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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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25. 灼熱の背中と、ドリル・トリミング

総合PVが2500を超え、ブックマークも10件を超えました!

読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます!

一つひとつの反応がとても励みになっています!

これからも楽しんでいただけるよう、続きを書いていきますので、引き続きよろしくお願いします!




「……おい若造。本気でそれを持っていくのか?」


宿の裏手にある倉庫前で、湯守の爺さんが呆れた声を上げた。

レンジが肩に担いでいるのは、ハサミでもブラシでもない。

魔石を動力源とする、全長二メートルほどの巨大な「魔導削岩機ドリル」だった。本来は鉱山で岩盤を砕くための重機だ。


「ああ。相手は岩みたいに固まったタールだ。ハサミじゃ歯が立たないし、ブラシじゃ日が暮れる」


レンジはドリルの先端を軽く回し、ギュルルゥゥ……という重低音に満足げに頷いた。

スキル『神の手』による調整済みだ。振動数は歯石除去用のスケーラーと同じ微細振動に設定し、皮膚ウロコを傷つけずに汚れだけを粉砕できるようにカスタムしてある。


「それに、装備も完璧にする。……コーム、変形フォージ!」


レンジが腰のコームを手に取ると、それは液体金属のように形を変え、瞬時に無骨な「防毒ガスマスク」へと変化した。


「……よし。仕事の前にガスでダウン、なんてマヌケな真似はしたくないからな」


レンジは手早くマスクを装着し、防塵ゴーグルをかけた。

その重装備は、もはや街のトリマーというより、災害現場へ向かう『レスキュー隊』のようだ。


「(フン。……伊達男を気取っている時より、よほど似合っているぞ。レンジ)」


「褒め言葉として受け取っとくよ。……よし、行くぞみんな!登山開始だ!」


          ◇


炎獄山の登山道は、灼熱地獄だった。

標高が上がるにつれて気温は上昇し、地面からは猛毒の硫黄ガスが黄色い煙となって噴き出している。

普通の人間なら数分で肺が焼け爛れ、熱中症で倒れる過酷な環境だ。


「(……世話の焼ける。ほれ、レンジ)」


クオンがため息をつき、尻尾を一振りした。

すると、レンジたちの周囲に薄い黄金色の膜が展開された。


「(『断熱結界』だ。外気よりはマシだろう)」


「助かるよ、クオン!さすが神様!」


「(調子のいい奴め。……おい、そこのチビ。バテるでないぞ)」


「キュゥ……(あついよぉ……)」


エメは暑さで少しぐったりしており、ルナの影の中に半分沈んで涼を取っている。

やはり戦闘や環境適応に関しては、クオンに頼るところが大きい。

レンジはガスマスクのフィルター越しに呼吸を整え、ドリルを担いで一歩ずつ進んだ。


「……見えてきた。あれが火口か」


頂上に辿り着いた一行が見たものは、煮えたぎるマグマの池と、その中央でのたうち回る巨大な影だった。


「グオオオオオオオオッ!!」


全長二十メートルを超える巨体。

本来なら美しい真紅のウロコを持つはずの「火竜イグニス」は、今や全身がタールのような黒い塊に覆われ、醜悪な岩石の怪獣と化していた。

その動きは鈍く、時折苦しそうにマグマの中へ頭を突っ込んでは、暴れて波を立てている。


「解析通りだ。……見てみろ、あの背中」


レンジが指差す。

火竜の背中にあるはずの「排熱孔スパイク」が、黒いタールで完全に埋まり、栓をされた状態になっていた。

体内で生成された熱が逃げ場を失い、皮膚の下で赤く脈打っているのが見える。


「(……哀れな。あれでは全身が内側から焼かれるようなものだ)」


クオンが同情と怒りの混じった声を漏らす。


「今すぐ楽にしてやる。……作戦開始だ!クオン、ルナ!あいつをおかに引きずり出してくれ!エメは後ろで応援しててくれ!」


「(承知した!)」


「キュッ!(がんばれー!)」


クオンが巨大化し、金色の尾を伸ばして火竜の首に巻き付く。

ルナが影を広げて足場を作る。


「グガアアアッ!?」


不意打ちを食らった火竜は、クオンの怪力によってマグマの池から岩場へと引きずり出された。


「今だ!スズ、結界で動きを封じろ!」


「はいッ!奉納の舞――縛鎖ばくさ!」


スズが御幣ごへいを振ると、霊力の鎖が火竜の四肢を地面に縫い止めた。

だが、火竜もただではやられない。全身から異常な高熱を放出し、鎖を赤熱させていく。


「熱い……ッ!レンジ様、長くは持ちません!」


レンジは岩場を蹴り、宙を舞った。

目指すは火竜の背中、最も汚れが酷い「排熱孔」エリアだ。

だが、レンジが着地しようとしたその瞬間。


パキィィィンッ!!

限界を迎えた霊力の鎖が、高熱によって弾け飛んだ。


「なっ!?」


「グオオオッ!!」


拘束を解かれた火竜が、怒り狂って尾を振り回した。

巨大な岩塊のような尻尾が、空中にいる無防備なレンジへと迫る。

回避不可能。直撃すれば、断熱結界ごと肉塊にされる。


「くっ、しまっ――」


レンジが覚悟を決めて目を閉じた、その時だった。


ドォォォォンッ!!

強烈な衝撃音が響いたが、痛みは来ない。

レンジが目を開けると、そこには金色の輝きがあった。

巨大化したクオンが割り込み、レンジと火竜の間に立ちはだかっていたのだ。彼女は九本の尾を盾のように広げ、火竜の一撃を真正面から受け止めていた。


「(……おい、仕事中に余所見とは余裕だな?)」


クオンがニヤリと笑う。


「クオン……!」


「(ここは抑える。さっさと背中に乗れ!……長引けば、この馬鹿トカゲごと山を吹き飛ばしてしまいそうだ)」


クオンの全身から黄金の覇気が立ち上り、火竜を力尽くで押し返す。

神獣同士の力比べ。

その隙を見逃すレンジではない。


「ああ、すぐに終わらせる!……待ってろよ!」


レンジはクオンの背中を足場にして跳躍し、今度こそ火竜の背中へと着地した。

靴底からジュワッという音がするが、構わずドリルを構える。


「さあ、工事トリミングの時間だ!」


レンジはスイッチを叩き込んだ。


ギュイイイイイイイイィィンッ!!


轟音と共に、回転するドリルが黒いタールの塊に突き刺さる。


「くっ、硬いな……!」


ガガガガガガガッ!!

激しい振動が腕に伝わる。

このタールは、機巧結社の魔術師たちが作った「対・神用拘束材」だ。物理的強度も魔法耐性も桁違いに高い。

だが、レンジの『神の手』は、その結合の「脆い部分」を瞬時に見抜いていた。


「そこだッ!砕けろぉぉぉッ!」


レンジが魔力を流し込み、一点突破で押し込む。

バキィィィッ!!

鈍い音と共に、背中を覆っていた分厚いタールの殻に亀裂が入った。

プシュゥゥゥゥゥゥ……ッ!!

亀裂から、圧縮されていた高熱の蒸気が勢いよく噴き出した。

まるで圧力鍋の蓋を開けたような衝撃だ。


「グオオオッ……♪」


火竜の口から、苦悶ではなく、安堵の混じった声が漏れる。


「よし、効いてるぞ!このまま全部剥がす!」


ドリルで大まかな塊を粉砕し、残った細かい汚れはワイヤーブラシで削ぎ落とす。

最後に、高圧洗浄魔法で隙間のカスを吹き飛ばす。


ガガガッ!ジョバババッ!キュッキュッ!

その手際は、まさに職人芸。

先ほどまでの死闘が嘘のように、背中の上は「トリミングサロン」と化していた。


「(……フン。やるではないか)」


下で火竜を押さえているクオンが、満足げに鼻を鳴らす。


「仕上げだ!最後の栓を抜くぞ!」


レンジは背中の中心にある、最も巨大な排熱孔を塞ぐタール塊に狙いを定めた。


「必殺!トルネード・スピン・ドリルッ!」


ネーミングは適当だが、威力は絶大だ。

ドリルがタールを貫通し、根こそぎ抉り取る。

スポォォォォォンッ!!

小気味良い音と共に、巨大な黒い塊が宙に舞った。


直後。

ドオオオオオオオッ!!

解放された排熱孔から、真っ赤な炎の柱が天高く噴き上がった。

溜まりに溜まっていた熱エネルギーの解放だ。

空を覆っていた灰色の雲が、その熱波で一瞬にして吹き飛ばされ、青空が顔を覗かせる。


「グオオオオオオオーンッ!!(生き返ったァァァァッ!!)」


火竜が天を仰ぎ、喜びの咆哮を上げた。

黒い汚れが剥がれ落ちたその身体は、ルビーのように透き通った深紅の輝きを取り戻していた。

レンジは熱波に煽られながらガスマスクを外し、新鮮な空気を吸って満足げに親指を立てた。


「ふぅ……。頑固な汚れでしたが、サッパリしましたね、お客さん」


火竜はゆっくりと首を巡らせ、背中の上の「小さなトリマー」と、それを守る「金色の神獣」を見た。

その瞳に、もはや狂気はない。

あるのは、深い感謝と敬意だけだった。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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