57. Sランクの接待と、規格外の着火
私用の都合で投稿が遅くなってしまいました!
ごめんなさい!m(_ _)m
いつも読んでくださり、ありがとうございます!
翌朝。
俺は新居のベッドで、最高に優雅な朝を迎えていた。
隣にはモフモフのポムとルナ、枕元にはエメとシャボン。
そして、俺の腹の上――最も安心できる特等席を陣取って眠っているのは、相棒のクオンだ。
ずっしりと心地よい重みと、極上の毛並み。まさにモフモフ天国。昨日までの野営生活とは大違いだ。
「ふわぁ……。よく寝たな」
今日はのんびり家具でも買い足そうか、それとも庭の手入れでもしようか。
そんな平和な計画を立てていた、その時だった。
ドンドンドンドンドンッ!!!!
「師匠ぉぉぉッ!お迎えに上がりましたぁッ!!」
屋敷全体が揺れるような激しいノックと、近所迷惑なほどデカい声が響き渡った。
「……なんだぁ?」
俺が不機嫌に扉を開けると、そこにはフル装備のゼグノスとガイル、そして非常に気まずそうな顔をした魔導士ミリシアの『紅蓮』トリオが立っていた。
「おはようございます、師匠!さあ、行きますよ!」
「……どこへ?」
「決まってるでしょう!ダンジョンです!」
ゼグノスが悲壮な覚悟を決めた顔で叫んだ。
「昨夜は師匠の引越し祝いだと言っておきながら……結局、師匠の財布から支払わせてしまった!このままじゃ『紅蓮』の名折れ!男が廃るってもんです!」
「いや、元は俺が巻き上げた金だから気にするなよ」
「気にします!なので今日一日、俺たちが師匠の『護衛』兼『素材集め』として、最高のおもてなしをさせていただきます!もちろん稼ぎは全額師匠に献上します!」
「俺もです!へそくりを返してくれた師匠のために、命がけで働きます!」
ガイルも鼻息を荒くしている。
その横で、ミリシアが深々とため息をついた。
「……ごめんなさいね。この人たち、朝から『師匠への詫びだ!』ってうるさくて……止めても聞かなくて」
「お前も大変だな……」
こいつら、昨夜の借りを返すまで帰らないつもりだ。
まあ、せっかく迷宮都市に拠点を構えたんだ。食材や素材の現地調達も悪くないか。
「分かったよ。……みんな、寝てるところ悪いんだが……散歩に行こうか」
俺が優しく声をかけると、腹の上のクオンが片目を開けてあくびをした。
「(フン、騒々しい客だな。まあよい、レンジが望むなら付き合ってやろう)」
「みー!(お外いくー!)」
俺はクオンたち全員を連れて、表に待たせてあった豪華な馬車に乗り込んだ。
◇
馬車は迷宮都市の中心部を抜け、郊外へと向かって走っていく。
向かう先は、街外れにそびえ立つ巨大な塔――『大迷宮バベル』。通称『奈落の塔』だ。
「さすがに街中の『バルガン地下迷宮』には行かないよな」
俺が以前、ギルドマスターのミリアに頼まれて潜ったのは、街の中心にある地下迷宮だった。
俺の言葉に、向かいに座ったゼグノスが頷く。
「ええ。バルガンは初心者から中級者向けですからね。今日、師匠をご案内するのは大陸最難関の一つ『バベル』です」
「バベル……。(……昔やってたゲームに、そんな名前の迷宮があったな)」
俺は心の中で懐かしんだ。
塔といえばバベル、というのは定番のネーミングだ。偶然の一致だろう。
「全100階層とも言われてますが、未だ最深部に到達した者はいません。私たち『紅蓮』がSランクに昇格できたのも、このバベルでの実績が認められたからなんです」
横からミリシアが補足説明をしてくれる。
なるほど、こっちの世界でも最高難易度なのか。
「半年前、未到達領域だった50階層の『階層主』を撃破しましてね!あれはキツかったなぁ!」
ガイルが得意げに語りだす。
どうやら彼らは、この都市でトップクラスの実力者として名を馳せているらしい。
「なるほどな。……まあ、俺はバルガン迷宮ですら、まともに攻略したことないからなぁ」
「ああ、以前潜ったとおっしゃってましたね。どの辺りまで?5階層くらいですか?」
「いや、一応最下層の10階層まで行ったぞ。汚れが酷かったから、上から下まで全部掃除してきた」
「「「……は?」」」
三人が固まった。
「いや、だって5階層にさ、なんか凄い汚れた鎧がいて通せんぼしてたんだよ」
「5階層……?あそこは『ヘビーゴーレム』が出る場所じゃ……」
「いや、以前ミリアさんにも言ったんだが、『アビス・ナイト』とかいう名前だったな。で、そいつが着てた鎧が呪いで錆びついてて可哀想だったから、ハサミで鎧を切って脱がしてやったんだよ。そしたら中身の魂が『ありがとう……』って成仏していった」
ガイルが目を見開いて絶叫した。
「ア、アビス・ナイトぉぉッ!?推奨レベル50のレアボスじゃねぇか!!しかも『物理攻撃無効』だぞ!?ハサミで切れるわけがねぇ!!」
「いや、切れたぞ?あと10階層の最深部もヤバかったな。迷宮の浄化機能が止まってて、泥の塊みたいなのが湧いてたんだ」
「ま、まさか……それは……」
ミリシアの顔色が蒼白になる。
「『カース・スライム』……!『澱み』が臨界点を超えた時にだけ現れる、町を丸ごと飲み込む災害級の魔物よ!?」
「ああ、そんな名前だったかも。凄かったぞ。泥の中に武器とか瓦礫が渦巻いてて、物理攻撃も効かないんだ。だからクオンたちに動きを止めてもらって、俺が泥の中に飛び込んだ」
「と、飛び込んだぁ!?」
「ああ。よく見たら中心に何かが埋まってて、ゴミが絡まって苦しそうだったからな。だから『絶対解毛』で、核に絡みついた呪いのゴミだけを綺麗にカットしてやったんだよ」
俺がサラリと言うと、三人は開いた口が塞がらない様子だ。
「そしたら、泥が全部落ちて中から『水の精霊』が出てきたんだ。精霊は俺にニコッて笑って、『ありがとう、掃除屋さん』って、お礼のキスをして消えていったよ」
俺は遠い目をしながら、ふっと笑った。
「去り際に『いや、俺トリマーなんだけどな……』って呟いたけど、もう消えた後だった。……まあ、やってることは掃除みたいなもんだから、否定しきれないのが辛いところだ」
「嘘だろ……。信じられねぇ……」
ゼグノスが頭を抱える。
無理もない。証拠を見せたほうが早いか。
「確か、その時にもらった称号があったな。えっと……」
俺は目の前の空間に指を走らせた。
本来、ステータスや称号はギルドの鑑定水晶を使わなければ確認できない不可視の情報だ。
だが、俺のユニークスキルには、対象の状態を詳細に見抜く力がある。
ブォン、と空中に青白いウィンドウが浮かび上がった。
【称号:迷宮の清掃人】
【称号:精霊の友】
「「「なっ……!?」」」
それを見た瞬間、三人が称号の内容を見るよりも前に、椅子から転げ落ちそうになった。
「え、ええええッ!? く、空間投影!?」
ミリシアが素っ頓狂な声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って!ステータスを自分で視認するだけならまだしも、それを他者に可視化して見せるなんて……!そんなこと、宮廷筆頭魔導士様だってできないわよ!?どうなってるの!?」
「え?ああ、これか?俺のユニークスキル『神の手』の能力の一部なんだよ。トリミングする対象の状態を把握するのに便利なんだ」
「『神の手』……!?なにその恐れ多い名前のスキル……」
三人がガクガクと震えている。
「お前たちのステータスも見れるぞ」
俺が指をスライドさせると、新たに三つのウィンドウが空中に展開された。
【名前:ゼグノス】
【職業:紅蓮の剣王】
【Lv:75】
【HP:245,000】
【MP:1,500】
【スキル:大剣術(S)、剛力(S)、身体強化(A)、指揮(B)】
【名前:ガイル】
【職業:斥候】
【Lv:72】
【HP:138,000】
【MP:2,800】
【スキル:短剣術(A)、気配遮断(S)、罠解除(S)、隠蔽(A)】
【隠しスキル:暗殺術】
【名前:ミリシア】
【職業:殲滅の魔女】
【Lv:74】
【HP:89,000】
【MP:450,000】
【スキル:火属性魔法(S)、雷属性魔法(A)、水属性魔法(S)、魔力感知(S)、高速詠唱(A)】
「うわッ!?俺のステータスだ!HPとかスキルランクとか、全部合ってる……!」
「うひゃあ……ずっと隠してた『暗殺術』までバレてる……。これ、ギルドの最高級鑑定水晶より精密ですよ……」
「嘘でしょ……スキル名まで完全に解析されてる……」
三人は自分のステータスを見せつけられ、顔面蒼白になっている。
冒険者にとってステータスは命の次に大事な個人情報。それを一瞬で丸裸にされたのだから無理もない。
俺もこっそり数値を確認する。
Cランクの平均HPが1万2千程度と言われるこの世界で、こいつらのステータスはまさに規格外だ。
特にゼグノスのHP約25万は、城壁並みの硬さだろう。
……まあ、レベル11でHP15万のルナとか、HP3億超えのクオンを見慣れている俺からすれば、「人間にしては頑張ってるな」という感想しか出てこないんだが。
「まあ、悪いようにはしないから安心しろ。」
「「「…………」」」
馬車内が完全な沈黙に包まれた。
「(この人、本当に何者なの……?)」
馬車内が畏怖と困惑の空気に包まれる中、窓の外に巨大な影が見えてきた。
雲を突き抜けるほど巨大な、黒い塔。
あれが『大迷宮バベル』か。
◇
入り口の広場には、殺伐とした空気が漂っていた。
ここにいる冒険者は、皆一様に目つきが鋭く、装備も一級品だ。
「ここからは俺たちの特権を使います……」
ゼグノスが若干疲れた顔で案内したのは、塔の入り口脇にある巨大な魔法陣だった。
「転移陣だ。バベルは深すぎるからな。一度攻略して『鍵』を手に入れた階層までは、ここからワープできる仕組みなんだ」
「へぇ、便利だな」
「俺たちが攻略済みの50階層、『巨獣の森』へ直行します。ついてきてください!」
俺たちは光に包まれ、一瞬で景色が切り替わった。
◇
転移した先は、鬱蒼とした原生林だった。
木々はビル並みに高く、遠くから恐竜のような咆哮が聞こえてくる。
「グルルルゥッ!!」
早速、茂みから全長5メートルはある『ティラノ・ベア』の群れが現れた。
「師匠!下がっていてください!ここは俺たちが!」
ゼグノスとガイルが飛び出す。
修繕した大剣が一閃し、ガイルの短剣が急所を貫く。
鮮やかな連携だ。だが、敵の数が多い。後方からも増援が迫る。
「上からも来るわよ!飛行型の群れだわ!」
ミリシアの声に空を見上げると、翼竜の群れが急降下してきていた。
物理攻撃が届きにくい厄介な相手だ。だが――。
「まとめていくわよ!『爆炎』!!」
ミリシアが杖を掲げると、巨大な火球が生まれ、地上のティラノ・ベアを一掃した。
さらに彼女は杖を振り上げ、空へと向ける。
「逃がさない!『雷霆の槍』!!」
バリバリバリッ!!
今度は青白い雷撃が何本も降り注ぎ、空中のワイバーンたちを正確に撃ち抜いていく。
「うおお……ッ!すげぇ……」
俺は思わず感嘆の声を漏らした。
炎で焼き払い、雷で撃ち落とす。まさに一騎当千。
これが魔法使い……Sランクの火力担当か。
「ふふん、これくらい当然よ。伊達にSランクやってないわ」
殲滅を終えたミリシアが、少し得意げに髪を払う。
その姿を見て、俺の中に一つの羨望が生まれた。
(いいなぁ……魔法。ちゃんとしてて便利そうだなぁ)
俺には『生活魔法』しかない。
以前、洞窟で『高圧洗浄』を使った時は、威力が高すぎて洞窟ごと崩落させてしまった。
ゼグノスの剣を直した『洗浄』も、あくまで汚れを落として修繕するだけだ。
俺が求めているのは、あんなふうに「適度な威力」で「遠くの敵を倒す」スマートな手段だ。
トリミングの幅も広がるかもしれない。
「なぁミリシア。俺にもそれ、教えてくれないか?」
「え?」
「俺、生活魔法しか使えなくてさ。前にも『高圧洗浄』で山を一つ崩しちまったことがあるんだよ。だから、制御された攻撃魔法に憧れるんだ」
「……山を崩した?」
ミリシアが不穏な単語を聞き取った気がしたが、俺は構わず続けた。
「頼む。ちゃんとした魔法の使い方を教えてくれ」
俺が真剣に頼むと、ミリシアは困ったように眉を下げた。
「うーん……攻撃魔法は才能と『属性』が必要なのよ。でも、魔力を込めて放つイメージは生活魔法も同じね。貴方、魔力量だけはデタラメに多いみたいだし……試しに一番簡単な火魔法をやってみる?」
「ああ、頼む」
「標的はあの岩よ。魔力を一点に集中して……弾けさせるイメージで!」
ミリシアの指導に従い、俺は指先を岩に向けた。魔法のスキルはない。
だが、生活魔法の『着火』ならスキルが無くても使える。
これに、俺の魔力を乗せれば……。
(一点に集中……弾けさせる……!)
「――『着火』ッ!」
ドォォォォォォォォォン!!!!
俺の指先から放たれたのは、種火ではない。
極太のレーザーのような紅蓮の奔流だった。
それは岩を飲み込み、後方の木々を薙ぎ倒し、地面をえぐり取りながら一直線に森を貫いた。
「「「…………は?」」」
ゼグノス、ガイル、ミリシアの三人が口をポカーンと開けて固まった。
射線上には、何も残っていない。
ただ、溶岩のようにドロドロに溶けた地面が続いているだけだ。
「……あー、ちょっと魔力込めすぎたか?」
俺が首を傾げると、ミリシアが震える手で俺の胸ぐらを掴んだ。
「な、ななな、何よこれぇぇぇッ!?」
「え?『着火』だけど」
「これが『着火』なわけあるかぁッ!!私の『爆炎』より威力高いじゃない!!生活魔法で戦略級の破壊を起こさないでよ!!」
ミリシアが涙目で叫ぶ。
横ではゼグノスとガイルが、なぜか誇らしげに腕を組んでいた。
「さすが師匠だぜ……!魔法を使わせても最強か」
「着火で森が消えた……。やっぱり神だ……」
「あんたたちも納得してないで止めなさいよ!!」
騒がしい外野を他所に、俺の足元でクオンが呆れたようにあくびをした。
「(……やれやれ。だから言ったであろう、魔力操作と制御を覚えろと。貴様のそれは、蛇口が壊れた水道管のようなものだ)」
「う……。返す言葉もございません」
どうやら俺は、魔法の加減練習から始めないといけないらしい。
レベル1のまま、火力だけがインフレしていく……。
◇
その後、俺たちは『安全地帯』で昼食休憩をとっていた。
ミリシアはまだブツブツと「常識が……」「魔力がおかしい……」と呟いている。
「ほら、飯にするぞ。元気出せ」
俺は『魔法鞄』から弁当を取り出し、みんなに振舞った。
今朝はいきなり叩き起こされて連行されたから、当然、弁当を作る時間も買い出しに行く暇もなかった。
だが、心配は無用だ。この鞄の中は時間が停止している。
「前の街にいた頃に、大量に作り置きしておいて正解だったな。味も鮮度も、作った時のままだ」
ポムも「みぃ〜(おいちー)」とサンドイッチを頬張っている。
そんな和やかなランチタイムを過ごしていると――遠くから、ボロボロになった一団が歩いてくるのが見えた。
装備は立派だが、鎧は半壊し、全員が負傷している。
「あれは……Sランクパーティの『銀翼』か?」
ゼグノスが眉をひそめる。
「あんなの勝てるわけ……!」
「毒が……回復薬が足りない……!」
彼らは錯乱状態で、俺たちのいる安全地帯に倒れ込んできた。
「おい!しっかりしろ!何があった!?」
ゼグノスが駆け寄る。
リーダーらしき男が、震える指で奥を指差した。
「い、いたんだ……。『変異種』だ……!全身が『腐食の粘液』に覆われた、巨大なナメクジみたいな化け物が……!」
「腐食の粘液だと?」
その言葉に、俺の眉がピクリと動いた。
「あいつの粘液に触れたら、剣も鎧も一瞬で溶かされる……!魔法も効かない……!あんなの、どうしようもねぇ……!」
男は絶望の表情で叫んだ。
ゼグノスが厳しい顔で俺を振り返る。
「師匠……こいつは厄介です。装備を溶かす敵は、俺たち前衛にとっても天敵だ。魔法も効かないとなると、ミリシアの火力も通じるか怪しい。一度撤退して、対策を――」
「ゼグノス」
俺は立ち上がり、パンパンと服の埃を払った。
その目は、獲物を見つけた狩人のように輝いていた。
「そいつ……『ヌルヌル』してるのか?」
「は?ええ、まあ……粘液ですから」
「……良し」
俺はニヤリと笑い、腰の『聖銀のハサミ』に手をかけた。
「装備を溶かす粘液?関係ないな。俺が綺麗サッパリ『洗浄』してやる」
トリマーにとって、汚れやヌメリは敵ではない。
ただの「洗い甲斐のあるお客様」だ。
「案内しろ。その『ヌルヌル』、俺が引き受ける」
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