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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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39. 神々の再会と、鋼鉄の都への進軍(後編)




『『『■■■■■■ッ!!』』』


機巧都市の城門が突破された瞬間、そこは一方的な蹂躙の場と化した。

数万体の機械兵が配備されていたはずの大通りは、今や「神々の通り道」となっていた。

だが、中枢タワーへの道半ばで、突如として異質な魔力反応――否、高密度のエネルギー反応が三つ、レンジたちの行く手を阻んだ。


ズズズズズ……!!

大地が割れ、三体の巨大な影が立ち上がる。

それまでの量産型とは一線を画す、禍々しいオーラを纏った特化型決戦兵器。

機巧結社が誇る最高幹部、「機巧三将軍」だ。


『――熱源感知。対・火竜特化機「サーマル・イーター」、起動』


最初に現れたのは、全身が耐熱板と冷却パイプで構成された巨体。

イグニスは鼻を鳴らし、挨拶代わりに極大の火球を吐き出した。


『……フン。邪魔だ、鉄屑』


ドォォォォンッ!!

直撃。だが、爆煙が晴れた後、その機体は無傷どころか、赤熱したエネルギーを吸収してさらに輝きを増していた。


『――熱エネルギー吸収確認。動力炉出力、120%』


『……ほう。我が炎を喰らうか。生意気なガラクタだ』


イグニスが目を細め、巨体による質量攻撃へ切り替えるが、敵は熱を利用したプラズマシールドを展開し、一歩も引かない。


『――超高速挙動感知。対・氷狼特化機「ソニック・チェイサー」、起動』


次に現れたのは、フェンリル以上の機動力を持つ流線型の機体。

フェンリルは瞬時にトップスピードに乗り、すれ違いざまにその首を刎ねようとした。


『……遅い』


キィィィィン!!

金属音。

フェンリルの爪は、敵の超振動ブレードによって受け止められていた。


『対象ノ速度ヲ解析。摩擦係数ゼロニテ追従スル』


敵機はフェンリルの動きを完全トレースし、超高速の機動戦を繰り広げる。

残像すら見えない神速の攻防が火花を散らす。


『……チッ。チョロチョロと目障りな。我の速度についてくるとはな』


『――生体反応感知。対・森守特化機「バイオ・スレイヤー」、起動』


最後に立ちはだかったのは、全身に巨大な回転ノコギリと、枯葉剤の噴霧器を搭載した要塞のような重機。

エルクが地面を叩き、巨大な蔦を槍のように突き出す。


『……土に還りなさい』


ギュイィィィィン!!

だが、高速回転するノコギリが蔦を瞬時に切断し、同時に散布された薬剤が、再生しようとする植物を瞬く間に枯らしていく。


『……なんと野蛮な。植物の再生阻害まで組み込んでいるとは……森を愛する者として、見過ごせませんね』


エルクが静かな怒りを露わにし、さらに強固な大樹の壁を展開して敵の進軍を食い止める。

三柱の神獣に対し、完璧な「対策アンチ」を用意していたのだ。

レンジたちは完全に包囲され、足止めを食らってしまった。


「くそっ、あいつら相当やりやるぞ!神獣の弱点を完全に研究してやがる!」


レンジがハンドルを切り、敵の攻撃を回避しようとしたその時、イグニスの声が響いた。


『止まるなレンジ!そのまま行け!』


「イグニス!?」


『こんな冷えた鉄屑ごとき、我の敵ではない。……だが、破壊するには少々「解体作業」の時間が必要だ。貴様は先に「親玉」のパーツを取りに行け』


イグニスが翼を広げ、敵機を強引に抑え込む。


『……フン。そういうことだ。我らの戦いに巻き込まれれば、その車とて持たんぞ』


フェンリルも冷気を爆発させ、敵のセンサーを撹乱して道を作る。


『レンジ殿、ここは我らに任せて先へ。……掃除が終わったら、また合流しましょう』


エルクが大樹のトンネルを作り、レンジたちを送り出す構えを見せた。

三柱の背中が、語っていた。

「ここは一歩も通さない」という絶対の自信を。


「……わかった!頼んだぞ、みんな!」


レンジは迷わずアクセルを踏み込んだ。

神獣たちが作り出したわずかな隙間を抜け、魔導車両『銀の箱舟』は中枢タワーへと疾走する。


「(……行くぞ、レンジ。残るは我と貴様たちだけだ)」


助手席でクオンが金色の瞳を光らせる。

後部座席ではルナが影を揺らめかせ、エメがキュウと鳴いた。

最終決戦の幕が上がった。


          ◇


タワーの最上階。

そこは、無数のケーブルとモニターに埋め尽くされた、薄暗い空間だった。

部屋の中央には、天井や壁から無数のチューブに繋がれた「何か」が鎮座していた。

機巧結社の盟主、「機巧王ロード・マキナ」。

上半身は金属パーツで肥大化し、下半身はタワーそのものと融合している。


『……来たか、有機生命体どもよ。』


スピーカーを通したような、ノイズ混じりの声が響く。


『ここが終着点だ。貴様らのような非効率な存在は、我が完全なる演算の一部となることで救済してやろう』


「……うわぁ」


レンジは車から降りるなり、露骨に顔をしかめて鼻をつまんだ。


「お前が親玉か?……くせぇな」


『……臭いだと?我が体は完全なる無菌の金属だ!貴様らのような汚らわしい肉の袋とは違う!』


「いや、臭うね。一番臭うのは、その『溜め込んだゴミ』の臭いだ」


レンジは指差した。

機巧王の体は、度重なる改造で古いパーツの上に新しいパーツが継ぎ接ぎされ、隙間には埃とすすがびっしりと詰まっている。

それは「進化」などではない。ただの「片付けられない部屋」だ。


「メンテナンスもしないで部品ばっか付け足して……。俺から言わせれば、それは『進化』じゃねぇ。『不衛生』って言うんだよ!」


『……黙れッ!!下等な掃除屋風情がぁッ!!』


機巧王が激昂し、タワー内部から無数のレーザー砲門とアームが展開された。

全方位からの飽和攻撃。逃げ場はない。


『消え失せろッ!!』


閃光が放たれた――瞬間。


「(……遅い)」


ボオォォォォォッ!!

黄金の炎がレンジの正面で防壁となる。

クオンだ。

彼女の九つの尾から放たれた狐火が、迫りくるレーザーを相殺し、焼き尽くす。

だが、機巧王の攻撃はそれだけではなかった。

死角となる床下から、鋭利なスパイクがレンジの足を貫こうと射出される。


「シャアァァッ!!(ご主人に触るな!)」


ズドォォン!!

レンジの影から漆黒の触手が飛び出し、スパイクを粉々に叩き折った。

ルナだ。

愛らしい子猫の姿から一変、部屋全体を飲み込むような「闇」を展開し、機巧王のサブアーム群を次々と食いちぎっていく。


『なッ、何だこの黒い化け物は!?データにないぞ!?』


機巧王が動揺し、慌ててコアを守るための最終防壁を展開しようとする。

厚さ数メートルのアダマンタイトシャッターが閉まりかける。


「チッ、閉じこもる気か!」


レンジが舌打ちした、その時。


「キュウ!!(ここだよ!)」


エメが額の宝石を眩く光らせた。


【奇跡の幸運ミラクル・ラック】発動。


ガガガッ……ギギギィィィ!!

閉まるはずだったシャッターが、天井から偶然落下してきた一本の小さなボルトを噛み込み、完全に停止した。

わずかに開いた隙間。そこからは、慌てふためく機巧王の「本体」が丸見えだ。


「ナイスだ、ルナ!エメ!」


レンジは左手を背後に向けた。

指先から、目に見えないほどの超高圧水流が噴き出す。

コンクリートの床を穿つその反動は、強烈な推進力となる。


「特大コースで洗ってやるよ!」


ドシュッ!!

レンジの体が、ロケットのように加速した。

クオンの炎の中を突き抜け、ルナが開いた道を通り、エメがこじ開けた隙間へと飛び込む。


「お前の中身コア、そのガラクタの奥に埋もれてるだけだろ?周りの余計な装甲ゴミ……全部『カット』してやる!」


「【超高圧・水断洗浄ハイプレッシャー・ウォーター・スラッシュ】ッ!!!」


ズバババババババッ!!!!

無数の水刃が、機巧王の巨体を乱れ飛んだ。

それは破壊ではない。解体だ。

錆びついた装甲、無駄な配線、古びたパーツが、外科手術のような精密さで切り離されていく。


『ア、アアアアッ!?我が装甲が、我が究極の進化がぁぁぁッ!?』


ボロボロと崩れ落ちるガラクタの山。

数秒後。

そこに残っていたのは、全ての武装を剥ぎ取られ、ぽつんと座り込む「小さな本体(ただの老人)」だけだった。

彼は綺麗さっぱりと洗い流され、まるで産湯うぶゆを使った赤子のようにキョトンとしている。


「……ふぅ。これでスッキリしたな」


レンジはコームを回してホルスターに収めた。

同時に、周囲の機械音は止み、タワーの機能も停止する。


「(……見事だ、レンジ)」


クオンがすっと隣に降り立ち、ルナがレンジの足元にすり寄り、エメが肩に乗った。

全員の力が一つになり、機巧結社の野望を完全に洗浄クリアした瞬間だった。


          ◇


都市の機能停止を見届けると、神獣たちは三将軍をそれぞれの方法で「処理スクラップ」し、合流地点であるタワーの下へ戻ってきた。

多少の煤汚れはあるが、全員怪我ひとつない。


「よう、みんな。そっちはどうだった?」


車から降りたレンジが声をかけると、イグニスが鼻から黒い煙をプシュッと吐き出した。


『……フン。熱を喰らうなどと豪語しておったが、あやつのキャパシティを超えて熱量を注ぎ込んでやったわ。腹が破裂して溶け落ちたぞ』


『……速いだけの玩具だったな』


フェンリルが冷ややかに続く。


『……動きを予測し追従すると言っていたが、絶対零度で空間ごと凍らせれば止まる。氷像に変えて砕いてやった』


『……私の相手は、森を枯らす毒を使ってきましたが……』


エルクが静かに、しかしドス黒い笑みを浮かべた(ように見えた)。


『……浄化の光で無効化し、機体ごと大地の養分としました。今頃、彼の亡骸スクラップには綺麗な花が咲いていることでしょう』


「……お前ら、容赦ねぇな(苦笑)」


三者三様、自らの「天敵」を正面からねじ伏せたようだ。

これぞ神獣、理屈を超えた存在である。


『して、レンジよ。「ゴミの王」はどうした?』


「ああ、綺麗さっぱり洗い流してやったよ。もう二度と悪さはできねぇさ」


レンジがタワーの頂上を親指で指すと、神獣たちは満足げに頷き合った。


『……そうか。ならば、我らの仕事は終わりだな』


フェンリルが伸びをする。


『……久々に暴れて体がほぐれたわ。礼を言うぞ、人間』


『……楽しかったぞ、レンジ。また背中がかゆくなったら呼ぶとしよう』


イグニスがニカッと笑い、翼を広げる。


『……感謝します。この恩はいずれ必ず。……皆様も、どうか息災で』


エルクが深く頭を下げる。


「ああ、またな。……でも、あんまり頻繁に汚すなよ?」


レンジが手を振ると、神獣たちはそれぞれの空へ、大地へと帰っていった。

後には、浄化された荒野と、静寂だけが残った。


レンジたちは車に乗り込み、荒野の果て――次の国境が見える丘まで移動した。

そこで、スズが車を降りる。


「……レンジ様、皆様。私もここまでです」


スズはレンジたちに向かって、深く一礼した。


「機巧結社は壊滅しましたが、この地の浄化と事後処理にはまだ時間がかかります。コクヨウ様への報告もありますし、何より……ここからはレンジ様の『自由な旅』ですから」


案内役としての任務は終わった。

ここから先は、レンジが気の向くままにモフモフを探す旅だ。


「そっか。……ありがとな、スズ。お前がいなきゃここまで来れなかった」


「ふふ、またいつでも『もみ洗い』が必要な時は呼んでくださいね。……お元気で!」


スズは笑顔で手を振り、懐から『転移魔法石』を取り出した。

パァァァッ……。

淡い光が彼女を包み込み、次の瞬間、その姿は粒子となって風に溶けるように消えていた。

東の国の王宮へ、一瞬で帰還したのだ。


「(……さて。湿っぽい別れは終わりだ)」


クオンがレンジの肩に乗り、尻尾でペシッと頬を叩いた。


「ああ。これであの狐の王様コクヨウから頼まれた件も片付いたし、ようやく本当の意味でのんびり旅ができそうだ」


レンジは伸びをして、愛車『銀の箱舟』のエンジンを吹かした。


「行くぞ、クオン、ルナ、エメ!次は国境を越えて、もっとすごい『モフモフ』を探しに行くぞ!」


「(フン、精々楽しませろ)」

「ニャーン!(おさかなー!)」

「キュウ!(ぼうけんー!)」


「あれ?そいや、なんか忘れてるような……… まぁ、いっか!」


コクヨウの尻尾を撫でるチャンスを逃していることはすっかり忘れ、新たな地平線に向かって、トリマーと最強の相棒たちの車が走り出す。


東の空には、久しぶりに澄み切った青空が広がっていた。


感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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