猫耳少女登場、長い一日でした。
漁師さんに売れる場所を教えていただきました。どうやら商業ギルドというところで売れるみたいです。ギルドって、色々種類がある組合みたいなものらしいです。冒険者ギルド、商業ギルド、魔法ギルド……でもこの村には商業ギルドと冒険者ギルドのみらしいです。要するにコンビニが一種類しかないってことですね。値段が釣り上げられそう……
と、異世界の経済事情について考えながら歩いていたら、青い石造りの立派な建物がありました。入口の看板には『商業ギルド スモビ支部』と書かれています。まさにコンビニっていう大きさです。
早速入ってみましょうか。ウイーン……さすがに自動ドアじゃありませんでした。普通の木の扉です。
中に入ると、木のカウンターが並び、帳簿を広げた人たちが行き交っています。他にも色んな商品が並んでいます。卵や牛乳もありました。お金を手に入れたらこれを買いに行きましょう。
えっと、どこに行けば良いのかな?
きょろきょろとあたりを見渡します。あ、受付がありました。
受付にいたのは、落ち着いた雰囲気のお姉さん。近寄って行って声を掛けました。
「あの、すみません」
カウンターが少し高いです。胸のあたりにくるくらいの高さです。
「こんにちは、何かご用件ですか?」
受付のお姉さんは、そんな小さい私にもしっかりした対応をしてくれます。まさに大人の仕事が出来る女性って感じです。
「あ、はい! ポーションを……売りたいです!」
でも、私がそう言ってポーチからペットボトルを取り出すと、目をぱちくりさせました。
「……それ、容器が……珍しいですね?」
「あっ、えっと……なんか最初からこれに入ってて……」
毎回この流れをするのでしょうか。瓶とかがあったらそっちに入れた方が説明が楽かなぁ。けど、ちゃんとキャップも閉まるし、密封性は抜群です!それにエコです!
「燃やせるし、土に帰るから安心してください……」
私はポーチの肩ひもを摘まみながらおどおどと言いました。
「そう、なのですか」
お姉さんはくるくるといろんな方向から見ています。うう……恥ずかしくなってきました。
それに……と、言いかけて黙りました。なんですか……気になるんですけど……
「とりあえず、内容の確認をさせていただきます」
お預けを食らいました。
専用の虫眼鏡でしょうか、そのような道具を使ってポーションをまた見ます。
「やっぱり……これ中級ポーションですね。しかも品質安定……。成分比率もきれいですし、保存状態も良好。これは……すごい。ご家族が作られたのですか?」
「えっ、えーっと……一応……私が……」
やっぱり凄いものだったらしいです。それだったらそうとわかるようにしておいてください。
「なるほど……この品質であれば買取額は800ルランほどになります……!」
「800ルラン?」
高いか安いかは分からないけど、多分けっこう高いはずです。だってお姉さんもちょっとびっくりしてる顔だもん。800円くらいって感覚で合ってるのかな?
「はい。それと当ギルドでは会員登録をおすすめしております」
「会員登録?」
受付のお姉さんはにこりと微笑んで説明してくれます。手元に説明の資料も用意してくれました。
「はい。登録料が200ルランかかりますが、会員様には買取価格を毎回5%上乗せしております。継続して納品される場合は、非常にお得かと思いますが……」
会員かぁ。つまり800ルランの5%だから……えーっと、40ルラン追加になるんだね。何度も売るなら確かにお得です。今のところこれしかお金が手に入るつては無いし……
「わかりました。入ります」
「かしこまりました。では、こちらの用紙をお書きください」
ペンと用紙が渡されます。また書いてある文字は日本語じゃないのに読めます。というか!この世界の文字も書けます!凄いです!
「はい、書けました」
「ありがとうございます……ミナモ様、ですね。なるほど、あちらの家にお住いの方なのですね」
「そうです」
やっぱりあそこに住んでいるって変わっているのかなぁ?
「こちらが会員規約となります」
お姉さんが会員規約(と読める文字)が書かれた用紙を手渡してくれます。さっと目を通しましたけど、特に怪しいところは無いはずです。まあ、公的なところ?なので怪しいところがあるはずが無いのですが。
唯一気になるところと言えば、会員の情報は本部で取りまとめますっていうところくらいですが……うーん、さすがに何も困ることは無いでしょう。
「そうしましたら、こちらが会員証となっております。こちらに血を一滴垂らしていただきたいのですが……」
針を手渡してくるお姉さん。血、血かぁ……採血って何回もやったけど、全然慣れなかったな。
ま、こんな子供に頼むっていう事だし、お姉さんもちょっと大丈夫かなこの子って感じで渡してきてたけど、注射には慣れています。大丈夫です。甘く見ないでください。
針を受け取って、自分の指に向けます……。行きますよ……えいっ……いやいや、今のなし! 今のは予行演習です。次こそ……ハァハァ……えいっ!……う~自分で刺すってめちゃくちゃ怖いです!!!!
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫です!!!!」
心配されてしまいました。覚悟を決めます。
「……痛っ!」
痛いです。けど先っぽだけだからまだマシです。私は会員証に血を垂らした後指を口に咥えました。
お姉さんはその会員証に何か詠唱を唱えます。いかにも異世界って感じです。私のレンキーンとは全然違います。会員証が浮き上がって、周りに魔法陣が浮かび上がります。じわじわと四角の中に私の顔が浮かび上がっていって私専用の会員証が出来ました。
「はい、お疲れさまでした。これでミナモ様専用の会員証となりました。契約魔法をかけているので、他の方には使えませんよ」
にっこりと渡してくれます。わ、凄い、顔写真みたいな感じになってる。それに血で出来た魔法陣みたいな刻印もある。カッコいいな。
「それで、こちらが買取800ルラン+会員5%上乗せ40ルラン-会員登録料200ルラン=640ルランになります」
私の目の前のトレーに硬貨が置かれます。内訳も日本円と一緒かな?天使さんわかりやすい世界を探してくれたんですね。
あ、そういえばお財布が無いや……
「あの、お財布とかありますか?」
「はい、100ルランとなります」
—―
シンプルな布袋のお財布を買いました。差し引き540ルランかー。お金が無いのは変わらないな。いつになったらお店を開けるんですかね。というか、勝手にお店とか開いてよいのでしょうか……?また誰かに聞かないとわかりませんね。漁師さん以外にも聞かないとだめかもしれません。
わかることとわからないことがあるっていうのは少し不便ですね。全てわかるようにしてくれていたら良かったのに……
私はそんなことを考えながら歩いていました。魚を焼いている屋台が見えます。うーん、香ばしい良い香りです。
全財産が240ルランになりました。またポーションを持っていかないといけません。でも中級ポーションをまた持って行ってもまためんどくさいことになりますし、どうしたら良いでしょう……それにしてもあのお魚は美味しかったな……
毎回あんなに注目されるのはちょっと面倒そうです。あまり目立ちたくありません。穏やかで、のんびりした生活を送りたいのに、変に注目されてしまったら計画が狂ってしまいます。
そういえば、この世界に来てからずっと誰かに頼ってばかりですね。漁師さんにも親切にしていただいたし、受付のお姉さんにも丁寧に対応してもらえました。こういう小さな村だからでしょうか。皆さん親切でありがたいですが、これ以上迷惑をかけないように自立しなければいけません。
「良い天気だなぁ……」
村の雰囲気は穏やかで、私の世界に比べるとのんびりとしています。ここなら、小さなお店を開くのにもぴったりかもしれません。丘の上のお菓子屋さん、うん、とても絵になるじゃないですか。SNS映えです……あ、この世界にSNSなんてないですよね。多分ですが。
歩きながら少しずつ考えがまとまってきました。中級ポーションは偶然うまく作れただけで、次は初級ポーションを作って納品してみるのがいいかもしれません。変に疑われることもなく、安定して収入が得られるでしょう。初級品でも継続して作れば、いつかはお菓子屋さんを開くための資金になります。うん、その方が良さそうです。人をだますのは気が引けますが、自分のためですもんね。
そうなると次に考えるべきは、お菓子の材料です。粉類はどうにかなるとしても、砂糖はどうするのでしょう。昔の世界では砂糖は高級品だったと聞いています。高いものです。
でもたしか、庭の薬草を使って中級ポーションを作ったとき、甘い香りがしていました。あれを再度錬金したらうまいこといきそうです。うんうんと私は腕を組んで頷きました。
そうしているうちに、自分の家が見えてきました。登って行かないといけないのがちょっと不便ですね。それに……帰っても一人です。それはしょうがないのですが……あれ?
「えっ、だっ、大丈夫!?」
家の前に銀色の髪の女の子が倒れていました。しかも……猫耳の。
「だ、大丈夫ですかー……?」
私はおそるおそる声をかけました。けれど、返事はありません。ぴくりとも動かない銀髪の少女。
ただの屍のようだ……いえいえ、ちゃんと息はありました。ただの屍ではありませんでした。よかった……。
少女はうつ伏せのまま倒れていて、大きなリュックを背負ったままです。どうしてこんなところに?
詳しいことはわかりませんが、とにかくこのままではいけません。
「と、とりあえず家の中に……」
私は腰を落として、そっと少女の背中に手を回します。リュックのせいで安定しませんが、なんとか背負って立ち上がりました。
お、重い……というか、私の筋力が足りなすぎるのでは? 天使さん、転生特典でそこも強化してくれてたら良かったのに……!
ふらつきながらも、途中で何度かよろめきつつ、なんとか広間まで運び終えました。
ふぅ……一仕事です。
「どうしよう……救急車もタクシーも無いし……」
そんな現代的な手段がないこの世界では、自力でなんとかするしかありません。
そうだ、ポーションがあったはずです。しかも、性能が良いって言われた中級ポーション。
私は貯蔵庫に駆け込み、一本のペットボトルを手に取りました。蓋を開けて、少女の唇にそっと注ぎます。
「飲めますかー……?」
意識がないと無理かなと思いましたが……飲んでる! ごくごくと、すごい勢いで飲み干していきます。まるで水のように。
「ぷはっ……あれ?ここは?」
目を覚ましました。ポーション、すごい。
「大丈夫?ここはスモビ村の、えーっと……丘の上だよ」
説明がざっくりすぎますが、それが今の私の限界でした。
「君が助けてくれたの?ありがとう~!」
彼女はぱっと立ち上がり、私の手をぎゅっと握ってきます。近くで見ると、やっぱり可愛らしい顔立ちをしています。
銀色のショートヘアに猫耳。腰にはふわふわした尻尾。明らかに人間ではありません。
「ボクの名前はアメイン。ケットシー種族の13歳!」
同い年でした。予想通りです。それにしてもケットシーですか。確か猫の妖精でしたっけ?
「私はミナモだよ。13歳で、一応、錬金術師なの」
一応、って言わないとまだなんか気が済みません。転生したばかりですし……っていうか私まだここに来てから一日目なんですね。濃すぎませんか?
「錬金術師!?」
アメインの目がまんまるになります。まるでおもちゃを見つけた猫のようです。
「じゃあさっきのポーションってミナモが作ったの!?すごいっ!」
手をぶんぶんと振られます。なんだか照れくさい……。
「う、うん。そうだよ……」
「すごいね!ボクと同い年なのにそんなことできるなんて!」
わー……プレッシャー。私はレシピ通りに作っただけなんですが……。
「ありがと。そ、それよりさ。なんで私の家の前に倒れてたの?」
話題を変えるように促して、私は椅子を勧めます。アメインも素直に座り、私も向かい側に腰を下ろしました。
「ボクは故郷からずっと旅してるんだけど、丘の上に行こうと思ったら天気も良くて、つい寝ちゃったんだ~」
頭に手を当てて、照れくさそうに笑います。なるほど、それでか……。
体調不良じゃなかったのは良かったけど、ポーション、ちょっともったいなかったかもしれません。
それにしても旅ですか。私なんかよりよっぽどすごい気がします。
「ねね!ミナモ!なにか錬金術見せてよ!」
「え、えー……っと、そうだな……」
急に言われて困ります。えっと、えっと……あ、そうだ。
「砂糖を作ろうと思ってたの。上手くできるかわからないけど、見てみる?」
「見る見るっ!」
アメインはぱたぱたと後ろをついてきます。その様子はまるで、じゃれつく猫のようで、どこか懐かしさすら感じました。
ふふ、妹ができたみたい。今は同い年だけど。
私は地下の貯蔵庫に向かい、残っていた中級ポーションのペットボトルを手に取りました。
「なにそのキラキラした容器!」
「えっとこれは……私専用のなの!」
もう説明がめんどくさいです。それにしても猫はペットボトルの水が苦手と聞きましたが……まあ猫じゃないですもんね。
ボトルの中を見ると、透明な液体の中にほんのりピンクの光がゆらめいていて、確かにあの薬草由来の甘い香りも残っています。
「これを使って、砂糖を作ってみるね」
アメインが私の隣で目を輝かせて頷きました。
私も少し深呼吸をして、ポーションを机の上に置き、両手をかざします。
「えーっと、成分を分離して、糖分を抽出して……できるかな……」
錬金術を使うときは、詠唱が必要です。覚えました。あと多分完成したところのイメージも重要です。
「レンキーン……!」
魔法陣が淡く浮かび上がり、ポーションの瓶がふわっと宙に浮きます。
中の液体がきらめき始めて、まるで光の粒がきらっと跳ねるみたいに揺れました。
「……サトー!」
ひときわ強く光が放たれて、ポーションの液体が分離します。ピンク色の輝きだけが残り、それが空中で小さく凝縮されて……
ぽとっ、と机の上に落ちたのは、透明感のある淡いピンク色の結晶でした。
「……できた、かも」
そっとスプーンですくい上げると、砂糖のようにさらさらとした手触り。香りはやっぱりほんのり甘く、どこか懐かしい気持ちになる匂い。
私は指先で少しつまんで、ぺろっと舐めてみました。
「……うん、ちゃんと甘い。これは……砂糖、だよ」
やった!私は心の中で飛び跳ねて喜びました。おねーさんなので。
「わぁーっ!すごいっ!!」
アメインがくるくるっとその場で回りながら大はしゃぎします。
その様子が嬉しくて、私もつい口元がゆるみました。
これで砂糖は材料確保、かな?それに、ピンク色で可愛い。ふふ、魔法の砂糖です。
「ボクも食べて良い!?」
「良いよ」
わーいと凄い勢いで食べます。
「甘い!こんなに甘くておいしいの初めて食べたよ!」
「この世界って砂糖無いの?」
「あるけど、ここまで……えーっと、上質?高級?な美味しさじゃないかな」
アメインは指先についたピンクの砂糖をもう一度ちょんと舐めながら、目をまるくして言います。品質が悪いのでしょうか。確かに時代によってはそのようなこともあるかもしれません。
二人で話していると、玄関の方から「トントン」と音がしました。漁師さんかな?
「はーい」
扉を開けると、箱を抱えた漁師さんが立っていました。
「引っ越し祝い、さっきのカララウオだよ。裁いておいたから食べてくれ!」
「ありがとうございます!……え、えーっと、これって……」
箱の中をのぞき込んだ私は、魔石がきらりと光っているのを見つけて、一歩引いてしまいました。
箱を見て少し疑問に思います。なんでしょうかこれ?
「ああ、これか?中に氷結魔法の魔石が入ってて、魚が傷まないようになってんだ。それごとあげるから安心しな」
へー、クーラーボックスみたいなものなのかな……って。
「あああああの、ここここれもお高いのではないのですか……?」
私はお魚とクーラーボックスと、どれだけお世話になればいいのでしょうか……
「こ、こんなものまでいただいちゃって……ほんとに良いんですか……?」
「ははは!気にするな!!またポーション作ってくれればいいさ!金は払うからよ!」
それって結局私ばかり得してませんか……?海の男は豪快と聞きましたがここまでですか……
私は両手で魚を受け取り、お礼を言って扉を閉めます。
すると、後ろから元気な声が響きます。
「どうしたのっ?……わあ!魚だ!おいしそ~!」
尻尾をぴょこぴょこ揺らして、ぐるぐると私の周りを回ります。
なんだろう、動きがいちいちかわいい……。
「ミナモ、これ食べるの!?ねぇねぇ食べるの!?」
「た、食べようか……!」
アメインが私の袖をきゅっと掴んで、じーっと魚を見つめています。
うぅ、そんな目で見つめられたら断れないじゃないですか……。少し押され気味ですが、私も楽しくなってきます。
もう外はすっかり暗くなっていました。せっかくなら、さっき作った砂糖を使って――。
「じゃあ今日は、これで作ろっか」
「わーいっ!楽しみ~!」
アメインが嬉しそうに飛び跳ねて、私は小さく笑いました。
まさかこんなふうに誰かとごはんを作るなんて……ここに来る前には、想像もしていなかったな。
――
ご飯を食べ終えて後片付けを済ませ、寝る準備を整える頃にはすっかり夜も更けていました。アメインに聞くこの世界の事はとても楽しく、まるで入院中に読んでいた本のよう、でも全て現実の事。信じられない気持ちです。
私はベッドの端にちょこんと腰掛けて、大きな窓から夜空を見上げました。満天の星と、月明かりが村を静かに照らしています。
ふと横を見ると、ベッドの上にはすやすやと寝息を立てるアメインがいました。
「……どうしてこうなったんだっけ」
私は小声でつぶやきます。回想するように、数時間前の出来事を思い出しました。
あ、また場面転換です。
—
「うわぁぁぁ~おいしー!!」
魚の煮つけを口いっぱいに頬張り、尻尾をふりふりさせるアメイン。その笑顔を見ているだけで、私まで満たされる気がしました。
「ふふ、良かった」
「うん!ミナモの料理最高だよっ!」
「そ、そうかな……ありがとう」
嬉しいけど少し照れくさいです。
……実は頭の中に料理のレシピも入っていたのですが、これはどのスキルの効果なのですかね。
食事を終え、アメインと二人で後片付けをしていると、ふと疑問が浮かびました。
「アメインは、この後どうするの?」
「ん~?それがね、特に決まってないんだよね~」
アメインは手に持ったお皿を拭きながら、困ったように眉をひそめました。
「決まってない?」
「うん、いつもは宿屋か野宿なんだけど、もうこんな時間だしね」
「えっ……それって、泊まるところ無いってこと?」
なんだか放っておけない気持ちになります。こんな夜更けに、こんな小さな子を外に出すのは絶対良くないです。私も同い年だけど、前世は年上でしたしなんだか妹みたいで放っておけないです……!
「あのさ……良かったら、今日はうちに泊まっていく?ベッドも部屋もいっぱいあるし」
「えっ!?ほんとにいいの!?」
「もちろん」
アメインの目がぱあっと輝きます。まるで子猫のように嬉しそうなその姿に、私は自然と笑顔になりました。
—―
……確かに私は『ベッドも部屋もいっぱいある』と言いましたけど、いっぱいあるってことを言っただけじゃないです。
なのにアメインは「一緒に寝ようよ~!」と強引にくっついてきて、そのままベッドに潜り込んできたのです。
「むにゃむにゃ……ミナモちゃん、あったかい~……」
寝言を言いながらアメインが私の腕にぎゅっとしがみついてきました。小さくて、ふわふわしていて、やっぱり猫みたいです。
「まぁ、可愛いから……いいですけど」
私は小さくため息をつきながら、アメインの頭をそっと撫でました。
寝ているアメインの耳がぴくぴくと動きます。可愛い……。
まさか転生した一日目から、誰かと一緒に寝ることになるなんて夢にも思いませんでした。
明日はどうしましょう。とりあえずまたポーションを売りに行くのが良さそうですね。
お菓子屋さんになるまでの道のりは、まだまだ遠いですが、こういう日々も悪くないです。
「おやすみ、アメイン」
小さく呟き、私はそっと目を閉じました。
こうして私の一日目は、やっと幕を閉じたのでした。
※ミナモのイメージ図です。