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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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11. 空飛ぶ暴君と、空中ロデオ診療所




「快適すぎる……」


ルリデンを出発して三日目。

街道をひた走る魔導馬車の運転席で、レンジは感嘆の声を漏らしていた。

この魔導馬車――レンジが『銀の箱舟シルバー・アーク』号と名付けたこの車は、まさに「走る家」だった。

サスペンションは魔法で制御されており、石畳の凸凹や砂利道の振動を完全に吸収する。

御者台(運転席)はガラス張りのキャノピーで覆われており、雨風も入ってこない。


「(レンジ、腹が減った。昼餉ひるげにしよう)」


助手席のクオンが、ふぁあと欠伸をしながら言った。


「そうだな。ちょうど景色のいい場所だし、休憩にするか」


レンジは街道脇の草原に車を停めると、後部の居住スペースで手早くランチの準備を始めた。

昨日の残りのシチューと、焼きたてのパン。

旅先で、火起こしもせず、新鮮な食材で料理ができる。

これぞ、レンジが求めていた「優雅な旅」だ。


「(……ふむ。悪くない。人間の作る乗り物にしては上出来だ)」


クオンもご満悦でシチューを舐めている。

だが、その平和な時間は唐突に終わりを告げた。


「……ん?」


風に乗って、微かな「悲鳴」と「爆音」が届いたのだ。

クオンの耳がピクリと動き、ルナが警戒して唸り声を上げる。


「(……来たな。空からだ。血の匂いがするぞ)」


レンジは急いで食器を片付けると、再び運転席へと飛び乗った。


          ◇


現場までは車で数分だった。

街道の先で、数台の馬車が横転し、炎を上げていた。

商人の一行らしい人々が、荷台の影に隠れて震えている。

そして、その上空を旋回しているのは――。


「でっか……!」


レンジは思わず声を上げた。

鷲の上半身と、ライオンの下半身を持つ巨大な魔獣「グリフォン」

翼を広げれば5メートルはあるだろうか。空の生態系の上位に君臨する「空の暴君」だ。


「ギャオオォォッ!!」


グリフォンが急降下し、商人の護衛たちが放つ矢を風圧だけで弾き飛ばす。

その爪が馬車の一台を軽々とひっくり返し、中の荷物をぶちまけた。


「(……妙だな。グリフォンがあのように無差別に暴れるとは)」


クオンが不審がる中、レンジは『神の手』の解析眼で上空の魔獣を見据えた。


【解析結果】

対象: ワイルド・グリフォン(雄)

状態: 興奮、空腹、右翼の風切り羽の破損、翼下わきの寄生虫による激痛


「……わかった。あいつ、虫刺されでパニックになってるだけだ」


レンジはアクセルをベタ踏みした。

魔導馬車が唸りを上げ、戦場へと突っ込んでいく。


「おーい!そこのデカイ鳥猫とりねこーッ!」


レンジは馬車の屋根に飛び乗ると、グリフォンに向かって大きく手を広げた。


「ギャッ!?(邪魔だァァァッ!!)」


グリフォンがレンジを見つけ、弾丸のような急降下攻撃ダイブを仕掛けてくる。

時速200キロを超える死の突撃。

だが、レンジは逃げなかった。


「そこだッ!!」


すれ違いざま、レンジは驚異的な跳躍で空中に躍り出て、グリフォンの背中にしがみついたのだ。


「ギャァッ!?(なっ、背中に!?)」


グリフォンが驚愕し、激しく乱高下する。

ロデオのように暴れる背中の上で、レンジは必死にたてがみを掴み、叫んだ。


「暴れるな!お前、脇の下が痒いんだろ!?治してやるからじっとしてろ!!」


言葉は通じない。だが、レンジは強引に右翼の付け根へと移動し、愛用のコームを突き立てた。


「まずは虫を吸い出す!……変形フォージ、『吸引バキューム』モード!!」


キィィン!!

レンジの魔力に呼応し、聖銀のコームが「掃除機のノズル」のような形状へと変形する。

レンジはそれを、グリフォンの翼の下――化膿して赤く腫れ上がった患部に押し当てた。


シュォォォォォォォォォォッ!!!!

レンジの膨大な魔力を動力源にした、ダイソンも裸足で逃げ出す超強力な吸引。

翼の下に食い込んでいた無数の「吸血ダニ」たちが、抗う間もなく銀のノズルへと吸い込まれていく。


「ギャッ……!? (イタッ……いや、気持ちいい!?)」


暴れていたグリフォンの動きが止まった。

長年自分を苦しめていた激痛と痒みが、嘘のように引いていく。

代わりに訪れるのは、風が通るような爽快感。


「よし、虫は取れた。次は『洗浄ウォッシュ』と『治癒ヒール』だ!」


レンジは間髪入れずにコームを変形させ、温水シャワーで患部を洗い流し、魔力を込めた手で優しく撫でた。

『神の手』による治癒。

炎症は瞬時に引き、ボロボロだった羽の隙間が整えられていく。


「グルルルゥ……(そこ、そこだ人間……)」


数分後。

空の暴君は、完全に脱力して空中に浮かんでいた。

レンジのマッサージを受け、うっとりと目を細めている。


「よし、終わりだ。地上に降りるぞ」


レンジが首筋をポンと叩くと、グリフォンは素直に従い、ゆっくりと地上へ舞い降りた。

ズシン、と巨体が着地する。

商人たちは腰を抜かし、護衛の冒険者たちは剣を取り落とした。

目の前で、あの凶暴なグリフォンが、まるで飼い猫のように一人の男に撫でられているのだから。


「腹減ってたんだろ?ほら、食え」


レンジは魔法鞄から、旅の保存食である「干し肉の塊」を放り投げた。

グリフォンはそれを空中でパクっとキャッチし、美味しそうに丸呑みした。


「クエェッ!(美味い!お前、いい奴だな!)」


グリフォンはレンジに頭を擦り付け、感謝を示すように一枚の大きな羽根を差し出した。

そして、名残惜しそうに何度か振り返りながら、本来の住処である高山の方へと飛び去っていった。

その飛翔は、先程までのふらつきが嘘のように力強く、美しかった。


「……ふぅ。やれやれだ」


レンジは服についたグリフォンの毛を払い、馬車へと戻った。


「あ、あの……!」


商人代表らしき男が、震えながら声をかけてきた。


「貴方は一体……?グリフォンを手懐けるなんて、高名なビーストテイマー様ですか!?」


レンジは振り返り、爽やかに笑って名刺代わりの言葉を残した。


「いいえ。通りすがりのトリマーですよ」


そう言い残し、レンジは『銀の箱舟』を発進させた。

呆然とする商人たちを残し、魔導馬車は再び悠然と街道を走り去っていく。

車内で、クオンが呆れたように言った。


「(……またやったな。これでまた一つ、お前の変な噂が広まるぞ。『空飛ぶ魔獣使いのトリマー』とな)」


「人助け(魔獣助け)だからいいのさ。……それにしても」


レンジはグリフォンが置いていった「風切り羽」を手に取った。

虹色に輝くそれは、素材としても一級品だ。


「これ、いい記念品になったな。飾っておこう」


「ニャン!(キラキラ!それ欲しい!)」


ルナがじゃれついてくるのをかわしながら、レンジはハンドルを握り直した。

次の街、交易都市まではあと少しだ。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

良かったら書いていって下さい!

今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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