UNKNOWN フランドールは彼女なのか
※この作品はとあるスペルカードを独自解釈しています。また、キャラの性格が違うということがあるやもしれません。
そういったものがお嫌な方は、速やかに戻るを押してください。
「妹様が、どうして気が触れていると思うか、ですって?」
夕暮れ時に魔理沙が珍しく正面から訊ねてきたかと思うと、パチュリー・ノーレッジはそんな質問をぶつけられた。
「私から見て、確かにフランは感情に素直で、能力もあいまって凶暴だとは思うけど、狂ってるって言うのとは違うと思うんだよ」
魔理沙は小悪魔に用意させたお茶を啜りながら言う。パチュリーはそんな魔理沙に軽くため息を吐く。
「いい、魔理沙。最初に言っておくけど、私は別に妹様は能力のせいで狂っているとなんて、思っていないわ」
能力の使用の仕方が狂っていると思う一端は担っているけれど。そういいながら、パチュリーも紅茶を飲み、そして魔理沙の様子を探る。
しかし、魔理沙はピンとこない様子で首をかしげている。魔理沙はフランドールと相対しながら、気づいていない様子だった。
「ヒントは、フォーオブアカインドよ」
ヒントと言うより、パチュリーにとってはほぼ答えだった。
だが、やっぱり魔理沙はまるで分からない様子で首をかしげる。
「フォーオブアカインドって、フランが四人になるやつだよな?それが、どう繋がるんだ?」
口で説明するのは、面倒だった。だが、魔女と言うのはえてして面倒で、自分の知的欲求を満たさずには居られない生物である。
ましてや、魔理沙は人間。寿命は短く、短いが故にどこまでも貪欲にその一瞬の煌めきを追い求める生物だ。
「小悪魔、お菓子の用意もお願いするわ」
小悪魔が「わかりました」と、元気に返事をして下がる。
少し、長くなるかもしれない。そうなれば甘いものも欲しくなる。そう判断してだった。
魔理沙は悪いな。と人懐っこい笑顔を見せる。パチュリーは「いいわよ。別に」と答え、心の中で茶菓子代は自分のものではななく、レミィもちだし。と付け加える。
少しの間、他愛のない話をしていると、小悪魔がクッキーを持って帰ってくる。
パチュリーは小悪魔に元の仕事に戻るよう伝え、話を本題に戻す。
「ねぇ、魔理沙。あなたは、何をもって霧雨魔理沙なのかしら」
唐突な質問に魔理沙はクッキーを口にくわえたまま「え?」と首をかしげる。
「私は、私だ。何をして私なのかといわれてもなぁ」
くわえていたクッキーを手で掴み、そう答える。
実学の方が好きな魔理沙らしく、ピンと来ない様子だった。パチュリーはそんな魔理沙に軽くため息を吐く。
だが、それは飽きれたというよりかは、仕方のない奴だ。という、好意的なものだった。
「じゃあ、質問を変えましょう。仮に私の目の前に、あなたと同じ肉体を持ち、あなたと同じことを考えて、あなたと同じ服装をした人がいたとするわ。その人間は、あなたかしら?」
「それは私だな。私以外の何者でもない」
きっぱりと魔理沙は答える。パチュリーは少し、意地悪く笑って次の言葉を放つ。
「それが、私の目の前ではなく、あなたの目の前に現れても?」
その瞬間、面食らったようになり、魔理沙は答えに窮した。そして、そのまま眉間に皺を寄せてうなりだす。
「あら、あなたはさっきは自分だと答えたわよね?」
「いやいや、私はここにいる。私がここにいる以上、私の目の前のそいつは、私じゃない。私じゃないはずだ」
「そうね、あなたにとってはそうかもしれないわ。でも、私達からすれば、どちらも霧雨魔理沙よ」
「いや、ちょっと待て。全て、全て今この私と同じなのか?」
「いいえ、全て同じじゃあないわ」
なぁんだ。そう、安心して魔理沙は笑った。なら、それは本当に私じゃあないと。だが、先ほどよりさらに意地悪く、パチュリーは笑ってやった。
「魔理沙、私はあなたの『今の私と同じか』っていう質問を否定したわ。だって、これを肯定してしまえば、昨夜のあなたと、今のあなたって全てが同一じゃない。じゃあ、昨夜のあなたと今のあなたも別人よね?むしろ、全てが一緒なあなたって、なに?」
う。と、魔理沙は詰まる。そして、そのまま魔理沙は帽子の上から頭をガシガシと掻きむしる。
「昨夜の私も、今ここにいる私も私だ。だけど、昨夜の私と今の私は完全に同一じゃない。でも、私だ。じゃあ、目の前に現れた私らしきものと、今と昨夜の私と、どれくらい違うんだ?」
「私から、他の人からすれば、どれもが、霧雨魔理沙として認識するでしょうね。ねぇ、魔理沙。あなたからしたら、三者のどれがあなたなのかしら?」
魔理沙は私だけが私だ。
でも、昨夜の私も私だ。
目の前にいる私は私じゃない。
と、そんなことをぶつぶつ言って、思考の波を漂っている。
「困ってるみたいね」
「あぁ、どうしようもない程度に困ってるぜ」
「まぁ、安心して。あなたの前に、あなたはいないのだから」
パチュリーが極々当たり前のことを言うと、そうだったと、ありえないことを仮定して悶え苦しむなんて、なんてくだらないと魔理沙は笑う。
「でもね、妹様はそれができていて、やっているわ」
しかも、平気で同時に三人の自分を生み出していると。
「私ね、ある日訊ねてみたのよ」
四人のうち、いったい誰が本当のフランドール・スカーレットなのかって。
「その時はね、軽い冗談のつもりだったわ。案の定、妹様はね、『なんだそんなこと。くだらない』って笑って答えたわ」
「へぇ。なんて答えたんだ?自分以外の三人は直ぐに消えるとかか?」
「いいえ。『もう誰も彼も、私じゃない。とっくに最初の、『オリジナル』のフランドール・スカーレットは、壊されて消えているって』笑顔で答えたわ」
「おいおい、なんだそりゃ」
「妹様は、三人の自分を生み出すわ。私もあなたも、当然のようにオリジナルのフランドール・スカーレットが残っていると思っていた。でも、違うらしいわ」
目の前のパチュリーが、冷たい目をしていた。これ以上、聞かないほうが身のためかもしれない。そう言っている気がした。
魔理沙はこれ以上聞かないほうがいい。
そんな気がしてきていた。だが、好奇心は魔理沙を止めることはできなかった。
「その時、そのスペルカードが終わる瞬間。最も早く他の自分を破壊し、残った自分がフランドールスカーレットになるそうよ」
「な、なんだよ。それ」
「その時以来よ。私が、あの子をフランと呼べなくなって、妹様って呼ぶようになったのは」
私の中では、もうあれをフランドール・スカーレットとして呼べない。そうパチュリーは言い切る。
魔理沙の背筋に冷たいものが走った。それが汗だと理解して、紅魔館は暑くもないのに汗をかいている自分がいることに気づく。
確かに、フランドールは狂っていた。
魔理沙はさっき目の前に現れた自分は自分じゃないと懸命になって否定した。今の話を聞いて、理解できた。
昨夜の自分と、今の自分が違っても、自分である。自分自身からずっと繋がっているのだから。
だが、目の前に新たな自分が出てきたら、それはもはや自分ではない。
どれだけ、どれだけ自分の記憶と同じで、肉体が同じであって、同じこと柄に同じ感想を述べても、自分がここにいる以上、それは他人なのだ。
そして、この時片方が殺されても、他人からの観測上は霧雨魔理沙はいなくならない。
だが、その時殺されたのが二人のうち自分だったなら、その時点で観測上の霧雨魔理沙はいなくならなくも自分は死ぬのだ。
悪魔の妹、フランドール・スカーレットはそれをやっているのだ。やられているのだ。
フォーオブアカインドを使うたびに。そして、それを理解しながら、つまらないと言ってのけるのだ。
魔理沙は急に不安になった。今日、この後フランの元を訪ねようと思っていた。だから、正面玄関から堂々と入り、魔法使い仲間のパチュリーにも挨拶をしたのだ。
だが、その途中で自分は聞かなくても良いことを聞いてしまった。これから、地下に顔を出した時、その時彼女は、彼女なのだろうか。それとも、彼女そっくりの違うナニカなのだろうか。
「大丈夫よ、魔理沙。妹様本人にとっては違っても、私達にとっては、フランドール・スカーレット以外の何者でもないわ」
薄く、パチュリーが微笑む。それが、魔理沙には酷薄な笑みにすら見えた。
「事実、あなたは今まで何度か妹様相手に弾幕ごっこをやって、妹様はフォーオブアカインドを使っていたじゃない」
だから、大丈夫だと。地下にいるフランがフラン自身でなくなっても、フランであることには変わりないと。
「なるほど、気が狂わんばかりだ。いいや、気が狂ってきそうだ」
魔理沙は深々とため息を吐く。そして、冷えた紅茶を一気に飲み干し、席を立つ。
「私は、フランのところに顔を出してくる」
「あなたは、まだフランと呼べるのね」
魔理沙は答えなかった。それが、魔理沙が答えを持たないからなのか、持つが故なのか、魔理沙自身にしかわからないことだった。
地下からはフランの明るい歌声が響く。
Four little Indian boys going out to sea,
四人のインディアンの少年が海に出かけた
A red herring swallowed one and then there were three.
一人が燻製のニシンに飲まれ、三人になった。
Three little Indian boys walking in the zoo;
三人のインディアンの少年が動物園を歩いていた。
A big bear hugged one and then there were two.
大熊が一人を抱きしめ、二人になった。
Two Little Indian boys sitting in the sun;
二人のインディアンの少年が日向に座った
One got frizzled up and then there was one.
一人が陽に焼かれ、一人になった。
One little Indian boy living all alone;
一人のインディアンの少年は一人ぼっちで暮らしていた
He got married, and then there were none.
彼が結婚し、そして誰もいなくなった
以上、フランドール・スカーレットが狂ってる。とされる理由です。
フォーオブアカインドってそんなスペルじゃない。って言われたらそれまでです。
私なりに紅魔館メンツのレミリア以外にフランドールと呼ばれず、狂っているとされる理由を考えてみて書きました。