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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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48. ギルドマスターの依頼と、呪われた黒狼

本日(2026/1/18)は12:10投稿と17:10投稿と21:10投稿の3本投稿予定です!





「よし!これで全員分か!?終わりだな!?」


ギルドの酒場に、レンジの声が響いた。

彼の目の前には、ピカピカに磨き上げられた剣や鎧の山と、それ以上に積み上がった「硬貨の山」があった。

臨時メンテナンス屋の売り上げは、ゼグノスの大金貨を含め、締めて約6000万円相当。

元々持っている資産(100億円)に比べれば微々たるものだが、レンジにとっては意味が違う。


「これだ……!これが『俺の腕』で稼いだ、俺の命を守るための軍資金だァー!!」


(ただしトリミングでは無い。)

     \_(・ω・`)ココ大事(by 作者)


「うるせぇ!誰に向かって解説してんだ!」


レンジは虚空に向かって吠えた後、金貨を革袋に詰め込み、血走った目で立ち上がった。


周囲の冒険者は「あいつ、何もない空間にキレたぞ……?」と引いていた


「急ぐぞクオン!今すぐ武具屋だ!この金で、店で一番硬いフルプレートアーマーを買う!そしてその足でダンジョンに飛び込んで、今日中にレベルを上げてHPを4桁にするんだ!!」


今のレンジのHPは650。

スライムの体当たり一発で昇天しかねない「紙装甲」だ。かなり今更感はあるが、一刻も早く安全圏までステータスを上げなければ、夜も安心して眠れない。


「(……フン。相変わらず生き急いでいるな)」


クオンは呆れているが、周囲の冒険者たちの受け取り方は違った。


「おい聞いたか?『今日中にダンジョンに飛び込む』だとよ……」


「さっき来たばかりだろ?どんだけ戦いに飢えてるんだ……」


「HP650っていうのも、あえてギリギリのスリルを楽しむための『縛りプレイ』なんじゃねぇか?」


「死に場所を求めているのか……?狂戦士バーサーカーかよ……」


勝手な誤解が広まる中、レンジが出口へ向かおうとしたその時だ。


「お待ちください、レンジ様」


立ちはだかったのは、先ほどの受付嬢だった。

彼女は困り顔で、しかし通せんぼするように両手を広げた。


「ギルドマスターがお呼びです。至急、最上階の執務室へご同行願います」


「はぁ!?ギルマス!?今!?」


レンジは素っ頓狂な声を上げた。


「いや、無理無理!俺、超急いでるの!今この瞬間もHP650のまま呼吸してるだけで怖いの!話なら後で聞くから、とりあえず防具を買わせてくれ!!」


「そ、そこを何とか!断ると私の査定に関わるんですぅ!」


受付嬢が泣きついてくる。

レンジが困り果てていると、二階の回廊から凛とした声が降ってきた。


「――上がってきなさい。悪いようにはしないわ」


見上げれば、そこには長い耳と片眼鏡モノクルが特徴的な、エルフの美女が立っていた。

紫煙をくゆらせるその姿は、有無を言わせぬ迫力がある。


「(……ほう。中々の使い手だな)」


クオンが面白そうに目を細めた。

レンジは天を仰いだ。どうやら、逃げられそうにない。


「……わーったよ!話聞けばいいんだろ!その代わり、長話はナシだからな!俺は一分一秒でも早く経験値が欲しいんだ!」


「ふふ、血気盛んなこと」


レンジの悲痛な叫びを「やる気満々」と解釈した美女――ギルドマスターのミリアは、妖艶に微笑んで手招きした。


          ◇


通された執務室は、意外にも薄暗かった。

窓には分厚いカーテンが引かれ、部屋の奥には巨大なケージが鎮座している。

その檻の中から、グルルル……と低く苦しげな唸り声が聞こえてきた。


「単刀直入に言うわ、レンジ君」


ミリアはデスクに座り、レンジのCランクカードを指先で弾いた。


「あなたの経歴は確認させてもらったわ。ルリデン支部での特別昇格……理由は領主依頼で『雷豹サンダー・レパードの鎮静化』」


ミリアは呆れたように書類を放り投げた。


「領主の娘さんからの直々の推薦ね。向こうのギルマスも酔狂だけど、確かに功績はCランク相当だわ。でも、この『迷宮都市』では通用しない」


「……へ?」


「ここでは戦闘能力こそが全て。HP650のCランクなんて、自殺志願者と同じよ。本来なら、あなたの安全のために私が権限でランクを剥奪するところだけど……」


「ぐ、ぐうの音も出ねぇ……」


「でも、あなたの技術は本物だった。だから取引をしましょう。あなたのランク維持を私が保証する代わりに……『あの子』を助けて」


ミリアが視線を向けた先。

檻の中にいたのは、一頭の巨大な狼だった。

だが、その姿は異様だった。

漆黒の毛並みはタールのようにドロドロに固まり、全身から紫色の瘴気を発している。

さらに、首輪のような「呪いの鎖」が肉に食い込み、呼吸をするたびに苦悶の声を上げていた。


「彼の名は『フェン』。私の……かつての相棒よ」


ミリアの声が沈む。


「ダンジョンの深層で『呪いの魔獣』に噛まれて以来、こうして全身が呪いの汚泥に覆われてしまったの。回復魔法も聖水も弾かれる。もう何年も、彼はこの汚れと激痛に苦しめられているわ」


「グルゥ……ッ……!」


狼がレンジを見た。

その瞳は充血し、狂気と殺意、そして「殺してくれ」という哀願が混ざっていた。

普通の人間なら足がすくむ光景だ。

だが、レンジは違った。


「……うわ、酷ぇなこりゃ」


レンジはスタスタと檻に近づくと、瘴気を発する狼の体を、まるで汚れた換気扇でも見るような目で観察し始めた。


「呪いっていうか……これ、単純に不衛生だぞ」


「は?」


ミリアがキョトンとする。


「呪いの泥が毛穴を塞いで、皮膚呼吸ができてない。そのせいで体熱が逃げずにのぼせてるんだ。それに、この鎖の食い込み。垢と膿が固まって、余計に傷口を広げてる。こりゃ痛いしイライラもするわな」


レンジは腕まくりをした。

トリマーとしての血が騒ぐ。

目の前に「汚れた子」がいるなら、綺麗にするのが仕事だ。


「クオン、ちょっと威圧して大人しくさせてくれ。俺がチャチャッと洗うから」


「(人使いの荒い飼いやつめ。……おい犬っころ、動くなよ)」


クオンがほんの一瞬、神獣の覇気を放つ。

それだけで、狂乱していたフェンが「キャイン!」と怯えて硬直した。

その隙に、レンジは電光石火で動いた。


「よし、まずはクレンジングだ!『変形フォーム』・大型浴槽バスタブ!!」


レンジが『聖銀のコーム』を投げると、それは空中で液体金属のように変形・巨大化し、ドスン!と床に設置された。

現れたのは、白銀に輝く猫足のバスタブだ。


「なっ……空間魔法!?いいえ、錬金術!?」


ミリアが驚愕するが、レンジは無視して黒狼フェンをヒョイと抱き上げ、バスタブに放り込んだ。


「続いて……『変形フォーム』・高圧シャワーヘッド!!」


レンジは腰のシザーケースから『聖銀のハサミ』を取り出すと、カシャッと変形させてホース付きのシャワーヘッドにした。

そこから、適温のお湯(魔力水)が勢いよく噴き出した。


「さぁ、さっぱりするぞ!」


ジャーーーーーッ!!


「ギャウンッ!?」


お湯を浴びたフェンが悲鳴を上げる。

体から溢れ出る黒い汚泥(呪い)が、お湯と混ざり合ってバスタブを黒く染めていく。

だが、この呪いは頑固だ。タールのようにこびりつき、簡単には剥がれない。


「(……なるほど。ただの汚れじゃないな。呪いのせいで、汚れがガチガチに『絡まって』やがる)」


レンジはハサミ変形シャワーでお湯を浴びせながら、もう片方の手(神の手)をフェンの背中に走らせた。

呪いの魔力が接着剤のようになり、毛と汚れを複雑に絡ませているのだ。

だが、「絡まっている」なら話は早い。

ここで使うのは、最強の固有スキルだ。


「『絶対解毛アブソリュート・アンタングル』!!」


レンジの指先が青白く光る。

このスキルの真髄は、「絡まった毛を解く」だけではない。

「ねじれ、歪み、絡まったあらゆる事象(状態)を無効化し、あるべき姿へ還元する」概念干渉だ。


「呪いだろうが因果律だろうが、俺の客(犬)にへばりつく『汚れ』は全部落とす!!」


レンジが指を通すたび、バチバチッ!と紫色の火花が散る。

それは、Sランクの呪いが抵抗し、そして粉砕される断末魔の音だった。


「グルァ……ァ……ワンッ!?」


フェンの悲鳴が、驚きと歓喜の声に変わる。

肉に食い込んでいた「呪いの鎖」も、染み付いた「瘴気」も、レンジの手が通るたびに「無かったこと(還元)」にされ、ただの黒い水となって排水溝へ吸い込まれていく。


「よし、仕上げだ!リンスして流すぞ!」


ジャーーーッ!

数分後。

バスタブから上がったフェンは、ブルブルと体を振るい、水滴を飛ばした。

そこにいたのは、タールまみれの化け物ではない。

夜空のように深く美しい漆黒の毛並みを持つ、気高い狼の姿だった。


「……嘘、でしょ……?」


ミリアが片眼鏡を落とした。

何年も解けなかった最上級の呪いが、たった数分の「トリミング」で消滅したのだ。


「ふぅ、スッキリしたな」


レンジは満足げに狼の顎を撫でた。


「表面の呪いは全部落としたぞ。あとは栄養つけて運動すれば完治だろ」


「あ、ありがとう……!フェンが、こんなに穏やかな顔をするなんて……!」


ミリアは震えながら狼に抱きついた。

感動の再会シーンだ。

だが、レンジは空気を読まずに、執務室の壁に掛けられた『魔導時計』を確認した。


「よし!依頼完了だな!じゃあギルマス、約束通りランク維持は頼む!あと、俺は急いでるからこれで!」


レンジは踵を返して出て行こうとする。

現在時刻は『四の刻』――日本時間でいう16時を回ったところだ。

この街のダンジョンは24時間開放ではなく、安全管理のために『六の刻(日没)』で入場ゲートが閉まってしまう。

もちろん、退場ゲートは24時間開放されているため、一度入ってしまえば中で夜明かししようが自由だ。

勝負は、あと2時間弱の間にゲートをくぐれるかどうか。


「今から装備を大急ぎで買えば、ギリギリ間に合うはずだ!」


「ま、待ちなさい!」


ミリアが慌てて呼び止めた。


「レンジ君、あなたにお願いがあるの。この子の『リハビリ』に付き合ってくれない?」


「リハビリ?」


「ええ。体は綺麗になったけど、長い間檻にいたから体力が落ちているわ。それに、呪いの後遺症を完全に消すには、ダンジョンの深層にある『浄化の泉』の水を飲ませる必要があるの」


ミリアはニッコリと笑った。


「もちろん、タダとは言わないわ。報酬として、ギルドの地下倉庫にある『特級装備』を一つ、好きに持って行っていいわ」


レンジの足がピタリと止まった。


「……特級装備?」


「ええ。お金じゃ買えない、ダンジョン産のレアアイテムよ。HP650のあなたでも、一撃死を免れるくらいの性能はあるわ」


レンジは振り返った。

その目は、狩人のようにギラついていた。


「交渉成立だ。そのリハビリ散歩、引き受けた!」


「(……現金な奴め)」


冒頭で高らかに叫んだ『俺の腕で稼いだ金で買う』という熱い決意は、特級装備タダの魅力の前に、綺麗さっぱり忘れ去られていた。

彼の辞書に「初心貫徹」という言葉はない。あるのは「安全第一」だけだ。


          ◇


こうして。

最弱のレンジは、最強の神獣クオンに加え、ルナ、エメ、そして元・呪われた黒狼フェンを引き連れて、念願のダンジョンへと向かうことになった。

だが、レンジはまだ知らない。

ミリアが言っていた「浄化の泉」が、このダンジョンでも屈指の「ボス部屋の奥」にあることを。


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