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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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42. 機巧の残滓と、海底からの呼び声





「おう、兄ちゃん!昨日は本当に助かったぜ!」


南洋の港町マルレーン。

活気あふれる朝市を歩いていたレンジは、浅黒い肌をした漁師組合の親父さんに呼び止められた。


「まさか、あの巨大な『亀』の背中を、あんな一瞬でピッカピカに磨き上げちまうとはな!おかげで亀もスッキリして沖へ帰っていったし、今日からまた漁船が出せる!」


「へへっ、気にすんなって。あいつも背中の岩礁やフジツボが重くてイライラしてただけだからな。とびっきりの『洗浄クリーン』で丸洗いしてやったら、満足して泳いでったよ」


レンジは人懐っこい笑顔で応える。

彼は昨日、突如として港に迷い込んできた伝説の巨大亀・アスピドケロンの汚れを、スキルの【広域洗浄】で一瞬にして消し去り、宝石のように輝く姿へと変貌させて解決していたのだ。


(……ま、多分あいつ、俺の『匂い』を嗅ぎつけて来たんだろうな)


レンジは内心で苦笑した。

ここ最近、汚れや穢れを溜め込んだ生物が、まるで救いを求めるように自分の前に現れることが増えている気がする。あの亀も、背中を洗ってほしくて、わざわざ港までやって来たのかもしれない。


「これは俺からの気持ちだ!とびきり美味いぞ、持っていけ!」


ドンッ!とレンジの腕に積み上げられたのは、ルナよりも巨大な『七色伊勢海老』や、脂の乗った『王様マグロ』の切り身、そして新鮮な貝類の山だった。


「うおぉぉ……!こんなにいいのか!?ありがとな、おっちゃん!」


「ニャーン!(おさかなー!)」

「キュゥ!(ごちそうー!)」


レンジの足元で、ルナとエメも目を輝かせて飛び跳ねる。

その後、レンジたちは浜辺で豪勢な海鮮バーベキューを楽しんだ。

プリプリの海老の身に舌鼓を打ち、新鮮な刺し身を堪能し、クオンですら「(……悪くない味だ)」と尻尾を振るほどの極上の食事。

心も体も満たされた一行は、住民たちに手を振られながら、意気揚々と港町を後にしたのだった。


           ◇


それから数日後。

レンジたちは『銀の箱舟シルバー・アーク』で、真っ青な海を見下ろす海岸沿いの道を走っていた。


「へへっ、見てくれよクオン!」


運転席のレンジが、ご機嫌な様子で助手席に声をかける。

彼の手には、先日融合したばかりの神話級アーティファクト『混源の勾玉カオス・オーブ』が握られていた。

燃えるような赤と深海の蒼が螺旋を描くその宝石は、触れているだけで不思議な心地よさを伝えてくる。


「これがあれば……ほら!」


レンジが勾玉を車のエアコン吹き出し口に近づけると、車内が一瞬にして「完璧な適温」に包まれた。

暑すぎず、寒すぎず、湿度も最適。まるで森林浴をしているかのような、生命にとって最も快適な空気が循環し始める。


「(……貴様、またその『アーティファクト』を空調代わりに使いおったな)」


助手席のクオンは呆れ果ててため息をついた。

後部座席では、ルナが気持ちよさそうに腹を出して眠り、エメが窓から入る日差しを受けてスライムボディをキラキラと輝かせている。


「(いいかレンジ、絶対にその石を落とすなよ。衝撃で位相がズレれば、この辺一帯が氷河期になるか、マグマの海になるかの二択だ)」


「分かってるって。……お?」


その時だった。

レンジの手元の勾玉が、ドクン、ドクンと赤く脈打ち始めた。

同時に、どこか遠く――いや、深くから、微弱な信号のようなものが響いてきた。


『……求む……管理者……緊急……』


「(……魔力通信ではない。これは古代語による『共鳴波』か?発信源は……この崖の下、海底深くからだ)」


「海底?……なぁクオン。なんか『気持ち悪く』ないか?」


「(あ?)」


「こう、『水槽のろ過フィルターが詰まって、酸素が回ってない』時みたいな……ドロッとした嫌な感じがするんだよ」


レンジの独特すぎる直感だが、これまでの経験上、あながち無視もできない。

レンジは眉をひそめ、手元の勾玉を握りしめた。


「よし、行ってみるか!」


「(は?行くとはどこへだ)」


「決まってんだろ、現場そこだよ」


レンジはニカッと笑い、あろうことかハンドルを海側へ大きく切った。


「(おい待て!貴様正気か!?この鉄の箱は海になど潜れんぞ!!)」


「ニャッ!?(なにごと!?)」

「キュッ!?(ごしゅじん!?)」


急ハンドルで目が覚めたルナとエメが、座席から転がり落ちそうになって悲鳴を上げる。


「大丈夫だって!さっきこの勾玉、車内を完璧な温度にしてくれただろ?だったら海の中だろうがマグマの中だろうが、俺が『快適』なように周りの環境を勝手に変えてくれるはずだ!」


「(その根拠のない自信はどこから来るのだァァァッ!?)」


「実験開始だ!いっけぇぇぇ!!」


ザッパァァァン!!

クオンの絶叫と二匹の悲鳴も虚しく、『銀の箱舟』はガードレールを突き破り、そのまま海へとダイブした。

衝撃に備えて身構えるクオンたち。

だが――水没のショックは訪れなかった。

着水の瞬間、レンジの「濡れたくない!息したい!」という無茶な願望ワガママに勾玉が過剰反応し、カッ!と青い輝きを放ったのだ。

瞬時に車体の周囲の海水が弾き出され、見えない空気のフィールドが形成される。

それは物理法則をねじ曲げ、深海の水圧すら無効化する絶対的な安全圏。


「ほら見ろ!やっぱ完璧なエアコンだぜ!」


「(……貴様、いつか死ぬぞ……)」


ぐったりするクオンとは対照的に、窓の外に広がった光景に、ルナとエメが目を輝かせて張り付いた。


「ニャーン!(おさかなー!)」

「キュゥ!(アワアワー!)」


『銀の箱舟』は、青白い泡に包まれ、無邪気にはしゃぐ二匹を乗せてスムーズに深海へと沈んでいった。


          ◇


深度八百メートル。

太陽の光が届かぬ、永遠の闇に閉ざされた世界。

だが、レンジたちの目の前には、信じられない光景が広がっていた。


「うおぉぉ……すげぇ……」


レンジが思わずアクセルを緩め、息を呑む。

暗黒の海底に、そこだけまるで「落ちてきた月」が鎮座しているかのように、優しく、しかし力強い青白い光が満ちていたのだ。

それは巨大なドーム状の建造物だった。

材質は石でも金属でもない、透き通るクリスタルのような素材で覆われており、内側から溢れ出す光が、周囲の海水を幻想的なエメラルドグリーンに染め上げている。

ドームの表面には、光る海藻や珊瑚が美しい幾何学模様を描いて繁殖しており、その周りを、星屑のような発光魚の群れがキラキラと舞い踊っていた。


「(……美しいな)」


クオンもまた、その神々しい光景に目を細めた。


「(我が穢れに蝕まれ、身動きが取れなかった空白の五百年の間に……これほど清浄な輝きを保つ場所が生まれていたとは)」


それは単なる遺跡ではない。海そのものが、この場所を愛し、守っているかのような聖域だった。

だが――。

その聖なる静寂を切り裂くように、無粋な鉄の塊が蠢いていた。


「(……ん?あれはなんだ?)」


クオンが訝しげに目を細める。

クリスタルのドームを守る巨大な正門の前に、巨大な黒い影が群がっている。

一見すると深海魚のようにも見えるが、その体表には生物的な滑らかさはなく、代わりに無骨なリベットと排気管がびっしりと並んでいた。


「(あの装甲の質感……それに、魔法動力に頼らぬ蒸気機関の排熱……)」


クオンの声が低く、険しいものに変わる。


「(……間違いない。あれは、機巧結社の潜水艦だ)」


幻想的な光景の中に突き刺さる、暴力的なまでの異物感。

潜水服を着た作業員たちが、ドリルで扉をこじ開けようとしていたのだ。


「げっ、機巧結社?……またあいつらかよ」


レンジは心底嫌そうな顔をして、アクセルを踏み込んだ。

空気の膜に包まれた『銀の箱舟』が、海底を滑るように接近する。


「おーい!そこの蒸気野郎ども!まだ残っていたのか?」


レンジが外部スピーカーで叫ぶと、作業員たちの動きが止まった。

黒塗りの潜水艦から、ハッチを開けて一人の男が甲板(もちろん水中だが、結社の技術で活動可能エリアになっているようだ)に現れた。

軍服のような重厚な潜水装備に身を包んだ、眼光の鋭い男だ。


『……民間人か。即刻立ち去れ。ここは我々機巧結社の管轄下にある』


「管轄下って、勝手に壊そうとしてるじゃねぇか。東の国で俺がボコボコにして組織ごと壊滅させたはずだろ?しつこいカビみたいに湧いてきやがって……。いい加減諦めて、田舎に帰って畑でも耕したらどうだ?」


レンジは以前、東の国で遭遇した「自分勝手な連中」の残党だと思い込み、呆れたように言い放った。


だが――返ってきたのは、怒号でも弁解でもなく、凍りつくような「嘲笑」だった。


『……フッ。残っていた?壊滅?……なるほどな』


――潜水艦隊指揮官の男が、ゆっくりとレンジの方を向く。

その瞳には、深い悲しみと、燃えるような使命の炎が宿っていた。


『貴様が相手にしたのは、あの「東方支部の愚連隊」か』


「……あ?」


『訂正しろ、民間人。あんな「まがい物」と、我々「本部」の人間を一緒にしないでいただきたい』


男の声は冷徹で、レンジが東の国で聞いた軽薄なものとは明らかに異なっていた。


『奴らは科学の光に目が眩み、本来の目的を忘れて私利私欲に走った。組織の理念を汚した、ただの不純物だ。……ゆえに、奴らは既に本部によって『切り捨て』られた』


「き、切り捨てられた……?」


『我々が背負っているのは欲望ではない。人類の『生存』への渇望だ』


男は背筋を伸ばし、深海の水圧さえ跳ね返すような威厳を持って告げた。


『我が名はヴォルグ。機巧結社深海艦隊を率いる大佐である』


「ヴォルグ……大佐……?」


ヴォルグ大佐は、背後の美しくも巨大な遺跡を見上げた。


『かつて、私の故郷は一夜にして海に沈んだ。……二柱の神獣による、下らない「縄張り争い」の余波でな…』


『……あの日、娘は六歳の誕生日を迎えたばかりだった』


ヴォルグの声が、深海の底で震えた。


『妻がケーキを焼き、私は娘と浜辺で貝殻を拾っていた。「パパ、見て! 海の宝石だよ!」と、あの子は私にこの青い貝殻を見せてくれた。……そこには、どこにでもいる、だが世界で一番幸せな家族の風景があった』


彼は貝殻を握りしめ、ギリッと歯を食いしばる。


『だが、奴らは現れた』


『二柱の神獣だ。奴らは我ら人間になど目もくれず、ただ互いの喉笛を噛み千切るためだけに暴れ狂った。奴らにとって、沿岸で平和に暮らす我々など、道端の小石以下の存在だったのだろう。その巨体が海面を叩いた衝撃だけで――五十メートルを超える大波が押し寄せた』


レンジは息を呑んだ。


『一瞬だ。……本当に、一瞬だった』


『妻の笑顔も、娘の弾むような声も、温かい家も……全てが黒い波に飲まれ、跡形もなく消し飛んだ。祈る暇さえなかった。叫ぶ隙さえ与えられなかった。瓦礫の山で私だけが目覚めた時、空は憎らしいほど晴れ渡り、満足した神獣たちは既にどこかへ去っていた』


『……これが神だ。これが貴様らの言う「自然」だ』


ヴォルグは血が滲むほど拳を握りしめ、レンジを睨みつけた。


『気まぐれな暴力で、何の罪もない幸せを無慈悲に奪う。……だからこそ、我々は「管理」しなければならない!この制御施設を掌握し、神獣を排除し、人類が二度とあんな理不尽に泣かずに済む「安全な世界」を作る。そのためなら、私は悪魔にでもなろう』


ヴォルグの叫びが、深海に木霊する。

それは単なる侵略者の理屈ではない。血を吐くような、魂の慟哭だった。


「…………」


レンジは、即座に言い返すことができなかった。

普段の彼なら、「そんなの極論だ」と笑い飛ばしたかもしれない。

だが、ヴォルグが握りしめるその小さな貝殻と、彼の背負った壮絶な喪失を目の当たりにして、軽口など叩けるはずがなかった。

家族を理不尽に奪われた人間に、「神様と仲良くしよう」などと言えるほど、レンジは無神経ではない。

長い沈黙の後、レンジは静かに口を開いた。


「……悪い。俺が間違ってた」


レンジの謝罪に、ヴォルグが眉を動かす。


「あんたたちは、ただのワガママな連中じゃない。……俺なんかには想像もつかないくらい、重いもんを背負って戦ってるんだな」


『……理解したなら、今すぐ立ち去れ』


「いや、でも違うんだ」


レンジは真っ直ぐにヴォルグを見つめ返した。その瞳に、迷いはない。


「あんたの怒りはもっともだ。俺だって、もし自分の大切な家族が……ルナやエメ、それにクオンが理不尽に殺されたら、相手を許せる自信なんてねぇ。世界中の神様を敵に回してでも復讐しようとするかもしれない」


「(……ッ!?)」


名前を呼ばれたクオンが、驚いたようにレンジの方を見る。

だがレンジは真剣な横顔のまま、言葉を続けた。


「だけどよ、大佐。悲しいからって……神々全てを排除してしまったら、それは別の悲劇を生むだけだ」


『なに……?』


「俺はトリマーだから分かるんだ。暴れる獣を無理やり鎖で縛り付けたり、薬で大人しくさせたりしても……結局、その『歪み』はいつか必ず爆発する。あんたが作ろうとしてる『管理された世界』は、きっとすごく静かで安全なんだろうけど……それは、獣にとっても、人間にとっても、息が詰まるほど窮屈な場所になっちまう」


『甘いな。その窮屈さが、人を死なせないための代償だ』


「そうやって『何か』を犠牲にしなきゃ守れない平和なんて、俺は嫌だね」


レンジは手元の勾玉を強く握りしめた。


「俺は、あんたの悲しみを無かったことにはできない。でも、これ以上悲しみが連鎖しないように、神様たちを『骨抜き(リラックス)』にしてやることはできる」


レンジの顔から、迷いが消えた。

それは敵を倒す戦士の顔ではない。

どんなに手のつけられない凶暴な犬(客)を前にしても、決して怯まず、愛を持って接しようとする「プロのトリマー」の顔だった。


「大佐。あんたが『排除』しようとしてるその神様、俺が最高に気持ちよくさせて、二度と暴れないくらい大人しい『愛玩動物ペット』にしてやるよ」


『……話にならんな』


ヴォルグは失望したように首を振り、ゆっくりと右手を挙げた。

彼にとって、レンジの理想論は、死んだ娘を冒涜する戯言にしか聞こえなかったのだ。


『貴様は、目の前の獣の機嫌を取ればいいと言う。だが、それが何になる?仮に今回の神獣を満足させたとして、明日また別の神が現れたら?あるいは、その神がまた「虫の居所」を悪くしたら?……結局、我々は未来永劫、神の顔色を伺い、踏み潰されないよう祈りながら生きろと言うのか!』


ヴォルグの叫びは、人類という種が抱える根源的な恐怖だった。

圧倒的強者に対する、弱者の無力感。


『私は拒絶する。神の慈悲にすがるなど、ごめんだ。我々が生き残る道は一つ。我々が神を管理し、首輪をつけ、二度と人間に牙を向けさせないよう「支配」することだ』


「…………」


レンジは数秒、黙り込んだ。

ヴォルグの言うことは、ある意味で真理だ。

人間と神獣、力の差は歴然としている。どれだけ仲良くなっても、神獣が寝返りを打てば人間は死ぬ。そのリスクはゼロにはならない。


「……確かに、あんたの言う通りだ。神様から見れば、俺たちは足元の蟻みたいなもんだろうな」


『ならば――』


「でもよ、大佐。『役に立つ蟻』なら、踏み潰されないんだよ」


『……は?』


レンジはニカッと、不敵に笑った。


「俺の仕事はそれだ。言葉も通じない、力も桁違いの化け物相手に、『俺がいた方が、あんたにとっても快適だろ?』って体を張って教えるんだよ。痒いところを掻き、毛並みを整え、美味い飯を出す。そうやって『こいつは殺すより生かしておいた方が得だ』と思わせる関係パートナーを作るんだ」


レンジは手元の勾玉を強く握りしめた。


「あんたは『怖いから排除する』と言った。でも俺は、『必要とされる存在になって隣に立つ』。どっちが難しいかなんて分かってる。……でも、俺はそっちの方が、お互い幸せになれると信じてる」


『……貴様、正気か?神と対等な取引ができるとでも? その傲慢さが、いつか破滅を招くぞ』


「かもな。でも、恐怖で縛り付けるよりは、よっぽどマシな未来だ!」


レンジの言葉に、もはや迷いはなかった。

それは「神を崇める信徒」でも「神を憎む復讐者」でもなく、神という巨大な顧客と対等に渡り合おうとする「プロフェッショナル」の矜持。


『……話にならんな。その甘い理想ごと、深海の藻屑となるがいい』


『総員、攻撃用意。……撃てッ!!』


ズドドドドドッ!!

無数の魚雷発射管が開き、深海を切り裂くような轟音と共に、死の群れが『銀の箱舟』へと放たれた。


「(レンジ、来るぞ!)」


クオンが叫ぶ。だが、レンジはハンドルを切らなかった。

逃げても、この海に居る限りヴォルグは追ってくる。そして彼を止めなければ、この遺跡も、ここに居るかもしれない神獣も殺される。


「……くそッ!」


レンジは唇を噛み締め、迫りくる魚雷を睨みつけた。

かける言葉などない。笑える余裕などない。

だが――引くわけにはいかない。


レンジは祈るように、手元の勾玉を強く握りしめた。

どうすればいい?この状況をどう覆す?

ただ、この場所(遺跡)が呼んでいる直感だけがある。


「頼む……力を貸してくれ……ッ!!」


レンジが叫んだ、その時だった。

ドクンッ!!

レンジの意思に呼応したのか、それとも迫りくる「破壊の意思(魚雷)」に反応したのか。

握りしめた勾玉が、カッ!と強烈な熱と光を放った。


『……認証……管理者キーヲ確認……』


どこからともなく、重厚な機械音声が脳内に響く。


『……緊急保護シークエンス、起動。ようこそ、王立施設へ』


ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

突如、海底遺跡の巨大なクリスタル・ゲートが、内側から爆発的な水流を噴き出しながら開き始めた。

それは単なる開門ではない。遺跡内部へと引き込む、猛烈な「吸引潮流」の発生だった。


「う、うわあああああッ!?」

「(な、なんだこの水流はァァァ!?)」


レンジたちの『銀の箱舟』は、その圧倒的な水流に飲み込まれ、魚雷が着弾する寸前で、開いたゲートの中へと強引に吸い込まれていった。


ドォォォォォン!!

直後、行き場を失った魚雷群がゲートの装甲に衝突し、虚しく爆発した。

土煙が舞う中、ヴォルグはモニター越しに、レンジたちが消えた遺跡の深淵を睨みつけた。


『……逃げ込んだか。総員、追撃せよ。地の底まで追い詰め、あの愚かな理想家を葬り去るのだ』

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