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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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24. 泥吐きの湯と、霊泉の湯守




「……酷いな。誰もいないのか?」


レンジたちは車を降り、温泉郷『アカガネ』のメインストリートを歩いていた。

かつては土産物屋や射的場が並び、浴衣姿の客で賑わっていたであろう通りは、今はシャッターが閉まり、割れたガラスや看板が散乱している。

風が吹くたびに、カラカラと乾いた音が響く。


「住民の多くは、空気が汚れて病気になるか、機巧結社に強制労働として連れて行かれました。残っているのは、逃げる力もない老人か、土地に執着する変わり者だけです」


スズが痛ましそうに呟く。

彼女にとって、ここは幼い頃に家族と訪れた思い出の場所でもあったのだ。


「(……臭うな。硫黄の匂いに混じって、あの『腐った油』の臭いがする)」


クオンが不快そうに鼻をひくつかせた。

彼女の視線は、村の奥にそびえ立つ炎獄山の方角へ向けられている。

そこから流れてくる川の水は、赤黒く濁り、湯気ではなく不気味な泡を立てていた。


「おい、あれを見ろ」


レンジが指差した先には、一軒だけ暖簾のれんが出ている建物があった。

村で一番大きな旅館兼、公衆浴場『赤龍楼せきりゅうろう』だ。

建物はボロボロだが、入り口だけは綺麗に掃き清められ、「営業中」の木札がかけられている。


「行ってみよう。何か情報が得られるかもしれない」


ガラガラッ……。

レンジが引き戸を開けると、番台に座っていた影が動いた。


「へいらっしゃい……と言いたいところだが、客じゃなさそうだなぁ」


そこにいたのは、禿頭にねじり鉢巻をした、頑固そうな小柄な老人だった。

彼はレンジたちの服装と、連れている魔獣たちを一瞥し、ふんと鼻を鳴らした。


「機巧結社の手先か?悪いがショバ代なら払えねえぞ。見ての通り、客なんて一人も来やしねえからな」


「いえ、俺たちは旅の者です。……少し、事情があってこの山の神様について調べているんですが」


レンジが答えると、老人の目が鋭く光った。


「神様だぁ?……はんッ、今さら何を言ってやがる。お前ら人間が神域を『ゴミ捨て場』扱いしたせいで、このザマだっていうのによ!」


老人は憤慨し、番台から身を乗り出した。


「昔はなぁ、お山に住む『火竜様サラマンダー』が、極上の源泉を恵んでくださったんだ。腰痛も神経痛も一発で治る、自慢の霊泉だった!だが今はどうだ!」


老人はレンジたちを浴場の中へと案内した。

そこにあったのは、地獄絵図だった。

広々とした岩風呂に溜まっているのは、お湯ではない。

ドロドロとした赤黒いヘドロだ。

ボコッ、ボコッ、と不気味な音を立てて沸騰し、鼻が曲がりそうな悪臭を放っている。


「工場ができてから、火竜様は変わっちまった。最初は湯が濁り始め、次におかしな油が混じり……今じゃこの通りだ。泥を吐き出し、近づく者を焼き殺す怪物になっちまった」


老人は悔しげに、空っぽの湯桶を蹴り飛ばした。


「俺は代々、この湯を守る『湯守ゆもり』だ。だが、これじゃあ背中を流すことも、客を温めることもできねぇ……!」


その悲痛な叫びに、レンジは静かに頷いた。

そして、ヘドロの池と化した浴槽に近づき、そっと手をかざした。


「レンジ様!?危ないです!」


スズが止めるのも聞かず、レンジはヘドロを指ですくい上げた。


ジュッ!

皮膚が焼け焦げる音がしたが、レンジは顔色一つ変えずに『神の手』を発動させる。



【解析結果】

対象: 汚染された源泉ヘドロ

成分: 硫黄、鉄分、強酸性スラッジ、人工呪詛タール(熱変質型)

状態: 沸騰、腐敗、有毒ガスの発生

解析: コクヨウに付着していた『蝕み』と同種の人工的な呪い。ただし、高熱の源泉と混ざり合い、長時間煮詰まったことで粘着性と腐食性が大幅に強化されている。

備考: 通常の浄化魔法では分解不可能。



「(……なるほど。成分はコクヨウさんの時と同じ『呪い』だ。ただ、こっちは熱で変質して、さらにタチが悪くなってる)」


レンジは指についた泥を払い、老人に向き直った。


「爺さん。……これはただの汚れじゃない。人為的な『呪い』だ」


「あ?呪いだと?」


「ああ。機巧結社の連中が垂れ流した廃液には、神様の力を封じる『タール状の呪い』が混ぜられてる。そいつがウロコの隙間や毛穴に入り込んで、接着剤みたいに固着してるんだ」


レンジはヘドロの塊を指で潰した。


「火竜様は怒り狂っているわけじゃない。その呪いのタールが全身をコーティングして、体内の熱が放出できなくなっているんだ。」


レンジの説明に、老人は目を丸くした。


「そ、そんな馬鹿な……!じゃあ、火竜様はずっと熱暴走寸前で苦しんでるってのか?」


「ああ。だから助けてやらなきゃいけない。……爺さん、この宿に『削岩機』みたいな道具はあるか?あと、一番硬いデッキブラシも」


「は、はあ?道具なら倉庫にあるが……何をする気だ?」


レンジはニカっと笑い、腕まくりをした。


「決まってるだろ。火竜様のウロコにへばりついた『呪い』を削ぎ落として、極上の源泉を取り戻すんだ。――俺に任せてくれ」


レンジは親指で自分を指し、自信満々に言い放った。


「俺は世界一の『トリマー』だ。どんなに頑固な汚れも、絡まった呪いも、綺麗さっぱり洗い流してやるよ」


その頼もしい笑顔に、老人は呆気にとられ、そして……どこか懐かしい光を見るように目を細めた。


「……へっ、言うじゃねえか若造。もし本当に元の湯が戻ったら、一番風呂はお前らに奢ってやるよ」


「言質取ったぞ。……よし、行くぞみんな!ミッション・スタートだ!」


レンジの号令で、クオン、ルナ、エメ、そしてスズが動き出す。

最初のターゲットは、火の山で苦しむ巨大なトカゲ。

灼熱のトリミングが、今始まる。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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