6 婚活ギルド開業
「リリアーナ様、また結婚相談の申し込みです」
そう言って、侍女の1人が分厚い封筒を届けにきた。彼女はすっかり婚活指南役としての私に慣れた様子で、最近はほぼ日課のように婚活相談を届けてくる。
私はため息をつきながら封を開いていく。
それにしても多い。隣国からも来ている。今日だけで10通を超え、これはもう個人で解決できる量じゃない。
というか、こんなに需要があるなら……
「……そうだわ、婚活ギルドを作ればいいのよ!」
***
「まさか本当にやるの!?」
王宮の中庭で、セシルが半ば呆れたように尋ねた。王城での一件以来、セシルとは気をつかわずになんでも話せる気楽な仲になった。
「ええ、本気よ。むしろ、どうして今までなかったのかしら?」
私はきっぱりと頷く。
「政略結婚ばかりじゃなくて、きちんと相性を見極められる場が必要なのよ。貴族社会の仕組みを少しずつ変えていけば、もっと幸せな結婚が増えるはず!」
「まぁ、それは理想論としては悪くないが……」
セシルが腕を組みながら「断れない性格も程々にしなよ」とでも言いたげな顔をしていたが、素知らぬふりで説明を続ける。
「こんな感じで考えているのだけど、どう思う?」
私はプレゼン資料をセシルに手渡した。
①登録制の婚活専用ギルド
②相手の条件を聞いてマッチングをする
③お見合いパーティーや交流イベントを定期的に開催!
「用意のいいことで……」
セシルも苦笑いだ。
「最初は貴族だけで始めるつもりだけど、庶民も登録できるようにするのが理想ね」
こうして「婚活ギルド計画」が正式に動き始めた。
***
婚活ギルドの計画は、想像以上に順調に進んだ。これまで私が恋愛相談に乗り、見事実を結んだ王宮の女性たちや貴族らが出資したのだ。
そして、あっという間にオープン当日。貴族たちの反応は想像以上だった。
「政略結婚しか選択肢がないと思っていたのに、こんな方法があるなんて!」
貴族令嬢たちは目を輝かせ、若き貴族男性たちも興味津々だ。
オープニングイベントを兼ねた最初の婚活イベントも大盛況!
オープン初日で面白半分で訪れる貴族も多かったので、婚活に焦っているというイメージがつかずに参加できたのも良かったようだ。
「自己紹介カード」を作って、相手の性格や趣味が事前にわかるようにし、会話のテーマはくじ引きで決める。まずは男女問わずランダムにマッチングするようにした。10回ほどのマッチングを繰り返したあと、
1番良かった人を選ぶシステムだ。
舞踏会よりももっとフランクに会話ができる場として、婚活目的だけでなく、話してみたかった貴族令嬢とマッチングして喜ぶ令嬢の姿もあった。
これは更なる事業展開ができそうだとつい黒い笑みが溢れ、セシルに指摘される。
そして、イベントの結果、意外な組み合わせが次々に誕生した。
「あのお転婆な公爵令嬢と騎士団の彼が!?」
「男爵家の頼りない跡取りが、商家の娘と……!」
誕生したカップルは計9組。
もちろん実際に付き合うかどうかなどは、当人たち次第だ。
これは予想以上ね……!
目を輝かせる私を見て、セシルが呆れる。
「他人の婚活を世話するのはいいけど、自分の婚活はどうするつもり?」
「……せっかく良いシステムができたんだし、私も登録してみようかしら」
リリアーナが本気で登録しようとするので、セシルは慌ててやめさせたのだった。