1始まりの日 2
「・・・・・・・・・」
弘明は一口しか飲んでいないコーヒーをテーブルにおいた。
窓の外を見ると、いつもの風景が目に入ってくる。
すずめの鳴き声が聞こえ、車の排気音がして、近所のおばさん達の挨拶する声が聞こえる。
部屋の壁にかかっているカレンダーを見て、日付を確認する。
今日は4月1日ではない。
マンガであれば、弘明の頭の上には、いくつものおおきなクエスチョンマークがついていただろう。
弘明は混乱した頭で出勤準備を整え、いつもよりかなり早い時間に家を出た。
歩いて5分ほどで地下鉄の駅についた。
いつもより、だいぶ人が多いように感じる。
売店を見ると、並んでいる新聞の一面のほとんどに、さっきニュースで見た怪獣っぽいものの写真が載っている。
他の新聞は違うタイプの怪獣っぽい物の写真が載っている。
弘明は、新聞を購入したが、脇に挟んだだけで、読もうとはしなかった。
後日、怖くて読めなかったと気がついた。
あまりに日常からかけ離れている事が起こっているため、頭が拒否したのだと。
それでも新聞を購入したのは、世の中で何かが起こっているのだから、情報収集しなければいけないという、社会人の常識というものを行動しようとしたのではないかと思った。
30分ほど地下鉄に揺られ、いつもの駅で降りて、会社まで歩く。
通りを歩きながら、ここもいつもより人が多いと、弘明は感じた。
会社が視界に入ってくると、自然と足が速くなる。
ビルのドアをかなりの早足で通り抜け、エレベーターホールまで行く。
周りに同じ会社の誰かがいないかキョロキョロ見回す。
誰もいなかったが、エレベーターホールにいた他の人も、まわりを見回していた。
弘明は、とにかく誰かと話したかった。
エレベーターホールにいた人もそうだったのだろう。
これは現実なのかと。
これは夢ではないのかと。