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4 婚活スタート!

 リリアーナは応接間の椅子に優雅に腰掛け、目の前の貴族令息を静かに見つめていた。


「リリアーナ様、貴女の美しさに惹かれました。ぜひ、一度私と結婚を前提にお付き合いをしませんか」


 彼の言葉を聞きながら、冷静に分析を始める。

 

 彼は最近力をつけてきている男爵家の長男で、家柄は申し分ない。年齢は20代前半、見た目も悪くはないが……


「まずお伺いしたいのですが、家庭内の役割についてはどうお考えですか?」


「もちろん、妻となる方には私を支えていただきたいですね。あなたであれば、家事や礼儀作法はしっかり身につけておられるでしょうし社交の場に連れて行っても恥ずかしくない」


 はい、アウト。


 「私を支えてもらいたい」発言は、結婚後に妻を都合よく扱おうとするタイプの典型。妻の役割を「家事や礼儀作法」と限定しているあたりも、結婚後に「君は家庭に専念しろ」と言い出す可能性大ね。

 おまけにこのタイプは、義母との関係性もややこしくなりがちというデータがある。


 次行こう。


 ***


 今度は、辺境伯家の次男。


「いや、実のところ、私に相応しい女性はなかなかいないと思っていたのですが、ようやく理想的なお相手に巡り会えたようです」


 私が口を開くよりも先に、彼は自信満々に続けた。


「私は剣術にも優れ、王都の武術大会で2度の準優勝経験があります。学問の成績も常に上位、家柄も申し分ない。加えて、私の父は社交界でも影響力のある人物でしてね――」


 自分の価値を売り込むことに必死ね。


 紅茶を飲みながら、静かに彼の言葉を聞き流す。


 現世の婚活市場にも、こういうタイプは大勢いた。とにかく「自分がどれだけ優秀であるか」「どれほど価値のある人間か」を、初対面から延々と語る男。こういう人ほど、実際に結婚すると「自分の意見が絶対」と信じて疑わないモラハラ気質が強く出る傾向がある。


 次。


 ***


「本日はありがとうございました」


 完璧な笑顔を浮かべ、この日最後のお見合い相手を見送った。


 疲れた……


 現世では相談所だとかマッチングアプリに、事前にある程度の個人情報を登録してある。明らかに趣味や性格、育ってきた環境が合わない相手は、そのプロフィールを見て会う前に排除できるのだ。


 だが、この世界ではそんなものは無い。手紙で簡単な申し込みを受け、会ってみて会話の中で探るしかない。互いに確認しないといけない項目が多すぎる。


 気分転換に散歩にでも行こうと屋敷の外に出ると、セシルが面白そうにこちらを眺めていた。


「どうだった?」

「散々よ」


 軽くため息をついて答えた。セシルの軽い口調につられて、ついくだけた口調で話してしまう。


「同い年だし、敬語を使われるのもなんだか変な感じがするからタメ口でいいよ。呼び方もセシルでいい」


「……いつもこうして女性との距離を詰めているのですか?」


 怪訝な顔をする私に、セシルは苦笑いする。


「タメ口を許したのは君だけだよ。まぁ兄上と結婚していたら俺の姉になる予定だったわけだしね」


「……なるほど。ではお言葉に甘えて、敬語は辞めにしますわね。それで、どうしてここに?」


「この近くで用事があって、帰りに歩いていたら偶然君の屋敷から若い男が出てきたからね。どんな様子か見に来てみたんだ」


 セシルは悪戯っぽく笑いながら、リリアーナの横に並ぶように歩き出した。


「まぁ君のことを本気にできる男なんて、そう簡単に見つかるわけないさ。だって、君は普通の令嬢とは違うからね」

「貶しているのかしら?」

「褒めてるんだけど?」


 セシルはなぜ、私の婚活を気にかけてくるのだろう。だが、その疑問に答えが出る前に、予想外の知らせが舞い込んできたのだった。


 ***


 婚約破棄から1ヶ月が経った頃、リリアーナは父とともに宮廷に呼ばれた。そこには国王と王妃とセシル、そしてアルベルトの姿があった。


「リリアーナ、落ち着いて聞いてほしい」


 国王は静かに語り始める。


「アリシア嬢が妃教育についていけず、体調を崩してしまった。王妃としての資質を磨くには難しいと判断した」


 国王は続ける。


「婚約破棄はアルベルトが独断で決めたこと。私たちは当初から、君にアルベルトと結婚し、この国を守ってほしいと思っていた。やはり長年妃教育を受けてきたリリアーナ、君しかいない」


 アルベルトは黙ったままだった。


「ですので、アルベルトとの婚約を再び結んでもらえませんか?」


 王妃がリリアーナの気分を害さないよう、丁重に問いかけた。


 だが――


「お断りします」


 父のクラリス公爵が、即座に切り捨てた。


「……何?」


 国王夫妻は断られるとは想像もしていなかったらしい。父は静かに続ける。


「リリアーナしかいないと思っていたのであれば、舞踏会の場ですぐに撤回させるべきだった。それを放置し、こんなことを言い出すとは。親子そろって非常識にも程がある。お前とは昔からの付き合いだが、考えを改めないのであれば絶縁だ」


 クラリス公爵家は、この国唯一の海に面する土地を治めている。そして国の税収の4分の1を納めており、領民からの信頼も厚い。

 「絶縁」という父の言葉に、国王もうろたえる。


「それに、普通は謝罪が先だよね。もちろんどれほど謝っても許されることではないけどさ。兄さん、一言でもリリアーナに謝った?」


 普段は口を挟んで来ない弟の急な応戦に驚いたのか、アルベルトがようやく反応し顔を上げた。


「お、お前には関係ないだろ!」


 アルベルトの言葉を聞き流し、父が言葉を継ぐ。


「まともなのは第二王子だけみたいだな。リリアーナ、お前はどうしたい?」


「もちろん、お断りしますわ」


 毅然としたリリアーナの声が響く。

 こうして、アルベルトとの婚約復活の話は、セシルと父の一喝によってあっさりと潰れたのだった。

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