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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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28. 溶解(メルト)トリミングと、森を蝕む歯車





「エメ、手伝ってくれ!」


レンジが声を上げると、魔法鞄のポケットから白い毛玉――カーバンクルのエメが飛び出した。


「キュイッ!(まかせて!)」


「よし。やるぞ」


レンジはバケツの前にしゃがみ込み、ガレス商会で仕入れた数種類の「錬金溶剤」を並べた。

相手は未知の特殊樹脂だ。安全かつ強力に溶かすには、コンマ単位の調合バランスが求められる。本来なら、こんな森の中でぶっつけ本番でやる作業ではない。


「……目分量でいく。エメ、頼むぞ」


レンジは祈るようにエメの額の宝石に触れた。


「キュウ!」


エメが短く鳴き、額のエメラルドが瞬く。

エメから幸運の力を借り受けた事でレンジは迷いを捨て、数種類の劇薬をバケツへ次々と注ぎ込んだ。計量カップなど使わない。指先の感覚と、直感だけが頼りだ。

マドラーを一気に回す。

ジュワッ……と煙が上がり、毒々しい紫色の液体が渦を巻く。

一歩間違えば爆発しかねない反応だが、次の瞬間、液体は澄んだ桜色へと落ち着いた。


「(……ほう。適当に混ぜたように見えたが、完璧な中和点か)」


クオンが感心したように眉を上げる。

レンジは頷き、すぐに大型の噴霧器を担いだ。

ここからはスピード勝負だ。


「少し熱くなりますよ!」


レンジはノズルを構え、大鹿の固まった足関節へ一気に噴射した。


プシュゥゥゥーーッ!!

シュワワワワ……ッ。


樹脂が炭酸のように泡立ち、白濁していく。

皮膚へのダメージはない。狙い通り、汚れだけが分解されている。


「よし、今だ!」


レンジはすかさず金属ヘラを突き立てた。

ガチガチだった樹脂に、ヘラがバターのように吸い込まれていく。

手首を返すと――パキィッ!

本来なら削り取るのに苦労するはずの樹脂が、まるで最初から切れ込みが入っていたかのように、一枚板のごとくペロリと剥がれた。

剥がれた樹脂の裏側はツルツルで、毛を一本も巻き込んでいない。


「キュッ!」


「いいぞ、次だ!」


レンジは無心で手を動かした。

噴霧、反応、剥離。

通常なら何度も引っかかり、修正を余儀なくされる工程が、恐ろしいほどスムーズに進んでいく。

まるでパズルのピースが勝手にはまっていくような感覚だ。


「グルゥ……ッ!」


大鹿が苦悶の声を上げる。

急激に風が当たった皮膚がヒリついているのだろう。

神の手の回復効果で修復していく。

順調だ。このままいけば助かる。

レンジが背中の最も大きな塊にヘラを差し込んだ、その時だった。

ガシャーン、ガシャーン……。

森の奥から、規則正しい、冷たい金属音が響いてきた。


「(……チッ。嗅ぎつけてきたか)」


クオンが作業の邪魔をされた不快感に目を細める。

木々をなぎ倒して現れたのは、3体の奇妙な人型だった。

全身が真鍮しんちゅうの歯車とパイプで構成され、頭部の赤いレンズがギョロリと動く。


「機巧結社の警備人形オートマタ……!工場の『製品』に手を出したのを感知したんです!」


スズが悲鳴に近い声を上げる。

人形たちは腕を変形させ、高速回転する丸ノコギリを展開した。


『排除……排除……。』


無機質な合成音と共に、3体がレンジの背中へ殺到する。


「くそっ、今手を離せるかよ!」


レンジは振り返らなかった。

今、手を止めれば、溶けかけた樹脂が再硬化して皮膚に癒着してしまう。

背後から迫る駆動音。

だが、レンジが回避行動を取るより早く、金色の風が吹き抜けた。


ドォォォンッ!!


先頭の人形が横合いから弾き飛ばされ、幹に激突して粉砕される。

舞い散る歯車の雨の中、優雅に着地したのは小狐姿のクオンだ。


「(身の程知らずの鉄屑どもめ。……仕事の邪魔だ、消えろ)」


『脅威判定……修正。対象、高エネルギ――』


残る2体が標的を変えようとした瞬間、クオンの前足が虚空を薙いだ。


「(遅い)」


カァンッ!

鋭い金属音が響き、2体の人形は綺麗に上下に切断され、火花を散らして崩れ落ちた。


「(……脆いな。所詮は人間が作った玩具か)」


「助かるよ、クオン!」


「(礼には及ばん。さっさと終わらせろ、レンジ)」


「ああ!」


レンジは最後の一撃、大鹿の鼻先を塞いでいた樹脂の塊にヘラを入れた。

ここでも幸運が味方し、栓がポンッと小気味よく抜けた。


「ブオオォォォッ!!」


開通した鼻孔から、大鹿が貪るように空気を吸い込み、咆哮を上げた。

まだ全身のサビは落ちていないが、呼吸さえできればこっちのものだ。


「よし、第一段階クリア!次は『サビ落とし』だ!スズ、水を頼む!」


「は、はいッ!」


溶解作業メルト・トリミングは成功した。

だが、工場の警備システムが作動したということは、敵の本丸にこちらの存在がバレたということだ。


「(……来るぞ、レンジ。次はもっと大物がな)」


クオンが工場の煙突を見据える。

森の奥から、先ほどとは比べ物にならない重い地響きが近づいてきていた。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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