(7)おせっかい
バス停は学校の目の前にあった。バスの本数自体は多くはないが、通学を考慮したダイヤになっていて、普通に学校生活を送っていれば交通手段には困らない。
「ふーん、バスは夜の七時半まであるのか。でも強い部活に入ったら、これより遅く練習することもあるよな……。そういう時はどうするんだろ……。」
一哉はバス停の時刻表とにらめっこをしながら、独り言にしてはやけに大きな声でつぶやいていた。
部活の話を真琴に持ちかけるのは気まずい事この上ないが、やはり気になってしょうがない。だから、半ば強引なような気もするが、バス時刻の話から部活の話に持っていこう。一哉はそう思って、うしろの真琴にも聞こえるような声でつぶやいているのだ。
しかし、そんな一哉の思いとは裏腹に、真琴はさっきから貧乏揺すりをして落ち着かない様子。考え事があるのか、どこか上の空といった感じで、一哉の話なんか全く聞いていなかった。
――それから数分後、もうすぐでバスが来るという時だった。
「し、清水っ!ファミレス行こ!!」
唐突に、少し離れたところに見えるファミリーレストランの看板を指さして、真琴が言った。
「はっ!?も、もうすぐバス来るぞ?」
「いいから!!つ、次のバス乗ればいいでしょ!」
「で、でも、次は五十分後……。」
真琴に腕を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる一哉。訳がわからず、とりあえずその場に踏みとどまろうと、足に力を入れる。
さすが元ハンド部のエース。真琴の力じゃびくともしない。そうこうしている内に、バスの影がそのファミレスの方向に見えてきた。
すると真琴は諦めたのだろう。今まで腕を掴んでいた手の力を抜いて、顔を真っ赤にしてこう言った。
「トイレ……トイレ行きたいの、もう!」
「えっ……。」
なるほど、だからさっきから貧乏揺すりが止まらなかったのか。
「はやく……結構ヤバイんだから……。」
「お、おう……。」
だったら限界になる前に言えばいいのに。一哉は半分呆れたような表情をして、早足でファミレスの方に向かう真琴の後を追いかけ始めた。途中、横を通って行ったバスを恨めしそうに見つめながら……。
ファミレスに着くと、真琴は一目散にトイレに……行かなかった。恥ずかしいと思ったのか、一旦座席についてブザーを押し、店員さんが注文を訊きに来たあとにようやく席をたった。
「……ふぅ。女ってわかんねーや。トイレってそんなに恥ずかしいもんか?」
座席にひとり取り残された一哉は、お冷をぐいっと飲み干してつぶやいた。そしてその後頭をめぐったのは、やはり部活のこと。
「学校であいつが話してたのって、入学式でトランペットを吹いてた人だよな……。」
ものすごーく上手い人。小学校の頃に吹奏楽をやっていた一哉にとっても、あのトランペットは興味の対象で、深く印象に残っていた。
けれども、真琴も真琴であの人とは違う上手さがある。中学の頃、式典とかの度に演奏を聴いてきた一哉は、それを知っていた。
「やっぱり勿体無いよな……あいつが吹奏楽をやらないなんて。」
テーブルに肘をつけ、はぁっとため息をつく一哉。
「せっかくファミレスに来て話す時間も結構取れるんだし、もう一回説得してみるか……。」
余計なお世話なのかもしれない。本人がやらないと言っているのだから、それでいいのかもしれない。
でもあいつは、吹奏楽が大好きで、未練もいっぱいある。一哉はそれが分かっているから、放っておけなかった。