表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/20

13. 強欲な商人と、裁きの鉄槌




「エメ、その串焼き美味しいか?」


「キュウ!(うまうま!)」


夜のとばりが下りた交易都市ベルグ。

レンジたちは市場での買い物を終え、宿泊場所である『銀の箱舟』へと戻る途中だった。

レンジの肩の上では、綺麗になったエメが、エメラルドを月明かりに輝かせながら、レンジから貰った小さな果物を齧っている。


「(……レンジ。つけられているぞ)」


足元を歩くクオンが、低い声で警告した。

レンジも気づいていた。

裏通りに入ったあたりから、複数の足音が背後からついてきている。


「ああ。……昼間の店主だろうな」


レンジはため息をついた。

あの店主は、レンジが去り際にちらりと見せたエメの「宝石」に気づいていたのだ。

ゴミだと思って捨てたものが、実は国宝級の宝石獣だったと知れば、強欲な商人がどう動くか想像に難くない。


「ここらでいいか」


レンジたちは人気のない路地裏で足を止めた。

すると、待っていたとばかりに、前後から粗暴な男たちが現れた。

総勢10名。手には剣や棍棒を持ち、目つきは明らかに堅気ではない。

そして、その奥から、昼間のスキンヘッドの店主がニタニタと笑いながら現れた。


「へへっ、待ち伏せとは余裕じゃねえか、兄ちゃん」


「何の用だ? もう取引は終わったはずだが」


「終わってねえよ!俺は騙されたんだ!そのカーバンクルは俺の商品だ、返してもらおうか!」


店主が叫ぶと、傭兵崩れの男たちが武器を構えてジリジリと距離を詰めてくる。


「(愚かな……。神獣である我と、災害級の猫がいるとも知らずに)」


クオンが呆れて爪を伸ばす。

ルナも影の中に沈み込み、戦闘態勢に入る。

だが、レンジは片手でそれを制した。


「手出し無用だ、クオン、ルナ。……これはエメの件だ。俺がケジメをつける」


レンジは静かに前に出た。

武器はない。手に持っているのは、先ほど手入れに使っていた『聖銀のハサミ』だけだ。


「はっ!ハサミ一つで何ができる!やっちまえ!」


店主の号令で、先頭の大男が鉄の剣を振りかざし、レンジに斬りかかった。


「死ねやぁッ!」


ドッ!!

重い剣がレンジの頭蓋を砕く――はずだった。


「……え?」


大男が間の抜けた声を上げた。

剣が止まっている。

レンジが掲げた左手――その指先でつまんだ「ハサミの刃」によって、剣が受け止められていたからだ。

レンジは戦闘職ではない。レベルも「Lv.1」のままだ。

だが、彼には「無尽蔵の魔力」と、ユニークスキル『神の手』がある。

レンジは無意識のうちに、自身の肉体に膨大な魔力を循環させ、『神の手』の応用で筋繊維と皮膚強度を極限まで「強化ブースト」していたのだ。

なまくらな鉄剣程度、止まって見えて当然だった。


「悪いが、俺は仕事道具を傷つけられるのが一番嫌いでね」


レンジは冷徹な目で呟くと、右手の指に魔力を込めた。

ハサミの刃が、剣身を挟み込む。

パキンッ!!

乾いた音が響き、鋼鉄の剣がまるでビスケットのように砕け散った。


「は、はぁぁッ!? 剣が!?」


「次は服だ」


レンジの姿がブレた。

魔力強化された脚力が、石畳を砕くほどの踏み込みを生む。

暴れる魔獣を制するために磨いた「保定技術」と「身のこなし」が、規格外の魔力で加速され、達人級の体術へと昇華されていた。

一瞬で男の懐に入り込むと、ハサミを閃かせた。


シュババババババッ!!


「うわああああっ!?」


男が悲鳴を上げて倒れ込む。

だが、血は出ていない。

代わりに、男の着ていた革鎧とズボンが、縫い目という縫い目を綺麗に切断され、バラバラになって弾け飛んだのだ。

路地裏に、パンツ一丁の男が転がる。


「な、なんだコイツ!?速すぎる!」


「囲め!一斉にやれ!」


残りの男たちが一斉に襲いかかる。

だが、レンジには止まって見えた。

暴れるグリフォンの背中に乗ることに比べれば、人間の動きなどスローモーションだ。


聖銀シルバー・カット』

銀色の閃光が路地裏を駆け巡る。

剣が折られ、槍が切断され、そして全員のベルトが切られてズボンがずり落ちる。


「ひぃッ! ば、化け物だ!」


「俺の自慢の剣が!」


数分もしないうちに、路地裏は「武器を失い、半裸で震える男たち」の山となった。

レンジはハサミをチャキッと鳴らし、真っ青になって震える店主の元へと歩み寄った。


「ひ、ひぃぃ……!く、来るな!金か!?金ならやるから!」


店主が腰を抜かして後ずさる。

レンジは店主の目の前で屈み込み、冷ややかな目で見下ろした。


「金はいらない。ただ、一つだけ覚えておけ」


レンジは店主の鼻先にハサミを突きつけた。


「動物は『モノ』じゃない。命だ。二度と、生き物を粗末に扱うな。……次にやったら、その自慢のヒゲどころか、身ぐるみ全部剥いでやるからな」


「は、はいぃぃぃッ!!」


店主は悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げ出した。

半裸の傭兵たちも、慌ててその後を追って逃げていく。


「(……ふん。甘いな、レンジ)」


クオンが退屈そうに欠伸をした。


「(我なら魂ごと燃やし尽くしていたぞ)」


「殺したら後味が悪いだろ。それに、十分懲りただろうしな」


レンジはハサミを魔法鞄にしまい、肩のエメを撫でた。


「怖かったか、エメ?」


「キュウ……(ううん、パパ強かった!)」


エメは尊敬の眼差しでレンジを見つめ、その額のエメラルドをキラリと輝かせた。

その光は、まるでレンジの勝利を祝福しているようだった。


「さて、帰るか。」


レンジはふと、自分の手を見つめた。

今回は相手が弱かったからハサミだけでなんとかなった。

だが、もし魔法を使う敵や、遠距離攻撃をしてくる魔物が相手だったら?

トリマーの道具だけでは、守りきれないかもしれない。


「クオン。俺さ『魔法』を覚えたい」


「(……ほう?)」


「自分を守るため、それとエメたちを守るために、攻撃手段が欲しいんだ」


「(よい心がけだ。お前ほどの魔力があれば、国の一つや二つ消し飛ぶ魔法が使えるだろうよ)」


「いや、国は消したくないけど……」


レンジは苦笑いしながら、夜空を見上げた。

明日は、魔法屋に行こう。

トリマー・レンジの「魔法使いへの道」が、唐突に始まろうとしていた。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ