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魔法少女アイ

作者: 横山ヒロト

 私の名前はアイ。魔法使い――見習いだ。一部の人間は私のような存在を魔法少女と呼ぶらしい。

 いいや、呼び名なんてどうでもいい。とにかく私は一人前の魔法使いになる為に日夜修行に邁進している。

 そして今日もちゃんと魔法使いとしての責務を果たすのだ。

 魔法使いとしての責務、それは勿論、人間に魔法をかける事だ。

よし、ターゲットはあの冴えない男にしよう。

「おい、人間!」

 冴えない男は怯えた目で私を見た。本当に覇気のない男だ。

「な、なんですか」

いったい何に怯えているのか。目の前にいるのはこんな美少女だというのに。もっと素直に喜べ、人間め。

しかし、だからこそ力の見せ所だ。この冴えない男――ダメ男A(たった今命名)を全くの別人に生まれ変わらせてやる。

「私は魔法使いだ。これからお前に魔法をかけてやる」

自信満々に胸を張って言い放ってやった。胸を張っている割にはふくらみが見えないと言った奴は後で呪いの魔法を、それもうんと強力なやつをかけてやる。きっと私だって成長すればお姉さまのようなグラマラスバディになるんだ。

「えっ……?」

 ダメ男Aは唖然とした表情で私を見た。

「だ、か、ら。私は魔法使いだから、お前に魔法をかけてやる。感謝しろ!」

 再度胸を張る。胸を張っている割に――以下略。

 だいたい、偉大なる魔法使いとなる(予定の)私に同じことを二回も言わせるとは無礼な奴だ。でも、許してやろう。ようやく人間に魔法を使えるようになった私は気分がいい。

「わ、わるいけど、君の遊びに付き合ってる暇はないんだ。今日もバイトの面接に……失敗してしまって……」

 ダメ男Aは口籠りながらそう言った。

 またしても無礼な言葉を並てきたダメ男Aの不遜な態度はこの際、見逃したやる事にする。

「バイトの面接……とはなんだ?」

 ダメ男Aは深い溜息を吐いて、答えた。

「う~ん、どう説明したらわかり易いのかな……。えっと、僕はお金が必要で、その為には働かなきゃいけないんだ。でも、働くには、面接っていう……試験、みたいなもの、かな? とにかく、それに受からなくちゃいけないんだ。……要は、雇用主……働かせてくれる人に気に入られないと、いけないんだ」

 長々と説明されたが、はっきり言ってこの男の言ってる事はいまいちわからない。

 しかし、ちゃんと人間界のことを勉強してきた私は、なんとなく理解してしまったのだ。流石は私。

 カネ、というのはものの価値を表す尺度であり、それ自体が価値をもっていると表すものであるらしい。私達の世界にも同じようなものは存在する。

 つまり、この男は『ばいと』とやらでそれを稼がなければならないのだろう。そして、その為には同じ人間気に入られなければならないと言う事か。きっと私が物置を掃除する事で母上からクッキーを貰えるのと同じ仕組みだろう。

「なるほど、お前は気に入られたい、という訳だな」

「う~ん、気に入られたい、とか言う前に、自分に、自信を持ちたいんだ。僕は、いっつもそれで失敗してしまうし。どこでも、おどおどして、情けないって、それじゃあ、ダメだろ、って母さんにも……言われてるし」

 またしても無駄に話の長い奴だ。これは気に入られない筈だ。

 私は呆れながら腰に手を当てて、ダメ男Aの言いたい事を要約した。

「つまり、お前は『自信』が欲しいんだな」

「……うん、そう、かな」

「よし! じゃあ、お前に獅子の如き誇り高き心を授けよう!」

「えっ? 何言って――えっ! ちょっ!」

 まだウダウダ言うダメ男Aの小言を聞き流して、ダメ男Aの両手を握った。

 人間になど触れたくもないが、まだ修行中の私はこうして直接、魔法の力を流しこまないとうまく魔法をかけられないのだ。

 えっと、確かこういう場合の呪文は……

「キギル・ツシノ・ガノ・ミシテシタ」

 間違えないようにしっかりした発音で呪文を唱えた。

 私の手からダメ男Aの手へと熱が移っていくような感覚がゆっくりと広がった。たぶん、いや、これでいい筈だ。

「よし! これでお前は今日から誇り高き百十の王よりも誇りに満ち溢れるぞ! ははっ!」

 最後に、ダメ男Aに魔法でマーキングをしておく。これを忘れると、その後の経過を追うのが困難になり、自分の魔法の成果を確認できなくなってしまう。その辺りも私は抜かりないのだ。

 私は胸を張って――以下略。颯爽とその場を離れた。

 


そして、私は水晶を使ってダメ男Aのその後を追う事にした。

 私と別れた後暫く呆けた顔をしていたダメ男Aは私と別れた直後はまだのアホ面をしていたのだが、翌日、目が覚めた瞬間から別人のように覇気溢れる顔になっていた。

 少し心配していたが、やはり成功だ。勿論、この優秀な魔法使いの私が失敗なんてする筈はないけど。

 ダメ男Aは大学と言う名の学び舎に通っているようだが、そこでも自分から色々な人に話しかけていたし、授業中にも自ら発言する事が多かった。

 周りにいた窮地の友人らしき、またしても冴えない男達はその変わりように驚いていたが、当の本人はとても自信に溢れた顔をしていた。

 更には先日話していた面接とやらに訪れたダメ男Aは、身を乗り出す勢いでアピールをする。終わり際にはこんな事も自ら言いだした。

「採用ですよね!」

 面接官という立場らしい男は気圧されたように苦笑いを浮かべる。

「いやあ、検討したのち、合否の――」

「いえ、今聞きたいんです!」

「……はあ。……じゃあ、採用でいいか」

「ありがとうございます!」

 ダメ男Aは半ば無理矢理握手をして、快活に笑った。対する面接官の男はずっと苦笑いだったが。

 それからもダメ男Aは積極的に行動し続けた。

 自ら声をかけにいく事が多くなった彼の周囲には次第に人が多くなり、更には同じ大学に通う女に何度断られても告白し続け、結局は承諾を得るかたちになったりもした。

 なんだか、効果が大きすぎて自分でも驚くが、私は最初の研修に成功したのだ。

 そう思って安心すると、次第にダメ男A――いや、元ダメ男Aとでも言うべきか――からすっかり興味が失せてしまった。

 それから私は友人や家族に今回の事を誇らしげに語って回った。なぜか皆素直には褒めてくれなかったが……私に対して嫉妬でもしているのだろうか。まあ、それも仕方ない。天才はいつだって周囲の人間からは理解されないものだ。

 


 暫くしてから再び人間界に戻った私は、偶然にして元ダメ男Aに出会った。

 身なりや表情が出会った頃とはすっかり変わった彼は自分から私に声をかけてきた。

「やあ、君はあの時の!」

「ああ、どうも」

 正直、面倒臭かった。飽きるほど読んだ本を無理矢理読み直さなくてはならないような気分だ。

 もうこの男は私の手からは離れているんだ。あとは好き勝手にやってくれればいい。

 しかし元ダメ男Aは聞いてもいないのに近況報告を始めた。

「本当にありがとう! 君には感謝してるよ。まるで世界が変わったようだ! ははっ! 君は本当に魔法使いだったのかな? それとも俺に暗示をかけてくれたのか?」

 一人称まで変わっている。本当に効果テキメンだ。

 さらに私に返事をする隙も与えず、元ダメ男は言葉を重ねた。

「あれから、本当に俺の生活は一変したよ! 友人知人も沢山できたし。……まあ、元々付き合いが合った奴ら……それに、彼女も俺の元を去っていったんだけど、まあ、仕方ないな。アイツ等は俺の良さに気付けなかっただけだ!」

 言い切ると、元ダメ男Aは快活に笑った。

 ……どうでもいいが、声が大きい。

「それはよかったな。私はもうお前に要はないんだ。あとは自由にやってくれ」

「なんだ、ノリが悪いな! ま、いっか。本当にありがとうな! じゃ、俺はこれから合コンがあるから!」

 最後までテンションが高かった元ダメ男Aは笑いながら去っていった。

 ごうこん、というのがいったいどういった場所なのか、魔法界に戻ってから調べてみよう。

 それから、少し人間界の観察でもしようかと歩き始めてすぐ、嘗て元ダメ男Aの友人だった連中を見かけた。そしてその連中はこんな会話を交わしていた。

「ほんと、アイツ変わったよな」

「ああ、大学デビューってやつ?」

「だったら、入学してすぐにしろよな」

「だよなー」

「まあ、ウザいし、俺達の周りから消えてくれてほんとによかったよ」

「だな。でもさ、あいつリア充の連中からもウザがられてるみたいだぜ」

「マジで? まあ、そうだよな。あんなんじゃ」

「結局、どこにも居場所ないって事だな。馬鹿じゃん! ははッ」

「俺達のほうに戻ってこようとしても無視しようぜー」

「だなー」

 所々意味のわからない単語で話していたが、どうやら元ダメ男Aは良く思われてはいないようだ。

 ――――だけど、そんな事はどうだっていい。

 あの魔法は成功した。それだけで私は大満足だ。

 さて、今度はどの人間に、どんな魔法をかけようか。

 私は偉大な魔法使いになる為に、もっともっと魔法を使うんだ!

ラノベ大好きなのにラノベっぽい話をかけていなかったので、タイトル先行で作ってみました。シリーズ化する……かも。

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