表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/29

14. 生活魔法? いいえ、高圧洗浄(ウォーターカッター)です





「……ほう、魔導書をお探しで?」


ベルグの裏通りにある古びた魔導具店。

埃とインクの匂いが漂う店内で、老婆の店主がカウンター越しにレンジを見上げた。


「はい。初心者でも使える、簡単な攻撃魔法の教本があれば」


レンジが尋ねると、老婆は鼻で笑い、埃をかぶった薄い本をカウンターに放り投げた。


「攻撃魔法なんざ、才能がなけりゃ火種一つ起こせやしないよ。悪いことは言わん、まずはこの『生活魔法全集・入門編』にしときな。『水生成ウォーター』や『着火イグニス』くらいなら、魔力が少ない一般人でも練習すれば使えるようになるさ」


「生活魔法……ですか」


レンジはパラパラとページをめくった。

本来、攻撃魔法ファイアボールなどは複雑な術式と大量の魔力を要する。

対して生活魔法は、コップ一杯の水を出したり、焚き火の種火をつけたりする程度の、日常の補助に使われるものだ。


「(……まあ、トリマーとして『水生成』は覚えておいて損はないか)」


レンジはふと、愛用の『聖銀のコーム』を思い浮かべた。

あれは変形させればシャワーになるが、あくまで「動物の皮膚を傷つけない優しい水流」しか出せない仕様だ。

だが、グリフォンのような大型魔獣や、泥だらけになった足を洗う時は、もっとガツンと強い水圧で汚れを吹き飛ばしたい時がある。


「(コームのシャワーじゃ『予洗い』には水圧不足なんだよな……。魔法なら、自分で水圧を調整して、『高圧洗浄機』みたいに使えるかもしれない)」


そう考えたレンジは、本来の「攻撃魔法」という目的を「高圧洗浄」という目的に替え、納得して頷いた。


「これにします。ありがとう、釣りはいらないよ」


「へっ、気前のいい兄ちゃんだね。ま、頑張んな」


           ◇


ベルグの街を出てすぐの、岩が転がる荒野。

レンジたちは魔法の特訓のためにやってきていた。


「よし、やるぞ」


レンジは魔導書を広げた。

足元ではクオンが監督役として座り、少し離れた岩の上でルナとエメが見学している。


「(基本中の基本、『水球ウォーター・ボール』だ。本来は飲み水を作るための魔法だが、ぶつければ多少の目くらましにはなる)」


「オッケー。イメージが大事なんだよな」


レンジは右手を突き出し、魔導書に書かれた呪文を唱え始めた。


「『大気満ちる水の精霊よ、我が手に集いて球となれ……』」


ここで重要なのがイメージだ。

普通の冒険者なら、「丸い水の塊」をイメージするだろう。

だが、レンジはトリマーだ。

彼の脳裏に浮かんだ「水を使う場面」とは、飲み水ではない。


(頑固な泥汚れを落とす……もっと強く! 毛の根元まで届く水圧!そう、業務用シャワーヘッドの最大出力!!)


レンジの指先に、『神のグルーミング』の魔力循環が発動する。

無意識のうちに、放出される水魔法に対して「能力向上バフ」を行ってしまったのだ。

本来、チョロチョロと出るはずの魔力が、ダムが決壊したような勢いで指先に殺到する。


「……『ウォーター』ッ!!」


レンジが叫んだ瞬間。

ドシュッ!!!!

破裂音に近い音が響いた。

レンジの指先から放たれたのは、ふわふわした水球ではない。

目にも止まらぬ速度で噴射された、極細かつ超高圧の「水流」だった。

その水流は、直線上にある空気を切り裂き、10メートル先にあった巨大な岩に直撃した。

ズバァァァンッ!!

一瞬。

本当に一瞬だった。

大岩の中央に一直線の亀裂が入り――次の瞬間、岩が真っ二つに割れて左右に崩れ落ちた。

切断面は、まるで研磨された鏡のようにツルツルに輝いている。


「…………へ?」


レンジは自分の指先と、割れた岩を交互に見た。


「(…………)」


クオンが口をあんぐりと開けて固まっている。

ルナとエメも、目をまん丸にして震えている。


「あ、あれ?これ『ウォーター』だよな?えっ、岩切れた?」


レンジが困惑していると、クオンがこめかみを押さえながら近づいてきた。


「(……馬鹿者。それは『水球』ではない。『水断ウォーター・カッター』だ)」


「カッター?」


「(本来、水魔法の極致に至った大魔導師が使う、攻城兵器レベルの術だ。それを初級魔法の詠唱で、しかも無詠唱に近い速度で放つ奴があるか!)」


クオンの解説によると、レンジの「汚れを落としたい」という強すぎるイメージと、「無尽蔵の魔力」、そして『神の手』による「出力の能力向上バフ」が組み合わさり、ただの水魔法が「超高圧洗浄機(工業用)」へと変貌してしまったらしい。


「(恐ろしい……。貴様の『洗いたい』という欲求は、岩をも断つのか)」


「いや、違うって! 俺はただ、シャンプーの泡切れを良くしたいだけで……!」


レンジは慌てて否定したが、事実は目の前にある。

真っ二つになった岩。

これはもはや、護身用どころではない。立派な必殺技だ。


「ま、まあ、結果オーライか?これなら遠くの敵も倒せるし」


「(……まあな。だがレンジよ、一つ忠告しておく)」


クオンは真剣な眼差しで言った。


「(絶対に、その魔法で我やルナたちを洗うなよ?死ぬぞ)」


「……気をつけます」


レンジは冷や汗をかいて頷いた。

こうして、レンジは初めての魔法『高圧洗浄ウォーター・カッター』を習得した。

トリミングに使うには危険すぎるが、街道にはびこる魔物や悪党を「掃除」するには、これ以上ない武器を手に入れたのだった。


「キュウ……(パパ、こわい……)」


エメが少しだけ引いているのを見て、レンジは「練習して弱めるから!」と必死に弁解する羽目になった。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ