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対怪獣迎撃装置操作員  作者: 藤道湖居
第1章 日本がうごくまで
8/47

2地球は止まり、再び動き出す 3

大塚弘明が「おはようございます」と朝の挨拶をしながら自分の席に着いた途端、すでに出社していた隣の席の高野浩二が、ニコニコしながら話しかけてきた。

「アメリカってやっぱすげーな!」

弘明は今朝のニュースのことかと思いついた。

アメリカが対怪獣迎撃装置を開発し撃退に成功したと、トップニュースで流していたのだ。

「ニュース見たよ。迎撃したと言っても、怪獣が現れている時間が少なくなっただけで、倒したわけじゃないとかっていうのが残念だけど。でも、どうやって開発したんだろうな」

久々の明るいニュースと、高野の笑顔につられ、弘明も笑顔で答えた。

職場の雰囲気もなんとなくいつもより明るく感じる。

「だよなあ! しかも技術を世界各国に無料で公開するって話しだぜ。まあ、見返りになんか要求するんだろうけどな。日本でも対怪獣迎撃装置を作るのかなあ。」

高野が身を乗り出して嬉しそうに話す。

高野の興味は怪獣を倒したことではなく、迎撃装置にあるようだと、弘明は気がついて笑った。

「ははあ。お前のツボはそっちか! 戦車とか詳しいもんな。でもまあ、俺が一番すごいと思ってるのは、超絶不況に半年間耐え抜いたこの会社かな。経営陣まじすごいわ。」

「おー、確かになあ。俺の大学時代の友人の半分は失業者だぜ。会社があって、給料が出るっていうだけですごいわ。」

「違う! 違うぞ、お前ら! すごいのは、日本が島国で怪獣があらわれる可能性がないってことだ! 俺はこの国に生まれたことの幸運を一番感謝してる!」

声を大にして叫んだのは、弘明と同期の来生智則だ。

来生は怪獣が現れたとき韓国支社で働いていた。

「まじで半年間地獄だったぜ。俺、日本海泳いで渡っても日本に帰ろうと考えてた」

現在韓国支社はもうない。

怪獣が現れて世界が止まっていたとき、輸出入ができなくなった韓国経済のダメージは、日本の比ではなかった。

韓国政府はIMF管理下に入ることを決定したが、IMFの援助を受けようとした国が数多くあったため、GDPが低い順からIMF管理下に入ることになり、韓国は放置された。

経済はジリ貧になり、食料はなくなり、暴動が多発した。

各国大使館に食料があるのではないかという噂が広がり、全ての大使館が襲撃を受けた。

一番最初に襲撃を受けたのは日本大使館である。

「日本人は皆、大使館に避難しようとしたけど、人数が多くて全員収容できなくて、俺もあぶれてさー。それがよかったんだよな。大使館に避難してた人たち、今どうなってるかわかんないからさ、、、、」

来生が遠くを見ながらぽつぽつと話す。

2人は何も言えなくなってしまった。


韓国支社だけではない。

多くの国で、特に発展途上国では暴動と略奪が多発していた。

世界各国にあった支社に勤務していた中、日本に帰れたのは来生以下、数名のみである。


地球が再び動き出したとき、日本は食料品や石油の輸入の開始と同時に、一番最初に行ったのは、海外在住日本人の帰国事業である。

政府機関関係者、駐在している会社員とその家族、旅行者、多くの日本人が海外に滞在していた。

しかし帰ってこれたのはほんのわずかであった。

現在も数千名が行方不目のままである。

またあわせて日本にいた外国人の帰還を行おうとしたのだが、自国に帰りたくないと、帰ろうとしない者も多く、不法滞在者が数多く日本に残っている。

毎日のように摘発が行われ、入管だけではなく、警察も不法滞在の摘発を必死に行っている。

旅行者のノービザは廃止され、新しくワーキングビザが発行されるのは、政府機関関係者のみであり、延長もなくなった。

新聞やTVで「有識者」といわれる人達が、「愛国主義だ! 差別だ!」と叫んだが、現在世界中が同じ状態なのである。

同意を示す人はほぼいなかった。

どの国も外国人を養う体力がもうないのだ。

自分が立っているのでさえやっとなのに、他人に力を貸すことなぞできはしない。


世界が止まる前と、再び動き始めた後、世界は確実にかわっていた。

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