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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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53. 事故物件?いいえ、理想のおうちです





「……ここか」


メインストリートを歩くこと数十分。

相変わらず周囲の冒険者たちが「ヒッ……目が合った……!」「服を守れ……!」と逃げ惑う中、俺たちは目的の店の前に立っていた。


たぬきの隠れ穴』。

表向きは普通の不動産屋だが、裏では訳ありの冒険者に隠れ家を斡旋していると噂の店だ。

ここなら、俺みたいな(風評被害を受けた)人間にも、いい物件を紹介してくれるだろう。

カランカラン……。


「いらっしゃい……ッ!?」


扉を開けた瞬間、カウンターにいた小太りの店主の顔が引きつった。

彼は俺の顔と、その背後にいるクオンたちを見るなり、露骨に嫌悪感と恐怖を混ぜた表情を浮かべた。


「お、おい……。お前、噂の『装甲剥がし』だな?」


「……その不名誉な呼び名は否定したいが、まあ、俺だ。家を探しに来たんだが」


俺がカウンターに近づこうとすると、店主はバンッ! と机を叩いて立ち上がった。


「帰ってくれ!うちはお前みたいな『変態』に紹介できる物件はねぇ!」


「は?」


「とぼけるな!獲物の服を剥いで楽しむサディストなんだろ!?そんな奴に家なんか売ってみろ、『狸の隠れ穴』の評判に関わる!」


店主はさらに、俺の足元にいるクオンを指差して唾を飛ばした。


「それに、なんだその薄汚い獣は!そんなデカい野良犬を店に入れるな!上等な絨毯やソファに、獣臭さが染み付くだろうが!衛兵を呼ばれる前に、その駄犬と一緒にさっさと出ていけ!」


「……あ?」


俺のこめかみがピクリと反応した。

俺を侮辱するのはいい。だが、クオンを「薄汚い野良犬」呼ばわりするのは許せない。


「(……おいレンジ。我慢ならん)」


足元でクオンが、喉の奥で低く危険な音を鳴らした。

その瞳には、隠しきれない殺気が揺らめいている。


「(我が下等な人間に侮辱されるとはな。……こんな店、狐火きつねび一発で吹き飛ばして更地にしてやろうか?)」


「やめろバカ。余計に話がややこしくなる」


俺は慌ててクオンを制した。

ここで暴れれば、それこそ変態の汚名に「放火魔」まで追加されてしまう。


「……分かったよ。邪魔したな」


俺が諦めて踵を返そうとした、その時だった。

カランカラン……。

背後の扉が開き、巨大な影が店内に差した。


「――おい。どうした騒がしいな」


地響きのような低い声。

店内の空気が、一瞬で凍りついた。

そこに立っていたのは、真紅の重厚な鎧を纏った巨漢。

顔には歴戦の傷跡があり、背中には身の丈ほどもある大剣を背負っている。


「ゼ、ゼグノス……様……!?」


店主の声が裏返った。

現れたのは、Sランク冒険者ゼグノス。

この街で彼の顔を知らない者はいない、生ける伝説の一人だ。

ゼグノスは鋭い眼光で店内を見回し――そして、俺を見つけた瞬間、その凶悪な面構えをパァッと明るくさせた。


「おう!師匠じゃねぇか!」


「げっ、ゼグノス」


俺は身構えた。

この間、無理やり魔法で剣を直したとはいえ、彼は俺のことを「詐欺師」と呼んでいた男だ。また何か文句を言われるんじゃ――。

ゼグノスはズカズカと歩み寄ってくると、嬉々として背中の魔剣『紅蓮』を叩いた。


「この間は世話になったな!あれからダンジョンで試し斬りをしてきたが……最高だったぜ!魔力伝導率が段違いだ。ドラゴンの鱗も紙切れみてぇにスパスパ斬れやがる!」


「そりゃよかったな。ちゃんと手入れ(ケア)してやれば、道具は応えてくれるもんだ」


「違げぇねぇ!一生ついていくぜ!師匠!」


ゼグノスはガハハと笑った後、ふと訝しげに店主の方へ視線を向けた。


「……で?さっきから何揉めてんだ?俺の師匠が、なんか気に食わねぇことでもしたか?」


その一言で、店主は石像のように固まった。


「し、ししし……師匠ぉぉ!?」


「あぁ。こいつは俺の『紅蓮』を蘇らせた恩人だ。……おい豚野郎。まさかとは思うが、俺の師匠を追い出そうとしてたんじゃねぇだろうな?」


ゼグノスの声から陽気さが消え、底冷えするようなドスが混じる。

ピキリ、と空気が張り詰める。

ただ睨んでいるだけではない。Sランク冒険者特有の濃密な殺気が、店主を押し潰そうとしていた。


「ひぃッ!?」


「もしそうなら……今後、俺たち『赤竜の牙』クランはお前の店を一切使わねぇ。当然、他のSランク連中にも言いふらしてやる。『あの店は見る目がない』ってな」


「そ、そんな……ッ!!」


店主の顔から血の気が完全に引いた。

冒険者相手の商売にとって、Sランク冒険者の口コミは生死に関わる。ましてや最大手クランに見放されれば、廃業は免れない。


「わ、分かりましたぁぁ!!し、紹介させていただきますぅぅ!!」


店主は土下座の勢いでカウンターに戻り、震える手で羊皮紙を広げた。


「た、ただ……街中の物件は、すでに住民たちの反対署名がありまして……」


「チッ、使えねぇな。……おい師匠。どんな家がいいんだ?」


ゼグノスに聞かれ、俺は条件を伝えた。


「大型犬が走り回れる広い庭。水はけが良い土地。防音性。そして人里離れた静かな場所だ」


「ほう……。なら、あそこしかねぇな」


ゼグノスがニヤリと笑い、店主の手元にある一枚の地図を指差した。


「『旧・魔爵ましゃくの屋敷』だ」


店主がギョッとして顔を上げた。


「ぜ、ゼグノス様!? あそこは特級の事故物件ですよ!?『呪いの獣』が出るって噂の……!」


「だからいいんじゃねぇか。幽霊が出るくらい静かで、敷地は広大。文句ねぇだろ?」


ゼグノスは俺の方を向き、悪戯っ子のように笑った。


「それに、師匠のその『ゴッドハンド』なら、呪いだろうがなんだろうが、綺麗サッパリ洗い流しちまうでしょう?」


「……『神の手』だけどな?勝手に技名を横文字にするなよ。某超次元サッカーアニメに怒られるだろ」


俺は軽く訂正を入れてから、ため息をついた。


「それに、買い被りすぎだ」


「へへッ、謙遜しなくてもいいのに」


俺は苦笑したが、条件は悪くない。


「まぁ、いいか。そこを見せてくれ」


「話が早ぇ!……おい豚野郎、案内しろ。俺もついていく」


「は、はいぃぃぃッ!!」


          ◇


馬車に揺られること一時間。

俺たちは鬱蒼とした森の奥にある、巨大な鉄格子の門の前に到着した。

門の奥には、蔦に覆われた古びた洋館がそびえ立っている。

窓ガラスは割れ、庭は雑草が伸び放題。

そして何より、屋敷全体からドス黒い瘴気のようなオーラが立ち上っている。


「……相変わらず趣味の悪い屋敷だぜ」


ゼグノスが顔をしかめる。

さすがにSランク冒険者だけあって、中の「気配」に気づいているようだ。


「(……ふむ。中にいるな。かなり気が立っているぞ)」


足元のクオンも警戒を強めている。

俺たちが軋む扉を開けてホールへと足を踏み入れた、その瞬間だった。


『グォォォォォォォォォッ…………!!!』


鼓膜を破らんばかりの咆哮が、屋敷全体を震わせた。

天井から埃がバラバラと落ちてくる。


「ひぃッ!!」


店主が腰を抜かす中、ホールの奥からズシン、ズシン……と重い音が響き渡り、やがてその姿が現れた。

そこにいたのは、3メートルを超える巨大な白い塊。

全身が「白い荒縄のような触手」で覆われ、その隙間から赤い眼光がギロリと光っている。


『グルルルゥ……ッ!!』

「出やがったな、『呪いの獣』……ッ!」


店主が悲鳴を上げた。


「ひぃぃっ!あ、あれだ!噂の『白い触手』だ!!あんなもんに巻きつかれたら、骨ごとすり潰されちまうぞぉぉ!!」


ジャキッ!!

ゼグノスが背中の『紅蓮』を一瞬で抜き放った。

真紅の刀身がギラリと輝き、殺気が膨れ上がる。


「へっ!ドラゴンに比べりゃ手応えねぇが……上等だ!」


ゼグノスは獰猛な笑みを浮かべ、大剣を構えた。


「テメェを俺の『紅蓮』のさびにしてやるぜ!!……あ、いや、また錆びさせたらダメか。師匠に怒られちまうな」


「待てバカ!斬るな!」


ボケる暇もなく斬りかかろうとするゼグノスの腕を、俺は慌てて掴んだ。


「あ?なんで止めるんだ?このままじゃ襲ってくるぞ!」


「よく見ろ!あれは触手じゃない!」


「はぁ?」


俺はゼグノスを制しながら、眼前の怪物をじっと見据えた。

確かに見た目は禍々しい。だが、トリマーとしての直感が告げていた。

『これは、魔物の本来の姿ではない』と。

俺は目を細め、意識を集中した。


「――【解析スキャン】」

一瞬、俺の瞳の奥に青白い光が走った。

視界に映る「怪物」の情報が分解され、構造図となって脳内に飛び込んでくる。


(……やっぱりだ)


解析結果は明確だった。

『触手』に見えるものは、高密度に絡まり合った獣毛。

『咆哮』は、皮膚が引っ張られる激痛による悲鳴。

そして深部にある本体は、怯えて震えている小動物(と言ってもデカいが)。


(なんてこった……。こんなになるまで放置されてたのか)


俺の中で、恐怖よりも「怒り」に近い感情が湧き上がった。

それは飼育放棄ネグレクトに対する、トリマーとしての義憤だ。


「あれは……ただの『毛玉フェルト』だ」


俺は静かに言い放った。


「は?」


ゼグノスと店主の声が重なった。


「こいつは『アンゴラ・ビースト』だ。長年手入れをされなかったせいで、毛が伸びすぎて固まり、前が見えなくなってるだけだ。」


よく見れば、怪物は暴れているというより、重すぎる毛に振り回されてパニックになっているだけだった。

ガチガチに固まった毛が皮膚を引っ張り、悲鳴を上げているのだ。


「……マジかよ。ただの毛玉だってのか?」


ゼグノスが剣を下げ、呆れたように呟く。


「ああ。……店主、ここを買う。即決だ」


「えぇっ!?」


「ただし、この『付属品もふもふ』込みだ。俺が責任を持って綺麗にしてやる」


俺は腰の『魔法鞄』から、愛用の聖銀のハサミを取り出した。

チャキッ、と音を立てて、怪物に向き直る。


「ゼグノス。一生ついていくって言ったな?」


「あ、ああ……言ったが……」


「なら手伝え。お前のその筋肉で、あいつを押さえろ」


「はぁ!?斬るんじゃなくて、押さえるのか!? 俺の腕力を『保定』に使えってのか!?」


「暴れるとハサミが刺さって危ないからな。頼んだぞ!」


俺の言葉に、ゼグノスは一瞬ポカンとしたが――すぐにニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。


「……ククッ、言うじゃねぇか。Sランク冒険者の力を師匠に魅せる良い機会だ!」


「それにしても、Sランク魔獣をペット扱いしてトリミングたぁ、やっぱり師匠は、とんでもねぇ『変態』だぜ!」


ゼグノスが大剣を地面に突き刺し、素手で構える。


「俺が全力で押さえ込んでやる!その代わり、見せてくれよ……その『神の手』の力を!」


最強のSランク冒険者による力技の保定と、最弱のトリマーによる神速のカット。

森の奥の廃屋で、前代未聞の共同作業が始まろうとしていた。

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