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「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣(もふもふ)と気ままな旅をする  作者: 藍城 優
第3章 店は持ちません、旅に出るんです

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10. 旅立ちの時と、お嬢様の贈り物




「レンジ様、本当に報酬は受け取られないのですか?」


領主館の応接室。

領主であるルリデン伯爵が、困惑した顔でレンジに尋ねた。

テーブルの上には、今回の依頼の正規報酬である金貨の袋が置かれているが、レンジはそれを丁寧に押し返していた。


「ええ。お金なら十分持っていますし、今回はギルドの昇格試験も兼ねていましたから。エリスお嬢様の笑顔が見られただけで十分ですよ」


レンジが爽やかに答えると、隣に座っていたエリスが顔を真っ赤にして俯いた。

実際、レンジの懐には**白金貨100枚(約100億円)**がある。これ以上現金を貰っても、重くなるだけなのだ。


「なんと無欲な……!これほどの腕を持ちながら、名誉も金も求めぬとは……まさに聖人君子!」


伯爵が勝手に感動して涙ぐんでいる。

足元ではクオンが「(単に金銭感覚が馬鹿になっているだけだがな)」と冷ややかな視線を送っているが、幸い誰にも聞こえていない。


「ですが、領主としての面目が立ちません。……そうですな。レンジ殿はこれから旅に出ると伺いましたが?」


「はい。世界中の魔獣を見て回りたくて」


「ならば、ぴったりのものがございます!……執事よ、あれを」


伯爵の合図で、執事が鍵束を持ってきた。

そして、伯爵は真剣な眼差しでレンジを見つめた。


「実は、レンジ殿の『魔力量』を見込んで、お譲りしたい物があるのです」


「俺の、魔力量?」


「はい。失礼ながら、先程の治療の際、控えていた宮廷魔術師たちが、貴殿の魔力測定を行っておりましてな」


執事が横から補足説明を入れた。


「驚きましたよ。あの銀の道具から温風を出す際、貴方は宮廷魔術師の百人分に相当する魔力を、息をするように消費し続けていたとか。普通の術者なら数秒で枯渇して倒れる量を、涼しい顔で使い続ける……まさに規格外です」


「あー……。まあ、便利なんでつい」


レンジは頭を掻いた。

どうやら『コームの変形・維持』は、レンジが思っている以上に燃費の悪い(高コストな)魔法だったらしい。


「その『無尽蔵の魔力』を持つ貴殿なら、あの『欠陥品』も使いこなせるかもしれません」


「欠陥品?」


「ええ。以前、ドワーフの天才技師に作らせた『魔導馬車』があるのですが……馬を必要とせず、魔力を動力にして走る夢の乗り物のはずでした。しかし、燃費が悪すぎましてな。優秀な魔術師ですら、わずか数分走らせただけで魔力切れで気絶してしまうのです。誰も動かせず、倉庫の肥やしになっていたのですが……」


「へぇ……魔力で走る車、ですか」


レンジは目を輝かせた。

要するに、「ガソリンをがぶ飲みするアメ車」ならぬ「魔力をがぶ飲みする魔導車」だ。

だが、魔力タンクが無限に近いレンジにとっては、最高の相棒になり得る。


「では有難く、そちらを頂きます!」



案内された倉庫には、ほろのついた四輪の馬車――いや、御者台にハンドルがついた、クラシックカーのような車両が眠っていた。

木目調のボディは優雅で、内装も貴族仕様の豪華さだ。


ルナが車内を覗き込み、目を輝かせて「ニャー!」と鳴いた。

車内は魔法で空間拡張されており、外見よりも遥かに広い。ベッド、ソファ、簡易キッチン、そして何より**「給湯機能付きのシャワールーム」**まで完備されていた。


「完璧だ……」


レンジは震える手で御者台に座り、魔力登録用の水晶に手を置いた。


「(……おいレンジ。本当に動くのか?)」


クオンが疑わしそうにボンネット(魔力炉がある場所)の上に乗る。


「やってみるさ。……起動イグニッション!」


レンジが魔力を流し込む。

並の魔術師なら即死するほどの魔力を送り込むと――。

ヒュォォォン……!

静かで力強い駆動音が響き、車体の魔導ランプが明るく点灯した。

車輪がわずかに浮き上がり、滑るように前進する。

欠陥品と呼ばれた理由は、単に「並外れた魔力タンク」を必要としていただけだったのだ。


「す、凄い……!本当に動いた……!」


伯爵とエリス、執事たちが拍手喝采を送る。


「レンジ様!これ、私からです!」


エリスが駆け寄り、レンジに一つの包みを渡した。


「これは?」


「特製のクッションと、毛布です。……ボル太を助けてくれたお礼です。旅先で、使ってください!」


「ありがとう、お嬢様。大切にするよ」


レンジが微笑むと、エリスは「絶対、また来てくださいね!」と大きく手を振った。


          ◇


その後、ギルドに報告に戻ったレンジは、約束通り**「Cランク」**への昇格を果たした。


「……本当にあのサンダー・レパードを手懐けてくるなんてね。しかも、領主様から魔導馬車までふんだくってくるなんて」


ギルドマスターのミリアは、呆れながらも新しいギルドカードを手渡した。


「これであなたは一人前の冒険者よ。どこの国へも自由に行けるわ」


「ありがとうございます、ミリアさん」


「フン。……礼を言うのはこっちよ。あの依頼、本当に困ってたんだから」


ミリアはぶっきらぼうに言いながらも、レンジの手を力強く握った。


「死なないでね。……また面白い話、期待してるわよ」


          ◇


そして、出発の時。

ルリデンの街の出口には、あの日の衛兵たちが立っていた。

レンジの魔導馬車が近づくと、彼らはビシッと直立不動で敬礼した。


「レンジ様!ご出発ですか!道中お気をつけて!」


「えぇ、ガレスさんによろしくお伝えください!」


レンジは御者台から手を振り返した。

最初は不審者扱いされ、次はガレスに助けられ、最後はVIP待遇での出立。

濃密な数日間だった。


「(さて、行くぞレンジ。次はどこへ向かう?)」


助手席……ではなく、御者台の隣の特等席で、クオンが風に金色の毛をなびかせながら問う。

後部座席では、ルナがエリスから貰ったクッションの上で気持ちよさそうに丸まっている。


「そうだな……。地図によると、東の街道を行けば『交易都市』があるらしい。そこなら、色んな国の珍しい魔獣が集まってるかもな」


「(交易都市か。……美味いものがあればよいが)」


「ルナは、魚がいっぱいあると嬉しいニャ」


「はいはい。お金は沢山あるんだ、美味いもの食い倒れツアーといこうぜ」


レンジはハンドルを握り、アクセル(魔力ペダル)を踏み込んだ。

魔導馬車は滑るように加速し、街道をひた走る。

目指すは東。

まだ見ぬ「毛玉」と「癒やし」を求めて。

元カリスマトリマー・レンジの、気ままで優雅な異世界トリミングの旅が、今ここから本当の意味で始まったのだった。

感想・質問・誤字脱字・雑談 等

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今後とも『「神の手」を持つトリマーは、伝説の魔獣もふもふと気ままな旅をする』を宜しくお願い致します!

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