蝦夷国：1930年代前半の概況（1930〜1935）
時代背景
世界恐慌（1929）の余波が北太平洋経済を直撃。
米国資本に依存していた蝦夷の輸出産業（木材・石炭・ニッケル・漁業）は壊滅的打撃を
受ける。
札幌や樺太の港湾都市では失業率20％を超え、社会不安が拡大。
一方で、英資本の流入と国家主導の産業再編政策が始まり、
この時期に“蝦夷近代国家”の枠組みが本格的に形成されていく。
政治：中央集権化と「北方経済国家」構想
● 王権と評議会の再編
1920年代に象徴化した「巫女王（義経女系血統）」は政治的中立を保ちつつも、
1931年の大樺太会議で王権の権威的役割が再強化される。
王室は宗教的権威と民族統合の象徴として再び注目され、
巫女王アマナ（架空名）は「北方の母」と呼ばれる存在に。
実務は「国政評議会（Council of Ezo）」が担当し、
和人官僚・アイヌ首長・産業代表が参加する三部構成制に移行。
● 政府改革
1932年：初代首相に志波義寛（札幌工業界出身）が就任。
彼は「経済こそ国家の防壁」を標榜し、国家経済計画を導入。
これにより、蝦夷は議会制君主制＋計画経済志向の“半民主的技術官僚国家”へと進化。
経済：恐慌克服と「北方経済圏」の形成
● 世界恐慌の影響
米国市場への依存が大きかった水産・林業・鉱業が壊滅。
特にニシン輸出の大暴落で、道北・千島の漁村が壊滅状態に。
政府は救済として「蝦夷産業復興庁」を設立（1931）。
公共事業（港湾・鉄道・発電）を大規模に実施。
● 英資本の再進出
米国が孤立主義化する中、ロンドン資本が札幌・函館・樺太の銀行を支配。
英国ロスチャイルド系・ロイド商会が出資した「北洋産業公社」が発足。
蝦夷製鋼・樺太油業・千島航運など、半国営企業が急成長。
● 経済構造の転換
第一次産業中心から、重化学・軍需産業へのシフトが始まる。
蝦夷製鋼（旭川）や苫小牧造船所が拡張。
石炭・水力・アルミを軸とした“北方工業三角地帯”が形成。
外交：英米との接近とソ連警戒
● 米国との関係
米資本撤退後も、蝦夷は米国市場を重視。
1930年の「北太平洋通商再協定」で米国との関税優遇を維持。
ただし政治的には距離を置き、英国との提携を優先する路線に転換。
● 英国との提携強化
英国は日本の不安定化を嫌い、蝦夷を「北太平洋の穏健勢力」として重視。
1933年、「日蝦英三国通商会議」開催。
結果、ロンドン商業会議所が蝦夷国の金融信用を正式承認。
→ 英国ポンド建てでの貿易決済が可能になり、蝦夷経済は安定。
● ソ連との緊張
1932年、アムール川流域で越境事件発生。
ソ連極東軍が国境沿いに鉄道と飛行場を建設。
蝦夷軍は北樺太・択捉に防衛線を構築し、緊張状態が継続。
同年、札幌で「北方防衛総司令部」設立。蝦夷海軍の再整備が始まる。
社会と文化：近代国家への自覚と「北方ロマン主義」
● 都市文化の発展
札幌は人口60万、函館・旭川・豊原（樺太）は30万超へ。
「北方の近代都市」として都市計画・電化・地下鉄整備が進む。
1933年、札幌大学設立（英米資本・アイヌ学派・民族学重視）。
● 民族政策
政府は「多民族調和政策」を掲げ、アイヌ語教育を一部復活。
王室儀礼にアイヌ神事を正式採用。
一方で中央政府の支配強化に反発する地方自治運動（宗谷・釧路など）も発生。
● 芸術・思想
経済苦境の中で「北方ロマン主義（Ezo Romanticism）」が興る。
→ アイヌ神話・雪・海・孤高をテーマにした文学・絵画運動。
文学者・高浜恒彦の詩集『雪の国の記録』（1934）は、
後世「蝦夷の民族精神を象徴した文学」と呼ばれる。
軍事・技術
1931年、蝦夷陸軍省が「極北防衛計画」を策定。
→ 北樺太・択捉・千島に飛行場・港湾・レーダー施設を建設。
英国の支援で新型駆逐艦・潜水艇を導入。
陸軍は山岳戦・寒冷地戦の専門化を進め、のちの対ソ戦で優位に立つ基礎を築く。
総括：1930年代前半の蝦夷国の性格
項目｜状況
国家体制｜王室＋評議会による二元体制。中央集権化と民主化の同時進行。
経済｜英資本導入による恐慌克服。重工業化・国家計画経済化。
外交｜英国傾斜、米国との経済関係維持、ソ連への防衛強化。
社会｜都市中産階級の成長と民族調和政策の拡大。
文化｜北方ロマン主義と多民族的国民意識の形成。
この時期を総じて言えば、
「蝦夷国は“氷の王国”から“北洋の産業国家”へと変貌した時代」
といえます。
内部では調和と緊張が共存し、外では英米・ソ連という二大勢力のはざまで独自の均衡
外交を模索していました。
