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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第1章 束縛の王と、解き放たれた旅人

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2/20

1.目覚めと違和感



鳥のさえずりが聞こえた。

電子音のアラームでも、車の走行音でもない。もっと有機的で複雑な旋律を持つ本物の鳥の声だ。

頬を撫でる風には、コンクリートの粉っぽい臭いではなく、湿った土と若草の匂いが混じっていた。


「……ん」


レンジは重い瞼を持ち上げた。

眩しい光が網膜を刺す。彼は反射的に手をかざし、そして固まった。

目の前に広がるのは見慣れた天井のシミでも、サロンのLED照明でもない。

どこまでも高く広がる、抜けるような青空だった。そして、その空を覆うように巨大な樹木の枝が天蓋のように広がっている。

見たこともない植物だ。葉の一枚一枚が子供の背丈ほどもあり、幹は白銀色に輝いている。


「ここは……?」


体を起こそうとした、その瞬間だった。

フォォン、という耳慣れない微かな起動音と共に、目の前の空中に「半透明の青いプレート」が浮かび上がった。


「うわっ……なんだこれ」


レンジは驚いて身を引こうとしたが、そのプレートは彼の視線に追従して空中に固定されている。

そこには、まるでゲームのステータス画面のような文字列が、明朝体で表示されていた。



【ステータス表示】

氏名: 天野 蓮司レンジ

年齢: 20歳

職業: 放浪のトリマー

LV: 1

体力: 250

魔力:(測定不能)

固有スキル: 『神のグルーミング



「ステータス画面……? それに、魔力?」


レンジは『魔力』という項目を凝視した。

その数値を見た瞬間、彼の身体の奥底でドクンと脈打つものがあった。

血液とは違う、熱く、力強いエネルギーの奔流。それは血管を流れるというより、皮膚の内側を這うような、あるいは骨髄から染み出してくるような異質な感覚だった。


(これが魔力か。……小説の中だけの話じゃなかったんだな)


不思議と恐怖はなかった。

むしろ、昨夜までの鉛のような倦怠感や、背中に張り付いていた慢性的な痛みが嘘のように消え失せ、代わりにこの「魔力」が活力を与えてくれているのがわかる。

彼は自分の手を見つめた。

荒れていたはずの手肌は若々しく張りがあり、酷使して変形していた指の関節も滑らかに戻っている。年齢も、身体の軽さからして表示通り20歳に戻っているようだ。


「死後の世界か、異世界転移か……。少なくとも、今の俺は以前の俺よりも健康らしい」


レンジは冷静に状況を受け入れ、画面をスクロールした。

一番下に表示されているスキルの詳細を確認する。


【固有スキル:『神のグルーミング』】

効果: 対象を瞬時に解析する。自身の魔力を指先や道具に流すことで、対象の状態異常を回復、精神安定(鎮静)、および能力向上バフを付与する。

初期装備: 聖銀のハサミ、聖銀のコーム

パッシブ: 『言語理解(獣)』


「魔力を道具に流す……」


そこまで読んで、レンジは腰に提げられた革袋の重みに気づいた。

紐を解き、中身を取り出す。

出てきたのは、ステータス画面にあった通りの一振りの「ハサミ」と、一本の「コーム(櫛)」だった。

ハサミは、刀身がダマスカス鋼のように美しい波紋を描き、持ち手の部分には白銀の装飾が施されている。

コームの方も同様だ。鈍い銀色に輝き、ピンの一本一本が精密機械のように整然と並んでいる。

それらを握りしめた瞬間、体内の魔力が自然と道具へ吸い込まれていく感覚があった。


その時だった。


『言語理解(獣)』という文字が明滅し、森の奥からざわめきが聞こえてきた。


「グルルルル……(痛い、痛い、痛い……)」


それは単なる獣の咆哮ではなかった。明確な「感情」と「言葉」として、レンジの鼓膜を震わせたのだ。

風向きが変わった。

獣臭い、けれどどこか懐かしい野生の匂いが漂ってくる。

その匂いの中に、レンジは微かな腐敗臭と、鉄の匂い――血の匂いを嗅ぎ取った。


「誰か、怪我をしてるのか?」


恐怖よりも先に、職業病とも言える使命感が鎌首をもたげた。

レンジはハサミとコームを革袋ではなく、チュニックのポケットとベルトに差し込むと、ステータス画面を手で払って消した。

声のする方へと足を踏み出す。

シダ植物のような草をかき分け、巨大な樹の根を乗り越える。

森の奥へ進むにつれ、その呻き声は悲痛なものへと変わっていった。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

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今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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