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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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23. 鋼鉄の進撃と、枯れた温泉郷




翌朝。

レンジたちは白狐城の大手門にて、出発の時を迎えていた。


「……行くのか、レンジ殿」


見送りに現れたのは、いつもの威厳ある「王の装束(男装)」に身を包んだコクヨウだった。

周囲には多くの家臣や護衛がいるため、彼女は完璧に「お稲荷様」としての仮面を被っている。

だが、その瞳だけは、昨晩見せた女性らしい柔らかな光を宿していた。


「ええ。西の火山から順に回ってきます。……王様も、無理しないでくださいよ。また黒くなったら、俺が何度でも洗いに行きますから」


レンジが小声で囁くと、コクヨウは頬を微かに染め、扇子で口元を隠した。


「(……ふふっ。待っているぞ。我が身を委ねられるのは、其方だけだ)」


「(うわ、破壊力高ぇ……)」


男装の麗人からのデレ攻撃に、レンジは心臓を撃ち抜かれそうになった。

それを冷ややかな目で見ている、肩の上の金色の狐を除けば、良い別れのシーンだった。


「(……フン。行くぞ、色ボケトリマー。これ以上ここにいると、我が尻尾でその緩んだ顔を引っぱたくことになりそうだ)」


「わ、わかってるよ!」


レンジは『銀の箱舟』に乗り込んだ。

助手席には不機嫌なクオン、後部座席にはルナとエメ、そして案内役として同行することになった巫女のスズが座っている。


「では、参りましょう!西の『炎獄山えんごくざん』へ!」


スズの号令と共に、魔導エンジンが唸りを上げた。

銀色のキャンピングカーは、朱塗りの門をくぐり、一路西へと走り出した。


          ◇


王都 キョウを出て半日。

整備された街道を進むにつれ、車窓の景色は徐々に変化していった。

美しい田園風景や竹林は姿を消し、代わりに荒涼とした赤土の大地が広がり始めた。

そして何より、空の色がおかしい。

どんよりとした灰色に濁り、焦げ臭い匂いが空調フィルター越しにも感じられるほどだ。


「……酷いな、こりゃ」


レンジは眉をひそめた。

遠くの山肌が無惨に削り取られ、そこから何本もの太い鉄パイプが血管のように地面を這っている。

あちこちに巨大な煙突が立ち並び、黒い煙をモクモクと吐き出していた。


「あれが、『機巧カラクリ結社』の工場です」


後部座席のスズが、憎々しげに言った。


「彼らは『神の加護より、鋼の力』を掲げ、聖域である山々を切り崩して資源を採掘しています。地脈を傷つけ、水を汚し……そのせいで、土地神様たちが弱っているのは間違いありません」


スズは拳を握りしめ、悔しそうに続ける。


「……ですが、不可解なのです。ただ弱るだけならまだしも、最近の神々は『何かに乗っ取られたように』凶暴化し、腐り落ちていく。あのようなおぞましい姿に変わり果てる理由……それだけが、誰にも分からないのです」


「なるほど。ただの公害や環境破壊じゃ説明がつかないってことか」


レンジはハンドルを握る手に力を込めた。

やはり、レンジが睨んだ通りだ。

工場から垂れ流されているのは、ただの排水ではない。神を堕とすために調整された「何か」が混じっている可能性が高い。


「(……不快な臭いだ。鉄と油、そして腐敗しきった欲望の臭いがする)」


クオンが鼻を押さえる。

その時だった。


「警告!前方ニ熱源反応アリ。武装シタ集団ガ接近中」


ナビシステムの無機質な声と共に、前方の街道にバリケードが見えてきた。

木材と鉄板で組まれた粗末な関所。

そこには、「機巧結社」の旗印を掲げた一団が待ち構えていた。


「止まれェェッ!!」


拡声器のような魔道具で怒鳴り声が響く。

道を塞いでいるのは人間だけではない。

蒸気を噴き出し、ガチャガチャと音を立てて動く、三メートルほどの「木製ロボット」が二体。

和風のスチームパンクとも言うべき、異様な兵器だ。


「……あれが『機巧兵カラクリへい』か」


レンジは舌打ちしつつ、ブレーキを踏んで車を止めた。

すぐに、薄汚れた作業着を着た男たちが数人、武器を持って取り囲んでくる。


「ここから先は『機巧結社』の管理区域だ!通行料を払え!あと、その変わった馬車も没収だ!」


チンピラのような男が、窓ガラスをバンバンと叩く。


「レンジ様、どうしますか?私が交渉を……」


スズが腰の刀に手をかけるが、レンジはそれを手で制した。


「いや、いい。交渉が通じる相手じゃなさそうだ。それに……」


レンジはバックミラー越しに、ルナとエメを見た。


「うちの子たちが、イライラしてるみたいだからな」


見ると、ルナは影と同化して殺気を放ち、温厚なエメですら「キュゥッ!(クサイのやだ!)」と怒って額の宝石を点滅させている。

クオンに至っては、「(焼き払うか?)」と物騒な提案をしている始末だ。


「ちょっと散歩させてくるよ。――全員、出るぞ!」


レンジがドアを開けた瞬間。


「ヒャッハー!出てきやがったな、金目のもん置いて……ひぃっ!?」


男の悲鳴が裏返った。

車内から飛び出したのは、レンジだけではない。

巨大な影となって広がる黒猫ルナ、眩い光を放つ宝石獣エメ、そして黄金のオーラを纏ったクオン


「や、やっちまえ!機巧兵、攻撃開始!」


男の命令で、二体の木製ロボットが動き出した。

右腕に装備された蒸気式パイルバンカーが唸りを上げる。

ガシュッ!プシュゥゥゥッ!!


「危ない!」


スズが叫ぶが、レンジは動かなかった。


「ルナ、足止め。エメ、目眩まし!」


「ニャッ!」


「キュウ!」


ルナの影が鞭のように伸び、機巧兵の脚を一瞬で絡め取って転倒させる。

同時に、エメの宝石から強烈な閃光フラッシュが放たれ、男たちの目を焼いた。


「うわあああっ!目が、目がぁぁ!」


「(……遅い)」


トドメはクオンだ。

彼女はレンジの肩から軽く跳躍すると、宙返りしながら尻尾を一振りした。

ズバァァァンッ!!

ただの「風圧」である。

しかし、神獣の一撃は衝撃波となって炸裂し、二体の機巧兵を鉄屑と木っ端微塵に粉砕し、バリケードごと男たちを吹き飛ばした。


「ひ、ひぃぃぃ……!お、覚えてやがれぇぇ!」


塵芥ゴミの山と化した関所から、男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。


「……ふぅ。意外と脆いな」


レンジは舞い上がった土煙を手で払い、破壊された機巧兵の残骸を見下ろした。

動力源は魔石と蒸気エンジンのハイブリッドらしい。技術レベルはそれなりだが、クオンたちの敵ではない。


「す、凄いです……。あの大柄な機巧兵を、一撃で……」


スズが唖然としている。


「まあ、うちの相棒クオンが強すぎるだけだよ。さ、邪魔者は消えた。先を急ごう」


レンジたちは再び車に乗り込み、バリケードの残骸を踏み越えて進んだ。

関所を抜けると、空気はさらに重くなった。

やがて前方に、巨大な火山『炎獄山』の姿が見えてきた。

かつては神聖な霊山として崇められていたその山は、今や無数のパイプと足場に覆われ、山肌からはマグマのように赤い廃液が垂れ流されている。

そして、その麓にある温泉郷『アカガネ』。

湯治客で賑わっていたはずのその村は、工場の黒煙に覆われ、ゴーストタウンのように静まり返っていた。


「……着いたな。ここが最初の現場だ」


レンジはハンドルを切り、寂れた村の入り口へと車を滑り込ませた。

そこには、温泉の硫黄臭とは違う、腐った卵のような異臭が立ち込めていた。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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