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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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49. スライムすら脅威? 最弱トリマーの迷宮散歩





「おおぉぉ……!なんだこれ、すげぇフィット感だ……!」


ギルドの地下倉庫で、レンジは感嘆の声を上げていた。 ミリアから渡された『特級装備』。 それは、レンジが想像していたガチガチのフルプレートアーマーではなかった。

一見すると、高級な革で作られたロングコートだ。 色は深い藍色。シックで動きやすく、ポケットも多い。 まるで、一流の職人が着る「作業着」のようなデザインだ。


「それは『古竜の革コート(エンシェント・レザー)』。 物理耐性、魔法耐性ともにSランク相当。その辺の鉄鎧よりも遥かに硬く、そして羽毛のように軽いわ」


ミリアが妖艶に煙を吐く。


「それに、『自動修復』と『温度調節』のエンチャント付きよ。 汚れも弾くから、あなたの仕事トリマーにもピッタリでしょう?」


「最高だ……!ありがとうございます!」


レンジは鏡の前でポーズを取った。 防御力は爆上がり、見た目もスタイリッシュ。 これならダンジョンでトリミングをしていても違和感がない。


「(……フン。馬子にも衣装だな)」


「よし!行くぞクオン、ルナ、エメ、フェン! この最強装備があれば、俺は無敵だ!」


レンジは新しいコートを翻し、意気揚々とギルドを飛び出した。 時刻は『五の刻半』。日没まであと少し。 彼は滑り込みでダンジョンの入場ゲートをくぐり抜けた。


          ◇


『バルガン地下迷宮・第一階層』。

そこは、薄暗い石造りの回廊だった。 空気はひんやりと冷たく、遠くから水の滴る音が響いている。 壁には発光する苔が生えており、松明がなくても視界は確保できた。

ダンジョンに入ってから、既に数十分ほど歩いただろうか。


「へぇ、意外と静かなもんだな」


レンジは周囲を見渡しながら、余裕の足取りで進む。 足元にはクオンが、肩にはエメが、そして影にはルナとシャボン、横には黒狼フェンが並んで歩いている。


「これなら楽勝だろ。さっさと奥まで行って、泉の水汲んで帰ろうぜ」


鼻歌交じりのレンジに、クオンが冷ややかな視線を送った。


「(……レンジ。勘違いしていないか?)」


「え?何が?」


「(ここまでは魔物が出てこなかったのではない。我から漏れ出る『神気』に怯えて逃げていただけだ)」


クオンが立ち止まる。 その金色の瞳が、意地悪く細められた。


「(貴様は言ったな。『今日中にレベルを上げたい』と)」


「お、おう。言ったけど」


「(ならば、我の神気オーラを垂れ流していては意味がない。 獲物が寄ってこぬからな)」


クオンの尻尾がゆらりと揺れた。


「(よって、これより我は気配を断つ。 せいぜい励めよ、最弱のテイマー)」


シュンッ……。

その瞬間、クオンから発せられていた神々しい覇気が、完全に消え失せた。 ただの可愛い「金色の狐」になったのだ。


「えっ」


レンジが声を上げる間もなく。 ダンジョンの空気が一変した。


『ギシッ……ギギッ……』 『シャァァァ……ッ!』


今までシーンとしていた通路の奥から、無数の「殺意」が湧き上がってくる。 壁の隙間から、天井の穴から、何かが這い出てくる気配。


「ちょ、ちょっと待てクオン!いきなりオフにするな! 心の準備とか、ウォーミングアップとか――」


『ピチャッ』


足元で音がした。 レンジが見下ろすと、そこには青半透明のプルプルした塊がいた。


「……あ、スライム?」


RPGの定番、最弱モンスターの代名詞だ。 レンジはホッと胸を撫で下ろした。


「なんだ、スライムかよ。ビビらせやがって。 これなら俺でも勝てる――」


レンジがハサミ(武器)を構えようとした、その時だ。


ボォォンッ!!


「は?」


スライムがバネのように跳躍した。 その速度は、プロボクサーのジャブより速い。 反応する間もなく、青い塊がレンジの鳩尾みぞおちに直撃した。


「ぐふぅっ!?」


ドォォォン!!

レンジの体はボールのように吹き飛び、背後の石壁に叩きつけられた。 肺の中の空気が強制排出され、視界がチカチカする。


「が、はっ……!?な、なんだ今の……ダンプカーか……!?」


HPを確認する。 『HP:650/650』→『HP:550/650』。


「い、一撃で100減った……!? コート着ててこれかよ!?裸だったら死んでたぞ!?」


レンジは戦慄した。 スライム=弱い、というのはゲーム知識の偏見だ。 ここは現実。 質量10キロの粘体物質が、時速50キロで体当たりしてくれば、それはもう「生きた砲弾」なのだ。


『ピチャ、ピチャ……』


スライムが追撃の構えを取る。 さらに通路の奥からは、巨大な蝙蝠バットや、骸骨スケルトンの影が迫ってきていた。


「(……どうしたレンジ。スライム相手に寝ている暇はないぞ)」


クオンは少し離れた場所で、あくびをしながら見物している。 手助けする気はゼロだ。


「くっそ!やるしかねぇのかよ!!」


レンジはフラフラと立ち上がり、ハサミを構えた。 だが、恐怖で足がすくむ。 今までいかにクオンの「結界」と「神気」に守られていたか、痛いほど理解させられた。


その時だ。


「ガルルッ!」


黒い影が飛び出した。 フェンだ。 リハビリ中の黒狼が、レンジを庇うようにスライムの前へ立ちはだかった。


「フェン!お前、まだ病み上がりだぞ!」


フェンは前足を踏ん張り、スライムに噛み付こうとする。 だが、動きが硬い。 長年檻の中にいたせいで筋力が低下しており、足元がおぼつかないのだ。


『ボヨヨンッ!』


スライムの体当たりを避けきれず、フェンが弾き飛ばされる。


「キャウンッ!」

「フェン!!」


レンジの目が血走った。客が傷つけられた。その瞬間、レンジの中で「恐怖」が「職人の怒り」に切り替わった。


「てめぇ……!俺のリハビリ担当フェンになにしやがる!!」


レンジは駆け出した。 戦士のような剣術はない。魔法使いのような火力もない。 だが、彼には「目」があった。


解析スキャン』発動。


視界の中で、スライムの構造が丸裸になる。 核の位置、粘液の密度、そして――


(……あそこだ!あの『ゴミ』が混じってる部分、結合が弱い!)


スライムの体内に、消化しきれていない石ころやゴミが混入しており、そこだけ魔力の流れが淀んでいる。 トリマーにとって、そこは「毛玉」と同じ「急所カットポイント」だ。


「そこだァァッ!!」


レンジはスライムのタックルを紙一重で――いや、竜革コートの防御力に任せて強引に受け止め、カウンターでハサミを突き出した。


ザクッ!!


「『部分カット』!!」


ハサミの刃が、スライムの核付近にある「不純物」だけを正確に抉り出す。 バランスを崩したスライムの核が露出し、魔力の結合が崩壊した。


パァァァン!!

スライムが弾け飛び、青い水となって消滅する。


「はぁ……はぁ……ッ!」


レンジは膝をついた。 たった一匹。最弱のスライム一匹倒すのに、この疲労感。 だが、レベルアップのファンファーレは鳴らない。


「(……ほう。急所を見抜いたか。悪くない)」


クオンがニヤリと笑う。しかし、現実は非情だ。


『カカカカ……』 『キィィィィ……!』


通路の奥から、100体以上のスケルトンとゾンビが押し寄せてくるのが見えた。


「……あ、これ無理なやつだ」


レンジの顔が青ざめる。 こんなのが「第一階層」の入り口だというのか。 そしてミリアは言っていた。 目指す『浄化の泉』は、このずっと奥、「10層のボス部屋」の向こうにあると。


「帰りたい……今すぐおうちに帰りたい……」


最強装備コートを着込んだ最弱テイマーの、長くて辛い夜が始まった。


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