1始まりの日 4
部の全員が無言で大会議室へ向かう。
大会議室といっても20名程度が集まる場所だ。
部の全員、約50名は入りきれず、ドアを開け放して、廊下にも人があふれた。
いつもなら会議が始まるまで雑談でザワザワしているのだが、誰も一言も発つしなかった。
「えー、皆混乱していることと思う。」
部長が話し始めた。
「ニュースでも流れていたが、これは現実に起こっていることである。」
皆が息を飲んだ。
「静かに! 現実だ。現実に怪獣が出た。確かめた者もいると思うが、ロイターもCNNもBBCもFrance2も同じ情報を流している。そして、わが社の各国の海外支社にも確認をとった。」
部長の話しに、これは現実に起こっていることだと、部の全員がわかりはじめた。
現状を認識したとしても、納得できるかは別の話しである。
「部長!待ってください!」
「本当なんですか?」
「うそでしょう!?」
皆朝から感じていたことを次から次へと口にしていく。
数人の女子社員が泣き始める。
新人が「まじやべー!」と叫ぶ。
弘明も「まじか」とぼそっとつぶやいた。
会議室が騒然となった。
しかし部長は何も言わず、皆が叫ぶのを止めない。
彼自身も30分前は同じことを叫んだからだ。
部下が不安に感じていることをすべて吐き出せようとした。
いったん吐き出せば、また人の話に耳を傾けることができるようになるだろうと考えた。
事実、10分ほど大騒ぎになったが、一人一人口をつぐんでいき、部長を見つめ始める。
いったい何が起こっているのか、さらに情報が欲しい。
会議室はまた水を打ったような静けさをとりもどした。