第8話
遅くなり申し訳有りません。
『明。走って!!ー』
その言葉の後周りを囲っていた男達が怯んでいる隙に、明は椎に引っ張られていた。
「ーーっ!!」
「ーークソ!!追え!!」
明は必死に逃げながら、自分の身に起きている出来事を考えていた。
(なんで?ーー朝まで平和だったじゃない)
お婆と楽しく笑い合い、椎と冗談を言い合い、村の人々との楽しいひと時。
様々な風景が脳裏によぎる。
溢れ出る不安が己の身に纏わり付き、幾度となく平穏な日々が脳裏に蘇る。
そんな最中ふと明は己の手を強く引く椎に視線を向けた。
椎は後ろを振り返りながら懐から次々と魔石を出して相手の男共に向けて放っていた。
「っ!!しつこいわね!良い加減に諦めなさいよ!」
そう呟きながら何度も追っ手の男達の牽制を行う。
色々な疑問や先程まで有った不安も椎のお陰で揺らぎつつあった。
そして何よりも椎の懐から次々と出て来る物のお陰で、呆れる様に(椎…その大量の魔石は何?)という疑問に塗り替えられた明であった。
それから一刻ほどだろうか、一人また一人と追っ手の男達は蒔くことができた。
「大分退治出来たわね。あの馬鹿共は」
ほっと息を吐いてひっそりと避難場所で二人は体を休めて居た。
「椎…ありがとう」
「お婆に聞いたわ。必ずあんたを家族ん所に連れてったげるからね」
にっこりと微笑んで宣言する椎の言葉に、明は待ったをかける。
「そのことなんだけれどね。私の家族ってどういう事?」
「え?明お婆に聞いてないの?」
明の言葉に驚く椎は、何やら自分の思考に意識がいっている様子である。
そんな椎を気にもとめず、明は言葉を続けた。
「今日その事でお婆に呼ばれてたの。何か言いたい事があった様なのだけれど、聞く前に黒尽くめの男が、お婆の店に侵入してきたの。お婆は椎に全て話してあるからって言って私を裏から逃がしたの」
椎は明の言葉を聞いていた様で、ボソッと呟く。
『…お婆の事だから大丈夫だとは思うけど、明を逃したって事は相当な相手ね』
「どういう事?」
「…え?」
「だから相当な相手ってどういう事なの?」
「あ!なんでもないよ。それより何も聞いてないなら私から話しといた方がいいわね」
椎はどうやら思いのほか声が出ていた様で、明に聞かれて咄嗟にごまかした。
あからさまな態度にお婆の安否が気にならない訳ではないが椎が話したくないのなら、それで良いかと自分を納得させた明であった。
椎も不満顔の明を見て不味いと思ったが何とか抑えてくれた明に対し安堵の気持ちと申し訳ない気持ちで一杯になった。
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