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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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31. 解体現場の指揮官と、スクラップの山





「目標、超大型廃棄物ゴーレム!これより『解体作業』を開始する!」


レンジの号令が、爆音にかき消されそうになりながらも響き渡った。


『オオオオオオオッ!!』


要塞ゴーレムが唸りを上げ、かつて工場棟だった巨大な腕を振り下ろす。

その質量は数百トン。直撃すれば、地面ごとミンチになる一撃だ。

だが、レンジは一歩も引かない。彼には、頼れる「重機(神獣)」がついている。


「エルク、止めろ!」


『承知!』


緑海の主・エルクが角を低く構え、真正面から突っ込んだ。


ドォォォォォンッ!!

衝撃波で周囲の木々が薙ぎ倒される。

だが、エルクの足は地面に深く根を張り、一歩も退かなかった。それどころか、地面から極太の植物の根を隆起させ、ゴーレムの足を絡め取って固定していく。


「よし、動きが止まった!装甲を剥がすぞ!」


レンジは腰のホルスターから、愛用の『聖銀のコーム』を抜き放った。


形状変化フォージ……『解析片眼鏡スキャン・モノクル』!」


カシャンッ!

レンジの魔力に反応し、銀色のコームが流体のように変形。瞬時にレンズ状の片眼鏡へと姿を変え、レンジの右目に装着された。

視界が青く染まり、ゴーレムの構造線が浮かび上がる。

『神の手』の知識は本来、動物の骨格や筋肉を見るものだが、レンジにかかれば機械の継ぎ目も「ほぐすべき毛玉」と同じに見えていた。


「右肩のジョイントと、胸部装甲の溶接が甘い! そこを狙えば外装が剥がれる!クオン、ルナ、頼んだ!」


レンジが叫ぶと、クオンが呆れたような声を脳内に飛ばしてきた。


「(……おい。お前はトリマーだろう?なぜ解体屋のような的確な指示ができる)」


「毛玉も鉄屑も一緒だ!繋ぎ目を断てばバラける!」


「(……全く。職種を間違えておらぬか?)」


クオンはため息交じりに空を駆け、右肩に向けて狐火の弾幕を放つ。

ドカドカドカッ!

高熱の炎が鉄を溶かし、関節部分をドロドロの飴状に変えていく。


「ニャッ!(そこね!)」


同時に、ルナが影から飛び出し、胸部の装甲板の隙間に爪を突き立てた。

物理無効の体ですり抜け、内側のボルトだけを正確に切断する。

ガコンッ!

巨大な胸部装甲が自重で剥がれ落ち、内部の配管が剥き出しになった。


「見えた!心臓部コアだ!」


胸の奥、赤黒く脈打つ巨大な魔力炉が露出した。

あれがこの工場の毒を生み出し、この怪物を動かしている元凶だ。


『警告……装甲破損……。防御システム、作動……』


ゴーレムが胸部の砲門を開き、最後の悪あがきとばかりに魔力光を収束させる。

だがレンジは不敵に笑い、再び片眼鏡をコームの形状に戻すと、今度はそれを「巨大なモンキーレンチ」へと変形させた。


「させるかよ。……ここからは、俺の仕事だ」


レンジはクオンの背中に飛び乗った。


「クオン、あのコアの前まで連れて行ってくれ!」


「(……やれやれ。振り落とされるなよ!)」


金色の風となり、クオンが垂直に駆け上がる。

砲撃が放たれる寸前、レンジはコアの目の前に到達した。

『神の目』が、魔力炉の循環パイプにある、たった一つの「圧力弁」を捉える。あそこを締めれば、魔力循環が逆流し、自壊する。


「配管詰まりは……こうやって直すんだよッ!」


レンジは全身のバネを使い、モンキーレンチを圧力弁に叩きつけ、思い切り回した。


ギチチチチッ……ガキンッ!!

硬質な音が響き、弁が完全に閉鎖される。

直後。


『エラー……。魔力逆流……。炉心圧力、限界突破……』


ゴーレムの動きがピタリと止まった。

赤い光が激しく点滅し、全身の継ぎ目から、キーンという不穏な高音が鳴り響く。


「……あ、これヤバイやつだ」


レンジの直感が警鐘を鳴らす。

さっきまでの「壊れる音」ではない。「弾ける音」だ。


「総員退避ぃぃぃッ!!吹っ飛ぶぞォォォ!!」


レンジが叫ぶと、解体業者たちは瞬時に反応した。


「ニャッ!(逃げるよ!)」


ルナは瞬時に影の中へと溶け込み、エメも素早くルナの影へ飛び込む。

地上ではエルクがスズを庇うように屈み込み、幾重もの太い木の根で即席のドームを作り上げた。

その直後。

要塞ゴーレムの内側から、太陽のような閃光が溢れ出した。


カッッッッ!!!!

ズドオオオオオオオオオオオンッ!!!!


天地を揺るがす大爆発。

巨大な火柱が成層圏まで突き抜け、衝撃波が雲を吹き飛ばした。

飛び散る鉄屑が流星のように降り注ぐ中、クオンは金色の防壁バリアを展開し、爆風の中を滑空して離脱した。


「……ふぅ。あっぶねぇ」


安全圏に着地したレンジが見上げると、そこには天を突く巨大な噴煙と、粉微塵になって消滅した工場の跡地だけが残っていた。

見事なまでの「完全撤去」だ。


作業終了ミッション・コンプリート。……みんな、無事か?」


レンジが声をかけると、自身の影からルナがひょっこりと顔を出し、木の根のドームからはスズとエルクが無傷で姿を現した。


「けほっ……。す、凄まじい威力でした……」


『……我が守りを削りきるとは。恐ろしい火力だ』


スズは腰を抜かし、エルクも防壁に使った根が炭化しているのを見て驚愕している。


「……ちょっと派手にやりすぎたか?」


レンジはレンチを元のコームに戻してポケットにしまい、土煙の晴れ間から覗く「完全なる更地」を見渡して――ニカっと笑い、高々と親指を立てた。


そこにはもう、森を汚す黒い煙も、威圧的な鉄の城もない。

あるのは、風通しの良くなった大地と、降り注ぐ陽光だけ。

これ以上ないほど「綺麗さっぱり」とした、完璧な仕事だった。


          ◇


工場の解体が終わり、森に静寂が戻ってきた。

錆びついていた木々は徐々に緑を取り戻し、空気も澄み渡っている。


『礼を言う、人間よ。そして小さきもの達よ』


大鹿エルクが、レンジたちの前で深く頭を下げた。


『そなたらのおかげで、この緑海は守られた。この恩は忘れぬ』


「お互い様ですよ。エルクさんがいなきゃ、あんなデカブツ止められなかった」


レンジは笑って、大鹿の鼻先を撫でた。

もうザラザラの錆はない。温かく、柔らかい毛並みだ。


『……行くのか?』


「ええ。まだ『北』が残ってますから」


レンジは北の空を見上げた。

西の火竜、南の大鹿。そして最後の一つ、北の「白銀嶺」。

そこで何を待つ神がいるのかは分からないが、きっとまた、ひどい汚れ方をしているに違いない。


「(……フン。次は寒い場所か。レンジ、防寒具の用意はいいだろうな?)」


「大丈夫だ。車のヒーターも整備したし、お前らがモフモフしてれば寒くないだろ?」


「(……我らを暖房器具扱いするな)」


クオンが不満げに尻尾を振るが、その顔はどこか楽しげだ。

エメとルナも、車の中で丸くなって準備万端の様子だ。


「じゃあな、エルクさん!元気で!」


『うむ。良き旅を、癒やし手よ』


レンジは魔導車両に乗り込み、エンジンをかけた。

車は緑溢れる森を抜け、一路、北を目指して走り出す。

気温が下がり、景色が緑から白へと変わっていく。

次なる現場は、極寒の雪山。

レンジ一行の「穢れの洗浄旅」は、いよいよ最終局面へと向かっていく。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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