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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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15. 泥人形と、殺意の洗浄(クリーニング)




「……よし。威力はわかった。けど、調整が難しいな」


ベルグ郊外の荒野。

レンジが放った『高圧洗浄ウォーター・カッター』によって真っ二つになった大岩の前で、レンジは腕組みをしていた。


今日は魔法の特訓のため、市内の預かり所から『銀の箱舟』を出して、人目のないこの荒野までやってきていた。

休憩や食事、そして万が一の怪我の手当ても考えると、やはり拠点(馬車)がそばにあると安心だからだ。


「もっとこう、弱い汚れには優しく、頑固な汚れには厳しく……」


レンジがブツブツとイメトレをしていると、岩の上で見学していたエメが、急に何かに反応して飛び降りた。


「キュウ!キュッキュッ!(こっち!こっちになんかある!)」


エメは荒野の奥、鬱蒼と茂る森の方角を指して跳ね回っている。

その額のエメラルドが、激しく明滅していた。


「(……ほう?エメの『幸運』が反応しているな)」


クオンが興味深そうに立ち上がる。


「(ただの荒野だと思っていたが……どうやら近くに『未発見のダンジョン』、あるいは『宝物庫』が埋もれているみたいだぞ)」


「宝?こんな街の近くにか?」


レンジは眉をひそめたが、エメはレンジのズボンの裾を引っ張り、「早く行こう!」と急かしてくる。


「わかったわかった。……ちょうどいい、実戦練習テストといこうか」


レンジはニヤリと笑った。

岩のような「動かない的」ではなく、動く相手でこの新魔法を試したいと思っていたところだ。

レンジたちはエメの先導で、荒野のさらに奥へと足を踏み入れた。


          ◇


エメに連れられてやってきたのは、崖の裂け目に隠された、湿っぽい洞窟の入り口だった。


「うわっ、臭っ……」


入り口に立った瞬間、ドブ川のような腐敗臭と、じめっとした湿気が漂ってきた。

潔癖症の気があるトリマーとしては、一番入りたくないタイプの場所だ。


「(おいレンジ。我の鼻が曲がりそうだ。本当にここに入るのか?)」


クオンが前足で鼻を押さえて嫌な顔をする。

ルナも「ニャッ(くさいのヤダ!)」とレンジの肩の後ろに隠れてしまった。


「エメが『ある』って言うんだから、何かあるんだろ。……それに」


レンジは暗い洞窟の奥を見据えた。


「この汚れ(におい)、見過ごせないな。プロとして」


レンジの中に、妙なやる気スイッチが入った。

彼は新しく覚えた魔法の感触を確かめるように、指先をパチンと鳴らした。


「行こう。……大掃除の時間だ」


          ◇


「グオォォォ……」


洞窟の広間に出た瞬間、地面の泥が盛り上がり、不気味な唸り声を上げた。

現れたのは、泥とヘドロで構成された人型の怪物――「マッド・ゴーレム」の群れだった。

その数、およそ20体。

全身から汚水を垂れ流し、悪臭を放ちながらレンジたちに迫ってくる。


「(……チッ。泥人形か。斬れば泥が飛び散るし、殴れば埋まる。我の最も嫌いな相手だ)」


クオンが不快そうに後ずさる。

ルナも「ニャッ(汚いのイヤ!)」とレンジの肩に避難した。


「グオッ!!」


先頭のゴーレムが、泥の腕を振り上げて襲いかかってくる。

だが、レンジは動じなかった。

恐怖よりも先に、ある感情が爆発したからだ。


「……汚い」


レンジの目が、『頑固な汚れ(マッド)』を前にした、冷徹な職人トリマーの目に変わった。


「歩くたびにヘドロを撒き散らすな。」


レンジにとって、汚れとは「敵」ではない。「落とすべき対象」だ。

そして目の前の敵は、存在そのものが「落としきれていない汚れ」の塊だ。

ならば、やることは一つ。


「『すすぎ』の時間だ」


レンジの指先に、青白い魔力が収束する。

本来は対象の身体能力を上げる「能力向上バフ」の効果を、レンジは自身の放つ魔法そのものに適用した。

水の「勢い」と「洗浄力」を、魔力で限界まで強化ブーストする。


「喰らえ……『高圧洗浄ウォーター・カッター』ッ!!」


ドシュパァァァァァァッ!!!!

洞窟内に、ジェット機のような轟音が響き渡った。

レンジの指先から放たれたのは、もはや水ではない。「水の刃」だ。

超高圧の水流が、先頭のゴーレムに直撃する。

普通なら弾かれる泥のボディが、豆腐のように貫通された。

いや、貫通だけではない。

着弾の衝撃波で、泥の結合そのものが粉砕され、霧散していく。


「次ッ!」


レンジは指先をホースのように薙ぎ払った。

レーザービームと化した水流が、横一文字に走る。

ズバババババババッ!!

並んでいた5体のゴーレムが、一瞬で上半身と下半身に「切断」された。

さらに、地面や壁にこびりついたヘドロまでもが、水圧によって綺麗さっぱり削ぎ落とされていく。


「(……なんだあれは)」


クオンが呆然と呟く。

そこに魔法的な詠唱の美しさはない。あるのは、圧倒的な「清掃能力」による暴力だ。


「そこだッ!汚れのコア!」


レンジの目は、ゴーレムの体内にある魔石コアを正確に捉えていた。

狙い澄ました一点集中砲火。

バシュッ!!

最後の1体、ひときわ巨大なボス・ゴーレムの胸部が弾け飛び、コアが粉砕された。


          ◇


数分後。

そこには、ゴーレムの姿は一つもなく、代わりに「壁も床もツルツルに削られた洞窟」だけが残されていた。

高圧洗浄の余波で、長年の苔や汚れはおろか、岩盤の表面まで数メートルほど削ぎ落とされてしまったのだ。


「ふぅ……。スッキリした」


レンジは指先の水気を払い、満足げに頷いた。

そして、綺麗になった洞窟の奥で、エメが輝くエメラルドで地面の一角を指し示した。


「キュウ!(ここ!)」


そこには、泥に埋もれていた宝箱があった。

中には、透き通るような青い石が入っていた。


【解析結果】

アイテム: 浄化の魔石(大)

効果:対象の水を浄化し、癒しを与える湧き水に変える国宝級のアーティファクト。


「おおっ!すげぇ!これがあれば、『銀の箱舟』のシャワーの水が綺麗になる!!」


レンジが歓喜の声を上げた、その時だった。


ズズズ……ゴゴゴゴゴ……ッ!!


地鳴りのような音が響き、頭上からパラパラと小石が落ちてきた。


「(……ん?)」


クオンが耳をピクリと動かし、天井を見上げる。

そこには、レンジの放った『高圧洗浄』の斬撃痕(カッター跡)が、天井を支える岩柱を綺麗に斜めに切断している光景があった。

自重に耐えきれなくなった岩盤が、ゆっくりとズレ始めている。


「(……馬鹿者ォォッ!!貴様、支柱ごと『洗浄』してどうする!!)」


「え?あっ……やべ」


レンジの顔から血の気が引いた。


ズドンッ!!


切断された岩柱が一本倒れ、ドミノ倒しのように崩落が始まった。


「逃げるぞッ!!生き埋めになる!!」


「うわああああっ!エメ、しっかり捕まってろ!」


レンジは宝箱を小脇に抱え、エメを懐に入れ、ルナを肩に乗せて全力疾走した。

背後で、轟音と共に天井が落ちてくる。

それはまさに、アクション映画のワンシーン。


「出口だッ!!」


レンジたちは砂煙を上げながら、崩れゆく洞窟の入り口から飛び出した。


ドガガガガガガガッーン!!!!


直後、凄まじい轟音と共に、洞窟があった小山全体が陥没し、ただの瓦礫の山へと変わった。


「はぁ、はぁ……。あ、危なかった……」


「(……全く。掃除に来て、家ごと壊す奴があるか)」


クオンが呆れ果てて尻尾でレンジを叩いた。

だが、その手にはしっかりと「浄化の魔石」が握られている。


「ま、まあ結果オーライだろ?魔石は手に入れたし」


レンジたちは、少し離れた場所に停めてあった『銀の箱舟』へと戻った。

幸い、崩落には巻き込まれていない。


          ◇


車内に戻ったレンジは、冷や汗と埃を流すため、早速水タンクに「浄化の魔石」を放り込んだ。

汲み上げた水が、一瞬にしてクリスタルのように澄んだ「聖水」へと変わる。


「よし、最高の風呂の準備が整ったぞ!」


「ニャ〜!(お風呂お風呂!)」


レンジたちは早速、馬車備え付けのバスルームへ。

広さは畳二畳分ほどだが、最新の給湯システムと、レンジが自作した入浴剤(ヒノキの香り)がある。

そこに、浄化の魔石を通した「超軟水」のお湯が並々と注がれる。


「あぁ〜……生き返る……」


レンジは湯船に浸かり、天井を仰いだ。

死にかけた後の風呂は格別だ。


「(うむ。この水、肌触りが違うな。毛並みが良くなりそうだ)」


クオンも狐の姿で、頭にタオルを乗せて優雅に湯に浸かっている。

ルナは湯船の縁で、尻尾をお湯につけて遊んでおり、エメは洗面器の中でプカプカと浮いて泳いでいる。


「キュウ〜♪(ごくらく〜)」


「(それにしてもレンジよ。あの『高圧洗浄』とやら……)」


クオンが片目を開けて、呆れたように言った。


「(威力がありすぎるのも考えものだな。……使い所はよくよく考えるのだぞ)」


「わかってるって。あれは『解体工事』が必要な時だけにするよ」


「(……使い道を間違えているぞ)」


シャワーヘッドから出る優しいお湯に癒やされながら、一行は旅の疲れを洗い流した。

外はもう夕暮れ。窓の外には、崩れ落ちた洞窟の残骸が見える。


「さて……さっぱりしたけど、こんな瓦礫の山の前で寝るのは気分が悪いな」


レンジは風呂上がりのタオルを首にかけ、運転席へと向かった。


「少し移動しよう。今日のところは、この近くで野営だ」


「(ふむ。ならば晩飯は豪華に頼むぞ。働いて腹が減った)」


「お前、鼻つまんで『汚い』って文句言ってただけだろ!働いたの俺だけだぞ!」


レンジは思わず振り返って叫んだ。

ゴーレム戦において、クオンは爪一本汚していない。完全に観客だった。


「(何を言う。司令塔として的確なアドバイスを送っていただろう)」


「(『汚い』しか言ってなかっただろ!)」


「ニャ〜(おなかへった〜)」


ルナも便乗して鳴き出す。

レンジは大きなため息をついた。


「……たく。わかったよ、いい肉焼いてやるから大人しく待っとけ」


「(うむ。それでこそ我が相棒パートナーだ)」


ピカピカになった一行を乗せ、『銀の箱舟』はゆっくりと動き出す。

水も、破壊魔法も手に入れたが、どうやらこの「最強の相棒パートナー」を養う苦労だけは、これからも変わらないようだ。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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