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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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34. 鋼鉄の蜘蛛と、黒い雪山




「ボルグさん、あんた達はここで待っててくれ。」


出発の時、同行を申し出たボルグたちを、レンジはピシャリと制止した。

彼らの毛皮は洗ったばかりで、まだ本来の撥水性(油分)が戻りきっていない。そんな状態で吹雪の中を行けば、低体温症は免れない。


「だが、我らが神を……!」


「神様なら俺たちが綺麗にして連れて帰ってくる。……プロに任せとけって」


レンジは親指を立てて見せると、魔導車両のドアを閉めた。

タイヤには、先ほど即席で作った「スパイクチェーン」が巻かれている。あの粘着質な黒い雪の上を走るための特別仕様だ。


「よし、行くぞ!」


エンジンが唸りを上げ、車は黒い雪を巻き上げて急勾配の山道を登り始めた。


          ◇


標高が上がるにつれ、空気は重く、淀んでいった。

ただの悪臭ではない。肌にまとわりつくような、不快なプレッシャー。


「……気持ち悪いです。空気が、怒っているような……泣いているような……」


スズが胸を押さえて顔をしかめる。

感受性の強い彼女には、この場所に充満する「呪い」の濃度がキツイようだ。


「(……機巧カラクリの連中め。土地の霊脈に直接パイプを突き刺しているな。星の血をすする寄生虫どもが)」


助手席のクオンも、不愉快そうに目を細めている。

その時だった。


ギチチチチ……!!

雪の下から、硬質な駆動音が響いた。

レンジがハンドルを切った瞬間、目の前の雪面が爆ぜ、鋼鉄の塊が飛び出してきた。


「うおっ!?」


現れたのは、四本の鋭利な脚を持つ、巨大な機械の蜘蛛だった。

胴体部分には回転するドリルが備え付けられており、無機質なカメラアイが赤く光っている。


「あれがボルグさんの言ってた『鋼鉄の蜘蛛』か!?」


一体ではない。

ズボッ、ズボボボッ!

雪の中から次々と這い出し、あっという間に数十体の機械蜘蛛が道を塞いだ。

機巧結社の自動採掘防衛機オート・マイナーだ。


『排除……排除……』


機械音声と共に、ドリルを回転させて襲いかかってくる。


「(……邪魔だ!焼き払ってくれる!)」


クオンが窓から身を乗り出し、金色の炎を放とうとする。


「待てクオン!火はダメだ!」


レンジが慌てて止めた。


「こいつら、タンクに油をたっぷり溜め込んでるぞ!ここで爆発させたら、山火事になる!」


「(……チッ!面倒な!)」


クオンは舌打ちし、炎の代わりに尻尾を鋼鉄のように硬化させて叩きつけた。


ガガンッ!

一撃で先頭の蜘蛛が粉砕され、黒いオイルを撒き散らして沈黙する。


「ルナ、関節を狙え!エメはスズを守れ!」


「ニャッ!(まかせて!)」


レンジが叫ぶと、ルナが影から飛び出し、蜘蛛の脚の関節ボルトをピンポイントで弾き飛ばしていく。

レンジ自身も車を降り、聖銀のコームを「大型ニッパー」に変形させて突っ込んだ。


「採掘用なら岩でも掘ってろ!公道での作業は許可してねぇぞ!」


バキンッ!

襲い来るアームを切断し、すれ違いざまに動力パイプを引き抜く。

派手な爆発はない。だが、確実に機能を停止させていく「解体」の手際は、戦闘というより作業のそれだった。


          ◇


数分後。

道の真ん中には、オイル漏れを起こして動かなくなった鉄屑の山が築かれていた。


「ふぅ……。先が思いやられるな」


レンジがニッパーの油を拭き取っていると、風向きが変わった。

鼻をつく強烈な腐敗臭。

そして、地響きのような唸り声。


『■■■……ア゛……ア゛……ォォォォォ…………ッ!!』


それは、遠吠えだった。

だが、誇り高い狼のものではない。喉に泥が詰まり、機械的なノイズと獣の悲鳴が混ざり合ったような、バグり散らかした絶叫。


「……来るぞ」


レンジが視線を上げた先。

山の斜面にある岩棚に、それは立っていた。

かつては「白銀のフェンリル」と呼ばれたであろう、巨狼。

だが今の姿に、神々しさは欠片もない。

全身の毛は重油とヘドロで固まってどす黒く変色し、所々から不気味な紫色の瘴気(呪い)が立ち昇っている。

目は血のように赤く輝き、口からは黒いよだれを垂れ流していた。


「(……見るに耐えんな。あれほど自慢だった『白銀』が泣いているぞ、フェンリル)」


クオンがギリッと牙を鳴らし、悔しげに呟いた。


「知り合いか?」


「(ああ。たかが一地方の山神の分際で、天狐われの『黄金』に張り合おうとした、身の程知らずの男だ)」


クオンの全身から、金色の闘気が立ち昇る。

本来なら、天狐である彼女の足元にも及ばぬ存在。

だが、その「無駄に高いプライド」と「毛並みの美しさ」だけは、唯一クオンの癇に障るほど輝いていた。

それが今、こんなにも穢され、見る影もなく落ちぶれている。

クオンにとって、それはかつての喧嘩相手への侮辱であり、許しがたい光景だった。


「……なら、あいつの誇りを取り戻してやらないとな」


レンジは『神の手』で、フェンリルの状態を冷静に観察していた。



【解析結果】

対象: 白銀のフェンリル(北の山神)

汚れ成分: 高粘度重油、タール、人工呪詛(機巧式・悪意増強型)

状態: 全身フェルト化(重度)、皮膚呼吸不全、精神汚染

解析: 粘着質の油が呪いと結合し、毛穴の奥まで侵食している。物理的な「重さ」と霊的な「不快感」が飽和し、思考回路が壊れてしまっている。

備考: 物理洗浄と浄化の同時施術ハイブリッド・ケアが必須。



「ひどい毛玉フェルトだ。油で毛が絡まって、皮膚が呼吸できてない。その傷口から呪いが入り込んで、かゆくて痛くて仕方ないんだ。」


レンジには聞こえていた。

『殺してやる』という殺意の声ではなく、『助けてくれ』という悲鳴が。


「待ってろよ。今すぐ楽にしてやるからな」


レンジはニッパーを再びコームに戻し、静かに構えた。

目の前には、崖を駆け下りてくる黒い暴走トラックのような巨狼。

北の山頂決戦。

それは討伐ではなく、命がけの「トリミング」の始まりだった。


感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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