店主は、娘が望むなら、と、末長く共に居てやってください、そんなことを答えた。

 ベルは慣習に則ったそのやり取りを黙って聞いていたが、姉も店主として婿を取ることになったら、同じようなことを言うのかしら、とそんなことを考えていた。


 婚約から結婚式と披露宴までは半年ほど、その間にベルは招待状を作り、母も着たドレスを手直しし、引越しの準備をした。それらは簡単に済んだが、コリンの側の準備が大変だった。まずは五商家での集まりで報告し、王に許可を取らねばならなかった。五商家は東から、カオ商店、ルプランテ商店、ムッツィ商店、ジャンベ商店、ウィル商店となり、それぞれの店主と副長が集まった中で、ベルは自己紹介をせねばならなかった。集まり自体は気さくなものであったが、何しろ王に許可を求めるためにいかにベルが魅力的であり、コリンに相応しいかを書き連ねた身上書を纏めねばならないのが居た堪れなかった。顔も頭も平凡、あるのは外への興味とコリンと今後共に歩くという覚悟だけ…却ってそう思い知らされてベルは凹んだ。

  形式だけだから、とコリンは慰めたが、そういうことではない。色々と親身になってくれるメリダであっても、彼女自身は元王女でありさすがに共感を求めるのも憚られた。最終的にベルを立ち直らせくれたのは、三年前にカオ商店に嫁いできたというファニエだった。

「どうせ形式だって言うなら、適当に書いてくれればいいのに、いかんせん真面目なのよね、あの人たち」

 役人の娘だという彼女は短く切られた髪をかきあげてボヤく。

「いい人たちなのよ、うちの人…ティレルもね。コリンを祝いたい気持ちでいっぱい過ぎて、こちらの気持ちを推察できてないだけなのよ」

「あぁ…それは…」面倒だ、とは呟きは胸に収めてベルは聞いた「王が棄却したことってあるんですか?」

「私は一回棄却されたと聞いたわ」

「え?」

「冗談と言いたいとこだけど、本当よ。父が要職に就いててね、あまり役所と繋がりを持たせたくなかったみたいで。極めて政治的な話よ」

「それで、どうしたんですか?」

 ファニエは肩を竦めた。

「ティレルは御前で本気で私を褒め称えたそうよ…」

 それは赤くなるべきか青くなるべきか…ベルはファニエの様子を伺うと、彼女は頬杖をついたままベルを見て笑った。その笑顔は、結婚が彼女にとって幸せなものであると、ベルに確信させるのに十分なものだった。

「ありがとうございます、ファニエ・カオ様」

「様もカオもいらないわ、ファニエで宜しくね、ベル」

「勿論です、ファニエ」

 ベルとファニエは、視線で握手を交わしたのだった。


 婚約および、結婚の許可は難なくおりた。そして、ベルがファニエが得難い友人だと気づくのにも、時間はかからなかった。結婚式の当日も姉と一緒になってベルを飾り付け、世話をしてくれた。

 式は市民の慣習通り簡単なもので、役所に書類を提出してお終いだ。ドレスでそんなことをするので、通りがかりの人にも結婚だと一目瞭然、沢山の祝福を受ける。役所の階段には家族友人が集まり、色紙があちこちから降りかけられ、そして披露宴会場に移動する。小さい都市なので徒歩が基本だが、この時ばかりは輿が持ち出され、2人で詰められる。それを担ぐのは、未婚の男性を中心とした8人だ。なぜか自分の時に担いでくれたからと、コリンの幼馴染ティレル・カオも混ざっていたが。

  当たり前のようにトリスもそこに居たので、ベルは笑ってしまった。輿を担ぐと結婚できるなんて話もあるから、母親にでも送り出されたか。

「笑うなよ、ベル」トリスは不満気な口調で、でも笑顔で言った。「友達が幸せになるんだ、喜んで担ぐよ」

「私も、あなたの乗った輿を担ぎたいわ」

 笑いながらベルが言うとトリスはフッと真面目な顔になってコリンに向き直った。

「自分が女だって忘れがちだけと、まぁいい奴です。幸せになってください。結婚、おめでとうございます」

「ありがとう、えっと…」

「トリスタン・ウリアルテです。黄昏の森で家具職人をしています。どうぞ以後お見知りおきを。さぁ…!」

 トリスはすっとしゃがみこむと、踏み台を差し出して2人を促した。先にコリンが、それからベルが引き上げられた。

「おめでとう、イザベル!」

 トリスはにっこりと笑った。ベルがありがとうを言い終えた途端、コリンがベルを抱きしめるように腕を回して囁くように言った。

「君の幼馴染ってかっこいいんだな、君が僕を選んでくれて嬉しいよ!」

「コリン…」

 ベルは驚きに目を見張った。トリスがかっこいいんだなんで考えたことはなかった。その拍子に持ち上げられぐらついて、コリンに抱きつき返しながらベルは笑った。

「コリン、私はあなたが大好きよ!愛してるわ!」

 花嫁からの口付けに周囲はどよめき、更に祝福の拍手を送ったのだった。

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