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15 新たな未来へ

 王宮のバルコニーから見下ろす庭園は、春の花々が咲き誇り、美しく輝いていた。


 リリアーナ・クラリス公爵令嬢、そして、第二王子セシルの婚約は正式に発表され、王宮でも貴族社会でも大きな話題となっていた。


 セシルの話を聞かず想い人がリリアーナだと知らなかった国王夫妻は、相手がリリアーナと知って両手をあげて歓迎した。

 父と母も、セシルであればと了承したのだった。


 そして、アルベルトが正式に皇太子の座を降り、セシルが国王の跡を継ぐことになった。


 本当に、これでよかったのかしら。私はバルコニーの欄干に手を置き、そっと息を吐いた。


「兄の長年の婚約者が、弟に乗り換えた」

「婚約指南をしていたのだから、何かしらのテクニックで弟を落としたのではないか」


 大半は歓迎してくれているものの、こうした声も社交界からは一部聞こえてくる。セシルにとってよかったと言えるのだろうか。


「なーに、一人で考え込んでるんだ?」


「……セシル」


 不安な表情をしていた私の横に、セシルが柔らかい笑みを浮かべて並び立つ。


「言ってなかったんだけどさ、俺、リリアーナとしか結婚するつもりはなかったんだ。リリアーナが兄さんの婚約者になった時、今世での結婚は諦めていた」


「え?」


「4歳の時のこと、覚えてないだろ?」


 4歳の時。セシルが子どもたちが幸せに過ごせる国にしたいと誓った時だ。

 そのきっかけが、もしかして私?


「俺、ずっと王城で過ごしていてさ。孤児院の存在すら知らなかったんだ」


 セシルは当時のことを語り始めた。


 ***


 セシルは、第一王子である兄・アルベルトとともに、ある貴族の邸宅で開かれた貴族の子どもたちを集めた茶会に参加していた。


 当時のセシルは、「次期国王」と期待されるアルベルトと比べられ、周囲の大人から無意識に冷たく扱われていた。比べられることに疲れ、セシルはあまり外に出なくなった。


「アルベルト様は本当に聡明で立派な方です!」

「第二王子はあまり顔を出さないし……」


 子どもたちの間でも「王位継承権第一位のアルベルト」と「陰気な第二王子のセシル」という扱いの差は大きかった。


 茶会でも、ある年上の貴族の子どもたちにからかわれ、庭の片隅で膝を抱えていた。


「国王になるのはお前の兄上だろ? じゃあ、お前は必要ないじゃん」

「お兄さんとは大違いだな」


 王族だから誰も直接手を出してはこないが、「お前は無意味な存在」という雰囲気にセシルは深く傷ついていた。


 そんなとき、小さな影がそっと彼の前に現れた。


「そんなことないわよ!」


 勢いよく声を上げたのは、リリアーナだった。

 彼女は幼いながらも、その場にいた子どもたちの親をきっぱりと睨みつけた。


「あなたたち、これは立派な不敬罪ではなくて?」


「子どものしたことですしそんなに怒らなくても」


「子どもだとか大人だとかは関係ないわ。黙って見ていたあなたたちも一緒よ? 不敬罪は何を言ったか、そして本人がどう受け取ったかで立証できる。周りに王族以外の証人がいればすぐに成立するわ。私のようにね」


 その場にいた全員が黙り込む。4歳して大人と対等に渡り合うリリアーナにセシルが驚いていると、リリアーナはこちらを向いて、セシルに問いかけた。


「ねえ、あなたは悲しい?」


「……うん」


 セシルの言葉を聞いて、周りの大人たちは大慌てで子どもたちを連れて謝りに来たのだった。


 その後、セシルはリリアーナの所へ行き、感謝を伝えた。


「ありがとう」


「当然のことをしただけよ」


「どうして、法律なんて知ってるの?」


「……私はちょっと特殊なんだけど、この国には学校が無いのよね。だから大人になっても法律を知らない人が多いのよ」


「学校?」


「みんなが平等に学びたいことを学べる場所よ。学ぶ機会が平等に与えられていないから、貧しい家で生まれた子どもは貧しいままなんだわ」


 セシルは驚いた。

 同じ年のはずなのに、自分よりもずっと広い視野で物事を捉えている。


「ぼくになにか……できるかな?」


「できるわ!


 リリアーナは小さく頷き、にっこりと笑った。


「だって、王子様なんですもの!」


 セシルは、胸がじんわりと温かくなった。ずっと感じていた孤独が、ふっと消えたような気がした。


「楽しみにしてるわ!」


 リリアーナはそう言って、無邪気に笑う。セシルはその笑顔を、ずっと忘れられなかった。

 幼いセシルは、この日はじめて「自分の存在を肯定された」と感じた。


 この子のために、ぼくは立派な王子になりたい。


 この出来事をきっかけに、セシルは世の中のことを懸命に学び、孤児の存在を知った。そして「子どもたちが平等に、安心して暮らせる国を作る」という夢を持つようになったのだった。


 そして、リリアーナへの想いは、子ども心の憧れから、ゆっくりと大きくなっていった。


 ***


 ひと通り話し終えると、セシルは柔らかく微笑んでバルコニーに腕を乗せた。


「次に会えた時には、リリアーナは兄さんの婚約者になってたんだけどね」


 セシルが苦笑いする。

 私は胸が熱くなった。何も言えずにいる私を、セシルが抱きしめる。


「だから――ずっと好きだった」


 私は涙を浮かべながら、セシルを強く抱きしめ返した。


「ほら、そろそろ戻るぞ。舞踏会でお披露目があるだろ?」


「ええ」


 私は彼の手を取り、一緒に歩き出した。

 新しい未来へ向かって。

遅くなり申し訳ございません、最終話です!

みなさまここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

初めて投稿した作品でしたので、ぜひ忌憚ないご感想をいただけると嬉しいです。今後の参考にさせていただきます!

今後もよろしくお願いいたします。

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