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7 慌ただしい茶会

「リリアーナ・クラリス公爵令嬢にお目通り願えますか?」


 ある日、王家が開いた茶会で、突然そう申し出た男がいた。


 金髪に鋭い碧眼、彫刻のように整った顔立ちをした、どこか異国風の雰囲気をまとった青年。彼は堂々と私の前に立ち、微笑んだ。


「私にお見合いは必要ない。貴女に、一目惚れしました」


 その場にいた全員が2人に注目する。


「一目惚れ……ですか?」


 私は思わず聞き返した。


「私はルーベルト・セイロン。隣国ヴェスタリアの公爵家の次男だ」


 ヴェスタリアは、隣国の中でも武勇の国として知られる国だ。中でもセイロン公爵家は王家に次ぐ名門で軍事の要を担っていて、長男は政略に、次男は軍略に長けていると噂に聞いたことがある。


 そんな有名人が「一目惚れした」と堂々と宣言したものだから、貴族たちがざわつくのも当然だった。


 ルーベルトの目は本気だった。


「俺は戦場で冷淡に生きてきた。だが、あなたを見た瞬間、人生で初めて『この人を守りたい』と思った。俺の妻になってくれれば、この先どんな困難からも守ると約束する」


 守りたい、か……

 ここまで駆け引きのない真っ直ぐな求愛を受けるのは初めてで、なんだかもどかしい気持ちになった。


「まずは、日をあらためてゆっくり話をしましょうか」


 その返答に、ルーベルトは満足げに頷いた。


***


 会場の注目を浴びるのに疲れ、1人で庭の隅をウロウロしていると、嫌な響きを持つ声がした。


「随分と楽しそうですこと」


 振り向くと、アルベルトが選んだ「本当の愛」であるアリシアが意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。


「ええ、おかげさまで」


 淡々と答えてその場を去ろうとするリリアーナに、アリシアの顔が歪む。


「あなたが私とアルベルト様を引き離そうと、侍従に何か吹き込んだんでしょう!? 妃教育だとか言って一日中拘束して、私とアルベルト様が会えないように……!」


 妃教育に耐えられなくて、私のせいだと思い込んでいるのね。まだたった数ヶ月しか経っていないのに。


「あなたのせいで、あなたのせいで――」


 アリシアがティーカップを振りかぶったその時。


「アリシア!!」


 怒声に、アリシアの動きが止まる。

 そこにいたのは、 アルベルトだった。


「何を、しているんだ?」


「ア、アルベルト様、私は――」


「私の婚約者としての品位を保てないのなら、王城を出て行け。……リリアーナ、すまなかった」


 アリシアの顔が青ざめる。アルベルトは神妙な面持ちで、アリシアを連れてその場を離れたのだった。

 

 ***


 リリアーナが控え室で休んでいると。


「まったく、厄介な女よね」


 呆れたように声をかけてきたのは、あの舞踏会でリリアーナを面白がっていたサンドラだった。


「サンドラ!」


「舞踏会ぶりね! あなたが婚活指南で社交界を騒がせてるって聞いたわ。また面白いことをするなぁと思ってね」


 サンドラはいたずらっぽく笑った。


「今日は元気そうなあなたの顔を見れてよかった。また近々会いましょう」


 サンドラと入れ違いで、今度はセシルが慌ただしくやってきた。


「紅茶ぶっかけられたんだって!?」

「かけられる前にアルベルト殿下が止めてくださったから大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

「……兄さんが?」


 セシルは一瞬考え込むような様子を見せた。

 たまたま2人きりになったので、前から少し気になっていたことを聞いてみる。


「どうしてセシルは、私のことをそこまで気にかけてくれるの?」


 何気ない私の問いかけに、セシルは少し驚いたように目を瞬かせた。


「俺が?」

「ええ。自意識過剰だったら恥ずかしいんだけど、婚活を始めてから、やけに気にしてくれているように感じて」


 セシルは苦笑いを浮かべ、ソファに腰を下ろした。


「うーん」


 少し考えたあと、リリアーナの目を見て静かに話し始めた。


「ルーベルトも他の見合い相手も、君を庇護下におこうとするだろう? でも、君って本当はそういうのを望んでないよね」


 ……図星だった。


「君は、自分の力で道を切り開いていく人間だ。だから僕は……」


 セシルが何か言いかけて、一瞬言葉に詰まる。


「だから僕は、君がどんな道を選ぶのか、見てみたいと思ったんだ」


 今、何を言おうとしたんだろう。最後の言葉だけは、本心ではないような気がした。

 だけど、きっと悪い嘘じゃない。「自分で道を切り開く人間だ」というセシルの言葉に、少しだけ胸がはずんだ。

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