表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/49

37. 処刑執行と、招集命令





山頂にそびえ立つ「機巧プラント」は、醜悪な鉄の要塞だった。

美しい雪山に杭を打ち込み、黒い煙を噴き上げているその姿は、まさにこの清浄な地に突き刺さった「トゲ」だ。


『……よくもまあ、これほどいきがった真似をしてくれたものだ』


本来の白銀を取り戻したフェンリルが、冷ややかな声で呟いた。

その全身からは、周囲の大気すら凍てつかせるほどの冷気が立ち昇っている。


『我が白銀の庭に、油臭い鉄杭を打ち込んだ罪……その身で償え』


「行こうぜ、フェンリル。とびきりの大掃除だ」


レンジの言葉を合図に、殲滅戦が始まった。


          ◇


警報が鳴り響き、プラントから大量の「防衛機動兵オート・ガーディアン」が出撃してくる。

先ほどの蜘蛛型だけでなく、空を飛ぶドローン型や、重火器を搭載した人型タイプまで様々だ。

だが。


『遅い』


フェンリルが鼻を鳴らした瞬間、世界が停止した。

否、彼が速すぎたのだ。

白銀の閃光が戦場を駆け抜けた直後、数百体の機械兵が、まるで最初からそうであったかのように「氷の彫刻」へと変わっていた。

キィィィン……パリーンッ!!

一拍遅れて、全ての彫刻が微細なダイヤモンドダストとなって砕け散る。

絶対零度の冷気による瞬間凍結と、音速の体当たりによる粉砕。

金属疲労を起こす暇すら与えない神速の破壊劇だ。


「すっげぇ……。氷塊をハンマーで叩き割るみたいに粉々だ」


後方の魔導車両から顔を出したレンジが感嘆の声を漏らす。

その横では、スズが感涙を流して手を合わせていた。


「あれぞまさしく神の御業……!」


「そのまま突っ切るぞ!入り口をこじ開けろ!」


レンジがアクセルを踏み込む。

フェンリルが先導し、分厚い鉄のゲートを体当たりで粉砕した。

一行はそのまま、プラントの内部へと雪崩れ込む。


「うわっ、中はもっと酷いな……!」


プラント内部は、パイプと歯車が入り組んだ迷宮のようだった。

至る所から蒸気が噴き出し、オイルの混じった水が床を汚している。


『侵入者ハッケン……排除……排除……』


通路の奥から、ガトリング砲を構えた警備ロボットの群れが現れた。

狭い通路での弾幕。回避スペースはない。


「クオン、頼む!……って、ここで火はマズイか!?油に引火して大爆発なんて洒落にならない!」


レンジが焦って叫ぶが、クオンは涼しい顔で鼻を鳴らした。


「(案ずるな。爆発などという『過程』すら飛ばして、結果だけを残してやる)」


クオンが九つの尾を振るうと、黄金の奔流が通路を飲み込んだ。


ボオォォォォォッ!!

それは燃焼などという生温かいものではない。物質の強制消滅だ。

神域の超高熱は、オイルが引火爆発する時間さえ与えず、鋼鉄のロボット群を一瞬で原子レベルまで昇華させた。

爆発音すらない。

光が収まった時、そこには敵の残骸どころか、すす一つ残っていなかった。


「……すげぇ。掃除の手間すらいらねぇな」


レンジたちは何もない綺麗な空間を踏み越えて進む。

だが、最深部の手前で、天井に設置された巨大な「自動防衛砲台セントリーガン」が鎌首をもたげた。

砲身が赤く光り、極太のレーザーがレンジの車を狙う。

回避不能のタイミング。


「マズイッ!エメ、頼む!」


レンジの叫びに、助手席のエメがキリッとした表情になる。


「キュウッ!!(まかせて!!)」


エメが額のエメラルドに魔力を集中させ、強く輝かせた。



【奇跡の幸運ミラクル・ラック】発動。



すると、ありえないことが起きた。

ズドンッ!

レーザーが発射された瞬間、砲台を支えていたボルトの一本が金属疲労で偶然破断したのだ。

ガクンッと砲身が下を向き、レーザーは明後日の方向へ逸れて、敵自身の動力パイプを直撃した。

ドッカァァァァン!!


「ナイスだエメ!最高のタイミングだったぞ!」


「キュッキュ〜!(えっへん!)」


エメが誇らしげに胸を張る。

彼女の能力は、ただ棚ぼたを待つような受け身の力ではない。ここぞという瞬間に彼女が願い、魔力を込めることで無理やり現実をねじ曲げる――必中の『確定演出』なのだ。


          ◇


こうしてレンジたちは、要塞内部を蹂躙しながら最上階へと到達した。

そこは、プラント全体を制御する中枢制御室。


「ここが心臓部か。……よし、こいつを完全に停止させれば、この山の汚れも止まるはずだ」


部屋の中央には、巨大なクリスタル型のメインコンピューターが鎮座していた。

レンジは操作盤に向かい、システムダウンのコマンドを打ち込む。

これで全て終わる。そう思っていた。

だが。


モニターに表示された赤い文字列を見て、レンジの手が止まった。


『――警告。通信エラー。ホストサーバー【機巧都市ギア・シティ】への接続が確立できません』


「……あ?ホストサーバー?」


嫌な予感がして、レンジは慌ててデータ階層を掘り下げた。

そこに映し出されたのは、絶望的なネットワーク図だった。

今いるこの巨大なプラントですら、ネットワークの末端にある「小さな点」でしかなかったのだ。


「……マジかよ。こんなデカい要塞が、ただの『地方工場』だったのか……」


レンジが操作してマップを表示させると、北東へ数千キロ離れた荒野のど真ん中に、桁違いのエネルギー反応を示す巨大な光点が現れた。

機巧結社の真の本拠地、「機巧都市ギア・シティ」だ。


「(……ほう。まさか、まだ親玉が残っていたとはな)」


クオンが地図を覗き込み、呆れたように、しかし鋭い眼光で顔をしかめる。


「(それに、この規模……。都市全体が強力な対魔力障壁で覆われていて、かつ周囲には数万の機械兵が配備されているぞ。単独で攻め込むには骨が折れそうだ)」


「ああ。俺たちだけで行っても勝てるだろうが、時間がかかりすぎる。……それに、あんな数相手にちまちまやってたら、こっちが消耗しちまう。一瞬で終わらせる圧倒的な戦力が必要だ」


レンジはニヤリと笑うと、フェンリルとクオンを振り返った。


「なあ、クオン。フェンリル。『借りを返したがってる連中』他に心当たりないか?」


その言葉に、二柱は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。


「(……ククッ。なるほど、そういうことか。良かろう、天狐われの名において号令をかけてやる)」


『……フン。あのトカゲ(火竜)とツノ野郎(大鹿)か。……久々に顔を見るのも悪くはない』


クオンが天に向かって遠吠えを上げ、フェンリルが冷気を纏った咆哮でそれに共鳴する。

その声は魔力に乗って、大陸全土へと響き渡った。

西の火山で、温泉に浸かっていた赤き翼が目を見開く。

南の樹海で、森の手入れをしていた緑の角が空を見上げる。


「全員集合だ。……最高にモフモフした『害虫駆除部隊』を結成するぞ」


レンジは拳を握りしめ、ふと我に返ったように付け足した。


「……あ、イグニスはモフモフじゃなくてゴツゴツか。ま、細かいことはいいか」


目指すは機巧都市。

神獣オールスターズによる、最後にして最大の「大掃除」が始まろうとしていた。


感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ