第1話
本編開始です
風が木の葉を揺らす音しか聞こえない。それもそのはずで、今いる場所は村から離れている。自分以外の人は目の前にいる男のだけだ。自分と同い年の子は墓の前にしゃがんで瞑目している。ここにきたのは久しぶりだからいろいろ報告しているのだろう。
「おまたせ、シラン」
いつのまにか、瞑目していた男の子が目の前にたっていた。もう少しかかると思っていただけに驚いた
「もういいの?ハイレンあまりきてないようだったから、もう少しかかると表たんだけど」
ハイレンと呼ばれた少年は、中肉中背の一般的な体型だ。特徴的なのが柔らかそうな黒髪だ。正確に言うとダークレーズンだけど。自分と同じ16歳のわりに落ち着いて見えるのは今まで苦労してきたからだろう。それでも冗談もいうし人をからかったりもするが。
「母さんだったら、そんな細かいこと報告するな、って怒鳴ってくるよ。きっと」ちょっと困ったように笑った
「あの人ならそういうかもね。……あれから3年たったんだね」
「そうだね。俺もシランのとこにずっと世話になりっぱなしだしな」
「家は孤児園も兼ねているんだから、そんなこと気にしなくていいの。ハイレンはいろいろ手伝ってくれてたし」
「そりゃね。ただ世話になってるってのもさすがに嫌だったし」
「…………」
「シラン?」ハイレンが顔を覗きこんできた
「…ねえどうしてもいくの?」
今までずっと気にしてきていた。何度も止めようとした
「…うん」
答えはいつも同じだった
「べつに追い出されたわけじゃないでしょ?なんで転校しなきゃいけないの?」シランは不服そうに言った。
「あそこの人たちは俺と違いすぎるんだ。それに追い出されたようなもんだよ」ハイレンは悲しそうな顔をしていた
「だからってレゼン地方なんて遠いところに行かなくても…園のみんなも寂しがってるよ」
「仕方ないよ。そこの学園しか受け入れてくれなかったんだ。それに奨学金もそこだけだったんだ」
「バカ!!」
「あ、おい。シラン!」
「それじゃ、いってくるよ。母さん」
最後に墓にそれだけいうと、帰っていくシランの背中を追いかけて走る。応援するかのように追い風が吹いていた
「たまには帰ってきなさいよ。みんなハイレンのことまってるんだから」
「わかってるよ……」それきり二人とも黙って村に戻っていった