表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/45

35. 暴走する銀狼と、トリマーの覚悟





『■■■■■■ォォォォォォ…………ッ!!』


バグり散らかした咆哮と共に、黒い巨体が雪崩のように押し寄せてきた。

フェンリルの突進だ。

ただ走るだけで周囲の雪を巻き上げ、黒いタールの飛沫しぶきを散弾銃のように撒き散らす。


「くっ、避けろ!」


レンジはハンドルを切り、間一髪で突進を回避する。

だが、フェンリルが通り過ぎた後の地面は、ドロドロの粘液で埋め尽くされ、強烈な異臭を放っていた。


「ダメだ、速すぎる!あんな巨体で、なんであんな動きができるんだ!」


レンジは車を岩陰に滑り込ませると、暴走するフェンリルを凝視した。

疑問の答えは、その足元にあった。


「なるほど……。走ってるんじゃない、『滑って』やがるのか」


レンジは舌打ちした。

溢れ出る大量の粘液が潤滑油ローションとなり、雪面との摩擦を極限まで減らしていたのだ。

自重数トンの巨体が、自らの油で作ったスケートリンクの上を滑走しているようなもの。あの異常な加速と、慣性を無視したドリフト機動の正体はそれだ。


「制御不能の暴走ソリかよ。タチが悪すぎる」


「(レンジ!悠長に分析している暇はないぞ!)」


クオンが叫ぶ。

フェンリルが岩肌を蹴り(滑り)、再びこちらへ向き直ったからだ。

赤い瞳が、憎悪と苦痛で濁りきっている。


「(……チッ。ならば、無理矢理にでも押さえつけるまで!)」


クオンが車のドアを蹴破る勢いで飛び出した。

空中で黄金の狐火を纏い、巨大な九尾の狐――本来の神獣形態へと変化する。


「(来るがいい、堕ちた狼よ!天狐われが相手をしてやる!)」


『■■■■ガァァァァッ!!』


フェンリルがクオンに飛びかかる。

黄金と漆黒(元白銀)。

二柱の神獣が激突し、衝撃波が雪山を揺らした。


「(……重いな!貴様、どれだけ余計なものを背負い込んだ!)」


クオンがフェンリルの前足を尻尾で受け止めるが、その表情は苦悶に歪む。

物理的な重さだけではない。尻尾を通じて伝わってくるのは、底なしの密度を持った「呪い」の質量だ。


「(……馬鹿な男だ。麓の民たちに流れるはずだった呪いを、すべて己の身一つで堰き止めたというのか)」


クオンは悟った。

機巧結社が撒き散らした呪いは、本来なら雪解け水と共に麓の集落へ流れ込み、獣人たちを全滅させていたはずだった。

だが、このフェンリルは自らその源流に立ち塞がり、全ての汚染をその身に吸い上げたのだ。

民を守るために、誇りである白銀の毛皮を犠牲にして。


『■■■……コロ……セ……』


「(……民を守ってこのザマか。……フン、相変わらず虫酸が走るほど『高潔』な男よ!)」


クオンは吐き捨てるように叫び、フェンリルを弾き返した。

彼女の声には、愚直なライバルへの呆れと、それでも王としての矜持を貫いたことへの苛立ちが混じっていた。

だが、決定打にはならない。フェンリルの体は幾重もの油と呪いの層で守られており、打撃が深くまで届かないのだ。


「クオン、離れろ!準備できたぞ!」


岩陰からレンジが飛び出した。

その手には聖銀のコーム――ではなく、魔法鞄から取り出した巨大なタルが抱えられていた。


「まずはそのガチガチの鎧を剥がす!滑るのが得意なら、もっと滑りやすくしてやるよ!」


レンジは樽を放り投げた。

空中でクオンが尻尾で樽を打ち砕く。

中から飛び散ったのは、白く泡立つ粘度の高い液体――レンジ特製の「高濃度アルカリ魔法石鹸水」だ。

バシャァァァッ!!

頭から大量の石鹸水を浴びたフェンリルが、驚いて動きを止める。


「スズ、今だ!お湯をぶっかけろ!」


「はい! 一一『熱湯瀑布ねっとうばくふ』ッ!!」


スズが御幣ごへいを振るうと、虚空から熱々の温水が鉄砲水のように噴出した。

石鹸と熱湯が混ざり合い、フェンリルの体表で化学反応を起こす。

強固だった油の結界が、乳化作用によってドロドロと溶け出し始めた。


『■■■!? ア゛、ア゛ア゛……!?』


油が浮き上がり、フェンリルが体勢を崩す。

足元の雪がぬるぬると滑り、踏ん張りが効かなくなったのだ。


「(……今だ、レンジ!)」


クオンがフェンリルの四肢を、九本の尻尾で縫い止める。


「おうよ!」


レンジは地面を蹴り、フェンリルの背中へと飛び乗った。

鼻をつく腐臭と油の臭い。

足元はヌルヌルして立っているのもやっとだが、レンジは構わずにコームを構えた。


「暴れるなよ!ここからは『神の手』の時間だ!」


レンジの手の中で、聖銀のコームが眩い光を放つ。

彼はそれを、フェンリルの背中の最も毛玉がひどい部分――呪いの核となっている場所へ突き立てた。



「【絶対解毛アブソリュート・アンタングル】ッ!!」



ザシュッ!!

刃物で切る音ではない。

何千本もの絡まった糸が、一瞬でほぐれる心地よい音。

コームが通った軌跡から、黒いタールと紫色の呪いが霧散し、その下から――。


「……!」


目が覚めるような、美しい「白銀」の輝きが現れた。


感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ